表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Call

作者: ひろゆき

 繋がってほしい。

 話がしたい。

 声が聞きたい。

 声を聞いてほしい。

 彼女の想いが心を揺るがすほどに、握られていた受話器に力が込められる。

 想いが届いてくれると信じながら。

「久しぶり」

「うん、久しぶり。元気? っておかしいか」

「ははっ。だね。そっちは大丈夫?」

「……どうだろ。でも、今は寒いかな」

「そっちは寒いの?」

「うん。だって、雪が降ってるから」

「雪か。そりゃぁ、寒いよな。でも懐かしい。雪が降るだけで、キミはしゃいでいたもんな」

「だって、雪が降るなんて珍しいんだもん…… 楽しかったな……」

「……だな。僕も」

「…………」

「…………」

「……ねぇ、会いたいよ」

「…………」

「……ねぇ、そっちに行っていい?」

「……ダメだよ」

「……ねぇ、なんで? 私寒いよ。手、冷たいんだよ。ねぇ、手を握ってよ。暖めてよ……」

「……ごめん」

「……なんで…… なんで謝るのよ……」

「なんでだろうな。確かにもう一緒に雪も見られないって辛いよな。雪が積もるところを見たかったな。キレイだろ、そっち」

「……うん、キレイ。うん、キレ…… 見せたい……」

「……泣いてるのか?」

「……当たり前じゃん。もう、会えないんだよ。会えない」

「会いたいな。やっぱ」

「じゃぁ、そっちに行っても……」

「ううん。だから、それはダメ。いい? 僕のことは忘れてくれても構わないかーー」

「無理に決まってるじゃん、そんなのっ。そんなの…… そうなったら、私はどうしたらいいの」

「大丈夫。キミなら大丈夫だよ」

「なんで? なんでそんなこと言うの? 分かんないじゃん…… 私は……」

「泣かないで。大丈夫。顔を上げて。ほら、何が見える?」

「暗いよ、夜だもん。雪が降っていても暗い」

「大丈夫。きっと、その暗さはきっと晴れる日が来るから。心もね」

「なんでそんなこと言うの? なんで? 忘れてほしいの? 私にあなたのこと」

「…………」

「ねぇ、答えて」

「それは…… 前を向いてほしい。それだけだよ」

「……そんなこと言わないで。そんなこと…… なんで、なんで……」

「…………」

「なんで死んだのよ」

「なんでだろうな」

「なんで笑うのよ私は、私は……」

「嬉しいよ。こうやって話せたのが。こんなこと絶対に無理なことなんだから」

「私は…… もっと話したい。もう時間が……」

「ねぇ、これは奇跡なんだから。ね。だから元気出して。大丈夫。きっとキミを支えてくれる人が、ね」

「だから、なんでそんなこと言うのっ」

「決まってんじゃん」

「ーー何?」

「好きだから」

「ーーっ」

「好きだからさ」

「何それ。今さらそんなの…… もう時間が」

「だね。でもさ、好きだから、キミには前を向いてほしい。元気を出してほしいんだ。きっとキミの…… 心の…… はいつか必ず溶け…… から」

「えっ? 何? 何?」

「……ーーー」

「もう時間がないの。「前を」って、そんなの分かってる…… 分かってるけど辛い…… 大丈夫なんて…… 私…… 私……」

 凍えそうな冬の夜。雪の降る下。

 ある公衆電話は繋がる。

 繋がるはずのない相手に。

 彼女は凍える手で受話器を握り、そっと耳を傾ける。

 それは儚い時間の出来事。

 それは嬉しいこと?

 それは悲しいこと?

 通話の切れた彼女。

 雪が強まるなか、その頬を濡らす想いはどちらなのか……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ