自分の心は、知っているけど、見たくない。
リカさんについてドアを出ると、五角形の部屋に出た。1つは、普通のドア。でも、あとの4つは、ど~見ても、読書の傾向が出ている。
1つは、人生啓発系。偉人のフォトやら、格言やらが、そのドアの周りに飾られている。ガンジーが、ドアの中心にいるのは、俺が尊敬している人だからだろうな。まぁ、これは、いい。
2つ目は、歴史系。武将やら、武器やらが、いっぱい。これもいい。自衛隊やら、米軍の武器があるのも、お愛嬌だ。
3つ目は、マンガ。系統もあったもんじゃない。統一感がない。唯一括れるとしたら、マンガという括りだろう。
そして、4つ目。俺が出てきたドアは、なろう系で、転生もの。そのドアには、ヒロインたちのポスターが、べったりと。
固まるとは、こういう事だろう。俺の欲望が、よく表れていますよ。そりゃ、一人で、これを眺めてられるのなら、最高だろう。
でも、、、
「分かりましたか?」
リカさんが、後ろから声をかけてくる。
そう、他人が居る。この部屋は、完全にプライベートだわ。
振り向くのがイヤ。自分の本心を知られるって、恥ずかしい。いや、もう、本当に!
切実に!
「大丈夫ですよ。この部屋以外は、行っていないですから」
フリーズ!
説明プリーズ!
いや、分かる。これが、俺の精神世界だとしたら、この部屋は、読書部屋だろう。
俺の読書に対する想いやら、気持ちやらが、具現化している。
で、
俺は、読書だけして生きているわけではない。
飯も食う。
仕事もする。
風呂にも入る。
趣味だってある。
もちろん、夜の生活だってある。
過去には、女性関係も・・・。
あ~、考えたくない。
それら全てが、こんな風に具現化しているのか!
こんな風に露骨に出ているのか!
なんてこった。
「大丈夫ですよ。みんな、最初はそうなります」
「ありがとう。大丈夫じゃないけど、大丈夫」
とりあえず、肩を落としていても、仕方がない。次に進まないと。
家の中は、後で確認しよう。
今は、情報収集が先決!
「よく分かりました。自分の本心が具現化しているのが、この夢の世界なんですね」
「はい。夢の世界は、本心が映し出されます。毎晩、みなさんは、自分の夢を叶えるべく、自分の島を整えています」
「なるほど。つまり、俺は転生したいとか思っているから、あの部屋は、転生部屋になっていた、と言うか、転生部屋にしたのか」
「そうですね。因みに、先程タカさんが立っておられた後ろにもドアがあって、異世界に通じてましたよ」
「・・・そうですか。夢の中で、楽しく異世界ごっこをしていたわけだ」
あまりの子供っぽさに、もはや笑うしかない。しかし、そこで気付く。彼女は、こんなにあからさまな性癖を見ても、あまり嫌悪していない。
「もしや、同類?」
「はい。私も、なろう系大好きです。さすがに、現実世界でコスプレはできないですけど、夢の世界なんで、思い切ってやってみました。恥ずかしかったんですけど、似合ってますか?」
これ以上ないってくらい似合ってるよ。
「似合っていますよ。最初、本当に女神様かと思いましたからね」
てか、今のフレーズ、どっかで聞いたこと、いや、読んだことあるぞ。
「そのセリフ」
「分かりました?本当に、なろう系好きなんですね。そうなんです。私の好きな小説の女の子のセリフです。まぁ、今のセリフは、女の子ならよく言いますけど、仕草とか、言い方とか、寄せてみたんです」
あ~、こいつ、俺よりガチ勢かも。
しかし、本心を知られるのは、恥ずかしいと思ったが、ある意味、楽なのかもしれない。
こんな風に、普段は口にしない面も、一発で分かる。現に、彼女がなろう系が好きなことを俺は知っている。しかし、現実世界で、目の前の女子がなろう系好きなのかを知るのは、かなりの時間が必要だろう。いや、下手したら、知ることがないままかもしれない。
でもね。やっぱり、アウトだわ。この部屋は、まだセーフだ。でも、他にも絶対に人には知られたくない事だってある。それが、具現化してるんだから、絶対に人には見られたくない。
「この、人の家に入るって」
俺の言葉の終わらぬうちに、リカさんが話し出す。
「ええ、ごめんなさい。失礼なことをしました。本当は、家の外で待機なんです。家の中は、本心にあふれていますから。反対に家の外は、外用の顔になっています。だから、渡り人のマナーとして、人の島には入ってもいいけれど、人の家には入ってはいけない。となっています。それに、他人の島に入るのは、危険でもありますしね」
「危険?」
「ええ、昨日のタカさんのように、襲ってくる人もいますから」
思い出して、顔から火が出るとは、このことだろう。
穴があったら、入りたいです。
「あれは、ごめんなさい。完全に私が悪いんです。だって、勝手に入ってるんですから。それに、そんな服装もしていましたし」
「そう言ってもらえると」
「と、言うことで、おあいこにして、水に流してください」
何か、上手くまとめられた。でも、その方が助かる。
「今後、他人に家の中に入られないようにする方法もお教えします。」
「ありがとう。よろしく」