やっと島から出ました。
玄関を出ると、夜だった?
「ん?これは何?空は、夜だよね。でも、景色が見えるんだけど」
リカさんは、微笑む。
「これが、夢の世界の普通です。光っているのは、それぞれ個人の島です。なぜ、景色が見えるのかについては、後日説明します。まずは、島の端まで行きましょう」
そう言って玄関から続く道を歩き出す。
玄関を出ても、庭はなかった。単なる道。アスファルトが伸びている。ただ、右手には、日本風の庭があった。左手には、畑がある。
これは、どういうことなのか。リカさんは、庭は外用の顔だと言った。外用なのに、畑をしているって、完全に俺の欲望の世界。退職したら、田舎でスローライフを楽しみたいという。俺の夢。ここで、かなっている。
リカさんは、どんどん先に進んでいる。小走りで追いかける。
目新しいというか、自分の心がよく分かって、新鮮というか、どうしても気になってしまう。
その後、信じられないことに、丘を越えた。確か、島の大きさは、その人の器の大きさって言ってなかったか?人間性の幅とか。俺の自虐ネタは、「俺の器は、ペットボトルのキャップなんでね。すぐにあふれるんだよ」と言って、腹が立つことをごまかしてきたのに。
これは、ちょっと嬉しい。まぁ、1分は歩いたか。リカさんの足が止まる。
「ここが、島の端です」
「俺の器って、ちょっと大きい?」
つい人と比べたくなった。おそらく、上位に食い込むんじゃないだろうか。
「いえ、普通です」
リカさんは、平常運転。見誤ったか~。
ちょっと、固まる。
「まぁ、そうだよね。長生きされている方だっているんだし」
そう、でも、長生きしている方には、勝てない。仕方ない。
俺はまだ30代。平均寿命80歳の日本で、半分にもいっていない。
そりゃ、平均には、届いていないだろう。
「むしろ、ちょっと小さいくらいです。同年齢の方と比べても」
とどめですね。それ。
「ちなみに、中学生くらいの子でも、もっと大きい子もいますよ。タカさんの島は、だいたいドームにすっぽり入るくらいじゃないですか」
いや、知らないよ。外から俯瞰したことないからね。
「で、私が見た中で1番大きかった中学生は、ドーム2つ分くらいありました。ちなみに、支部長さんは、町が1つ2つ入るくらい大きいですね。」
傷口をえぐって、塩をぬりたくるね。君!
これ、絶対わざと言ってる!
「ふふふ。ごめんなさい。大丈夫ですよ。極端に小さいわけではないですから。それに、島の広さが、その人のすべてを表すわけではありません。島の広さもありますが、その深さも大切です」
「ありがとう」
うなだれた顔をあげながら、リカさんを見る。
「さて、では本題です。この島の端を見てください」
指さされた方を見ると、島の端があり、すぐに暗闇がある。古代の人が思い描いていた海の端を、地面にしたような感じだ。
「その下に、鎖が見えませんか?」
「あぁ、見える」
島の下から、鎖?が伸びている。どこに続いているのかは、分からないが、銀色の鎖が真っ暗な世界に続いている。でも、鎖というより、クリップをつなげたような、すぐに外れそうな鎖だが。
「この鎖が、人とのつながりです。この鎖は、かなり細いです。タカさんの友達との鎖なら、もっと太いと思いますよ。また、探してみてください。
この鎖は、支部長さんの声に反応した人に、ひっかかる鎖なんです。ですから、私は、支部長さんの島から、この島まで、この鎖をたどってきました」
「なるほど、そうすると、知らない人の島でも、行くことができるわけだ」
「その通りです」
なるほど、人と人とを結びつけているのが、鎖とは面白い。確かに、人間関係は、鎖のようなものだ。自由がなくなる代償もあるが、それを上回る充実感や安心感がある。これなら、役職などの鎖は、会社とつながっているのだろう。がんじがらめに縛られている様子が、すぐに想像できる。
「鎖を使って、俺の島に来たのはわかったけど、どうやって来たの?こんな鎖につかまってこられるとは、思わないんだけど」
「宙を飛んできました」
「飛べるの?」
「飛べます。だって、夢の世界ですから。防御の次は、飛行です。それができてもらわないと、訓練施設がある島まで、移動することができませんから」
簡単に言ってくれる。飛行機には乗った。パラグライダーもした。でも、生身で飛んだ経験はない。
「大丈夫ですよ。私たちは、渡り人。人の夢から夢へと渡る存在なんです。鳥が習わなくても空が飛べるように、渡り人は、想像するだけで、すぐに飛ぶことができます」
本当だろうか。しかし、さっきの防御だって、意外に簡単にできた。やってみるか。
「では、また起こしたい現象を言語化してみましょう。きっとすぐにできます」
俺は、唇をなめて、目をつぶり想像する。
「俺の体は、重力の鎖から解き放たれ、意思の力で推進力を得る。いくぞ」
ジャンプした。すると、たちまち加速して、島の外へと飛び出した。
「できましたね」
リカさんが、ついてくる。
「あぁ。なんとか」
「では、訓練学校に向かいましょうか」