面目まるっと丸潰れ
街を出て、東の森へ向かう。
これまで冒険者を生業としていたが、俺が受ける依頼はもっぱらダンジョン内の魔物の駆除だった。あそこのダンジョンは難易度的にはそんなに高いわけではない。初心者向けといって良いだろう。だから魔物相手でも苦戦はしなかったのだが、外の世界では話が違う。
野生の魔物は弱肉強食だ。生存本能が高く、それ故にダンジョンにいる魔物とはレベルが違う。生半可な気持ちで足を踏み入れたが最後、生きては帰ってこられないだろう。
――と、慎重を期して森の中を進んでいるが、どういうことか魔物の気配を感じられない。それどころか野生動物の姿さえないように思える。やけに静かだ。
ミルがこの森に潜んでいるからだろうか。
野生の弱肉強食っていうのは人間社会のようにややこしいしがらみはない。単純に強い者が上に立つ。
ドラゴンといえば強さの象徴だ。それはどうやら野生にも適応されるらしい。
静かすぎる獣道を抜けると開けた場所が見えた。その奥には探していたミルの姿が見えた。
寝ているのか。動かずにじっとしている。
急いで近づこうとして駆けだした――その直後。後方から物音と話し声が聞こえてきた。
咄嗟に近くの茂みに隠れてやり過ごす。
通り過ぎて行ったのは冒険者の一団だった。その様子を息を殺して草陰から伺う。
前衛にタンク役の戦士二人、後衛に魔術師二人。聞こえる会話から察するに、ドラゴンを探してここまで来たみたいだ。
だったらあいつらは俺の敵だ。生かしてこの森から出すわけにはいかない。と言っても、4人相手は流石に分が悪い。無策に突っ込んでいっても勝てる見込みが無いのは分かりきったこと。
奇襲のタイミングを見計らっていると――
「グオオオォオオォオ!」
身を竦ませるほどに苛烈な咆吼が木々を揺らす。
次いで、前方から凄まじい熱気が伝わってきた。これは俺も一度経験したものだ。ミルが接敵した冒険者に炎を吐いたのだ。
「マジックウォール!」
吐き出された炎に合わせて、魔術師が障壁を張った。あれで炎の壁を耐えてから攻撃に転じる。そういう作戦だろう。
だったら俺も、それを利用させてもらう。
作戦は至ってシンプルだ。ミルの攻撃を防いでいるところへ背後からの奇襲。気を抜けない状態では、背後にまで警戒は出来ない。
第三者の攻撃に、奴らは対応出来ないだろう。今この瞬間が一番の狙い目だ。
瞬時にそう判断して、俺は動き出した。
潜んでいた草陰から飛び出して、最初に狙うのはパーティー内で一番厄介な魔術師。剣を抜いて、斬りかかろうとした。その瞬間だった。
突如、空中に赤い光線が閃く。目を開けて居られないほどの眩しさに立ち止まると、冒険者たちの前方に、円を描くように幾何学模様が浮かび上がった。
魔術に疎い俺でもあれが何かくらいは分かる。かなり高位な魔法だ。
初歩的なものなら意識を集中するだけで発動するが、難度が上がるとああして術式を組み込む必要がある。そんな明らかにヤバそうな代物が眼前に現れた。
本能がここに居るのは危険だと告げている。けれど、危機を察知しても身体は咄嗟に動くようには出来ていない。
次の瞬間、鳴り響いた轟音と爆風に身を守るために屈み込む。逃げようとか、この場所から離れようなんて考えは浮かばなかった。そんな暇はなかった。それは俺の数歩先に居た冒険者たちも同じだろう。とにかく、一瞬の出来事だったのだ。
爆音のせいで耳鳴りが凄い。眩い光に景色も白く焼かれたままだ。それでもなんとか目をこじ開けると、次第に慣れてくる。
数秒経ってやっとの事で認識出来た視界には、何もなかった。俺の目の前に居たはずの人間が一人も居ない。地面に焼け焦げた跡があるだけだ。
昔、俺が覚えた片手間にミルにもさわりだけ教えてみたことがあった。元から魔術の才能があったのか飲み込みが早く、しかも俺よりも精度も威力も高いという兄の面目丸潰れという結果になった過去があるけれど。
流石にこれはやり過ぎじゃないか?




