島の所有者
俺だって、家をいつかは建ててみたいと妄想したことなど、何度もある。
妄想だから、豪邸にした。
そうなると、どれほど防犯システムが必要かも考えた。
しかも、ここは夢の世界。
異世界チート的な防犯システムだって、できるはず。
まずは、物理的な防御。
精神的な防御。
そして、防犯と言えば、番犬。ガーディアン。ゴーレム。
風変わりな執事やメイドもほしいな。
などと色々考えていたら、つっこまれた。
「あの~、とりあえず、さっきの条件で発動してもらえませんか?絶対最強!的なやつで十分ですから」
ロマンが消える。
「いや、だって、完璧にしないと、まずいでしょ?」
「基本、他の人の島には、入ってこないので大丈夫ですよ。だって、この島の世界では、タカさんが最強って決まってますから」
「そうなの?」
「まぁ、例外もありますけど、基本、自分の心ですからね。よく言うじゃないですか。過去と相手は変えられない。変えられるのは自分だけって。あっ!言語化はしてくださいね。それで、イメージが補強されますから」
「分かり、、、ました」
なんか、むなしい。でも、な。今はこれでがまんしよう。
「では、リカさんと、俺以外は、絶対に入れない防御よ、完成せよ」
言うやいなや、何かが体を通り抜けて、完成した感じがする。
「完璧です。ちなみに、今後、色々改造を施してもらって結構ですが、他人が訪ねられる環境も整えておいてくださいね」
「了解。しかし、意外と簡単なものだね。想像の世界って言うから、もっとイメージしないといけないかと思ったけど」
「あぁ、それは、ここがタカさんの島だからです。自分の島だと、基本は、自分のイメージ通りになります」
「ん?じゃあ、自分のイメージ通りにならないこともあるの?」
「はい。自分で、自分がコントロールできていない時は、イメージ通りにいきません。簡単に説明すると、反抗期の子供たちですね。まぁ、見れば分かります。島がぐちゃぐちゃですから。でも、それを通して、島が大きくなり、心が成長しますからね。あれも必要なのかもしれません」
「なるほどね。でも、最近は、反抗期を迎える子が減ったとも聞いたけど」
「らしいですね。どうなんでしょうね?それと、全く想像できないことも、できまんせんよ。例えば、自分の体の悪い所よ、光って教えよ。って言っても、悪い所は光りません。だって、悪い所が分かっていないんですから。まぁ、意識した所は光るかもしれませんが」
「なるほど。夢の世界でも、色々と制約があるわけだ」
「ええ、だから、あまり無茶はしないでください。例えば、刀で自分の腕や足を切って、再生させるとかもです」
「なんで?それは、想像できそうだけど」
「再生していく場面をちゃんと想像できますか?いくら、自分の島だからと言って、無茶をすると、死にますよ」
「ええ?夢の世界なのに死ぬの?」
「もちろん。死にます。だって、寝てるんですよ。そのまま、目が覚めなければ死んでいるのと変わりませんよね」
「つまり、植物状態になるってこと?」
「それは、人によるそうです。植物状態になる人もいれば、何らかの病死になる人もいるそうです。私も見たことはないので、詳しくは知りませんが、夢の世界で死ぬことは、おすすめしません」
血の気が引いた。
「そうします」
「そうしてください。現代人は、医学とインターネットが発達し過ぎてて、イメージが強力なんだそうです。体内に血が流れていることも知っていますし、骨と筋肉についても理解しています。だから、リアルに想像できてしまうので、ファンタジックな回復や復活がしにくいんです」
「はい」
確かにそうだ。寝ている人と、亡くなった人の差は、次に目が開けられるかどうか。気を付けよう。
「素直でよろしい」
リカさんは、ここで少し微笑むと、自分の両手を胸の前で祈るように、にぎった。
「何をしているの?」
「行きます。はい!」
掛け声とともに、手を開くが、何もない。
「一体何?」
「次のステップです。では、もう一度いきます」
「次こそは、花を出してみせます。タカさんの渡り人への就任祝いです」
そう言うと、胸の前で手を閉じて、力を入れているように見える。
「では、出します。結婚式みたいで、ちょっと恥ずかしいかもしれませんが、私からのお祝いです。はい」
手を開くと、今度は、花びらが飛び出して、俺の頭にかかってくる。
花びらが落ち切ると尋ねる。
「これは、何?」
「ステップ2。他者との共有です。実は、最初も心の中で、私は同じことを言ってました。声には出していませんでしたが」
「なるほど。でも、2回目は声を出した。それによって、俺がイメージした。だから、本当に出てきたわけか」
「その通りです。他者の島では、このように島の所有者のイメージを借りなければ、自分のイメージを創造することは、かなり困難です」