君を失った日
「さよなら」
そう言って屋上から彼女が消えた。
グシャリという鈍い音と共に咲いた赤。
彼女の最後を世界は酷く静かに見届けた。
何が起きたんだ。
目の前で泣きじゃくる彼女の涙を拭いたくて差し出した右手を彼女は避けて。
彼女は「好きだよ」「ごめんね」「さよなら」
そういって飛び降りた。
彼女は落ちて間もなく死んだ事が後に来た救急隊員により知らされた。
どうして?どうしてこうなった?
考え続けた。
考えてるうちに彼女は棺桶の中に身を移していた。
遺族の方々、彼女と仲の良かった達、皆が泣いてる。
彼女の笑顔が写った遺影の前で線香を上げながら考えた。
わからない、彼女はどうして飛び降りた?
何か辛いことでもあったから?
いや彼女はしっかりもので問題はすべて自分で解決していた。
皆が控え室に行った中で一人で彼女のそばに残り、
死んだ彼女の顔を見ながら考えた。
誰かにいじめられていたのか?
いや正義感の強い彼女はそんな卑劣な奴らに屈したりしない。
死んだ彼女はとても冷たかった。
俺が辛い時泣きたい時暖めてくれた体温はもうなかった。
じゃあ俺か?
いや俺は彼女と喧嘩もしたことない。
お互い歯車が合っていて、ぶつかり合うことなどなかったから。
俺を元気づけてくれる笑顔の彼女はもう居ない。
この時、彼女が飛び降りてから初めて俺は涙が出た。
本当は、何も知らなかったんじゃないのか。
本当は、何か大切な大きな彼女を殺すほどの事があったのかもしれない。
俺は、ただ何も知らずに彼女の優しさに甘えていただけなのかもしれない。
俺は深い後悔に囚われた。
ただやり直したいと思った。
ずっと泣いていたからかだんだん眠気が襲ってきた。
いっそこのまま彼女に会いに行きたい。
そう思った。