本当に恐ろしいもの
俺が暮らしているグランハウルの国では身分階級が存在している。
上流階級の人間は何においても裕福だ。日々、食うに困らない。教育も十分に受けられる。将来が約束された勝ち組だ。
それとは別に下流階級の人間――平民が存在する。彼らの生活は様々で、商売で生計を立てる者もいれば、作物を作って生産者として生きる者もいる。
それと、冒険者。
彼らは冒険者ギルドに所属して、亜人や魔獣――魔物を殺して生計を立てる。
夜盗くずれや荒れくれどもの集まりが殆どで、気性の荒い奴らばかりだ。もちろん訳ありの奴もいるだろうが、他人から見たらそんなのわかったモンじゃない。
自分たちの生活だけで精一杯なのに、余所を気にしている余裕なんてない。
そして国は、そんな彼らを放置して黙認している。面倒事を引き起こすが、それでも国の脅威になりつつある魔物退治に一役かっているからだ。
正規の軍隊を投入するよりも、社会のクズにも似た奴らが命を張ってくれるのだから、手間が省けるというところだろう。その証拠に、国はギルドに助成金まで出して『冒険者』を推奨している。
国のやり方は気に食わないが、かくいう俺も生きるためにその恩情に預かっているのだからあまり文句は言えない。
「さて、今日の依頼は……」
ミルに留守番を頼んで家を出た俺は、冒険者ギルドに赴いていた。
大抵の冒険者は金を稼ぐために依頼をこなす。命の危険はあるが、ギルドで依頼を受ける方が効率が良いからだ。それが大半で、あとは腕試し。そんなものだろう。
けれど、俺はそれらとは違う理由で冒険者をやっている。
この世界には人間の生活圏に属していない場所には大抵、魔物が住み着いている。彼らは、自分たちのテリトリーを犯す事がなければ、基本的に人間を襲うことはない。
それでもイレギュラーは存在する。そういった人に仇なす魔物を討伐するのが冒険者の仕事だ。
それとは別に、魔物の巣窟になっているダンジョンが冒険者ギルドがある町外れの森の奥にある。いつからそこにあるのかは分からないが、そこに住み着いている魔物の定期的な駆除も冒険者の仕事の一つだ。
俺が冒険者をやっている理由は、そのダンジョンの最深部。そこに居ると噂されるダンジョンマスターとやらに会うためだ。会って亜獣化症の治療法を聞き出す。
詳しくは知らないが、魔物を統べているんだから魔族の生態には詳しいはず。
何かしら手がかりは得られると信じて、こうして依頼をこなして金を貰うついでにダンジョンに潜り続けている。
手頃なところで、死人討伐の依頼を受ける。
死人、といっても種類は様々でスケルトンやグール、ゾンビと言った死霊を総じて死人と呼んでいる。死霊系の魔物が多いのはこのダンジョンの特徴の一つだ。
ダンジョン内部では人がよく死ぬ。
要因としては魔物に襲われたり、冒険者同士での殺し合いだったり。意外かもしれないが、後者は割とよく聞く話だ。
冒険者はガラの悪い連中が多い。仲間内で揉めて殺されるなんてこともあると聞く。
ダンジョン内では誰が死んだなんだ、という話は日常茶飯事だ。それが魔物によるものか、それとも人の手によるものかは大抵判断が付かない。
そういった死骸が、魔物に転用されているのだろう。
スケルトンやグールに遭遇すれば、彼らは決まって武具を装備している。それが元冒険者の遺品、もしくは生前使用していたものだと言うことは一目見れば見当が付く。
ミイラ取りがミイラになる、とはよく言ったものだ。
死人討伐の依頼は最低のFランク。比較的上層に出てくるから狩りやすいし、それほど強くはない。肉も骨も腐りかけなぶん、すんなりと刃が通るから初心者には人気の依頼だ。
稼ぎ目的ならばあまり旨いとは言い難いが、俺の場合はこれくらいで十分だ。
依頼を受けたら、あとは適当にパーティーを組んでいる奴らに声を掛けて入れて貰うだけ。ソロでダンジョンに潜るのも良いが、それだと効率が悪い。
俺の目的はダンジョンの最深部へ辿り着くこと。出来るだけ無駄な戦闘はしたくないし、体力は温存しておきたい。そのためには仲間を利用した方が何かと得だ。
けれど、そうした場合メリットだけではなく、デメリットもある。
信頼してない仲間に背中を預けることほど危険な事はない。裏切られて背後からグサリ、なんて想像に難くない。だから、目的の為にパーティーは組むが信用はしない。それを念頭に入れておかなければ早死にする。
本当に恐ろしいのはバケモノじゃない。人間なんだ。




