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第97話 ふざけるな!『四解文書』の解明は国連軍の最優先事項だ。

 リョウマが炎につつまれた瞬間に、ブライトは大声で叫んでいた。

 自分でも意識していない狂気が入り交じったような悲鳴。

 目の前で自分の希望が燃えていく。手に入れかけた「力」が「夢」が「将来」が灰になっていこうとしている。

 ブライトは前につんのめりながらリョウマに走り寄ると、ジャケットを脱いで、その火を煽いで消そうとした。が、目の前でのたうち回っているのは、すでにリョウマではなかった。炎に苦しむあまり、本来の姿にもどっていたそれは、見たこともない女性とも男性ともつかない人物だった。火をふりはらおうとするあまり、その手を大きな羽のようなものに変形させて、ばたつかせている人間大の鳥のような生物にすぎなかった。

 だが、そんな姿になっても、まだ情報は聞きだせるはずだ。

 ブライトはジャケットを押しつけようと近づいた。が、横からだれかにぶつかられて、勢いよくうしろにひっくり返った。ふいをつかれて倒れたブライトは、自分にぶつかってきた人物を見あげた。

 草薙素子だった。

 黒くすすけた顔には、頬や額にキズを負い、その右肩口が赤く染まっていて、その手に握られたマルチプル銃の先からは、炎があがっていた。

 ブライトはぼう然として、その姿を見た。

 草薙大佐がマルチプル銃をその場に荒っぽく投げ捨てると、腰から銃をひきぬいて構えた。

 ブライトは大声で「やめろ!」と叫んだが、間に合わなかった。


 草薙は瞬時に六発の弾丸を放っていた。

 ブライトにはそれが全弾命中したのがわかった。彼女が至近距離で一発でもはずすことを、自分に許すわけがない。

 一瞬ののち、リョウマが頭と胸から血を吹きだして崩れおちた。

 草薙がゆっくりと近づいていく。

 すでに炎は消え、くすぶるだけになっていたが、まだ銃を構えたままで、警戒を解こうとはしない。

「草薙大佐!。なぜ撃った」

 ブライトは大声で怒鳴りながら立ちあがると、死体を牽制している草薙の元に近づいた、

草薙は構えていた銃を、胸元のほうにひいた。

「なぜ撃った、とは?」

「君はなにをしたのか、わかっているのか」

「はい。ヤマトタケルの命を救いました」

 よどみなくそう答えた草薙に、自分のなかの落胆や怒りをどう発露していいかわからず、。ブライトは大声を出していた。

「ちがう!」

「君は今、『四解文書(しかいもんじょ)』の秘密が解明されようとした瞬間をぶちこわしたんだ」

「それが何か?」


「ふざけるな。『四解文書』の解明は国連軍の最優先事項だろうが!」


 草薙は怪訝そうなまなざしでブライトを見た。

「私の任務は、ヤマトタケルを命がけで守ることです。それ以外はありません。先ほど、あなたはわたしをそのことで責められましたよね」

 ブライトは二の句が告げなかった。奥歯をぐっと噛みしめた。噛みしめていなければ、この場で狂ったような咆哮をあげてしまいそうだった。

 その様子をみて、草雉はブライトからそれ以上の言葉はないと判断したのだろう。くるりと踵を返すと、床に座りこんだままのヤマトのほうへむかい「大丈夫?」と声をかけた。

「大佐、助かったよ」とヤマトが答えた。

 ブライトはその心から安堵したようなヤマトの横顔をみて、ふたたび苛立ちをつのらせた。その『助かった』には、文字通り命が助かった。ことよりも、四解文書の内容がばれなくて助かった、という意味の方が大きいはずだ。

 もうすこしで、あともうちょっとで、世界中の誰もが手に入れたがっている究極の「切り札」を手中にできたかもしれないと思うと、残念や悔しいというありきたりの表現では、自分を納得させられないなにかが胸にわだかまって仕方がなかった。

 ブライトはふと、頭の中でリマインダーのアラート音が鳴っていることに気づいて、我にかえった。網膜デバイスに出撃時間がさし迫っていることが表示されていた。 

 ブライトは嘆息した。

 気持ちはおさまらなかったが目の前にやらねばならないことがさし迫っている。

 ブライトはヤマトとアスカに出撃準備にはいるように命令しようとしたが、ヤマトがアスカに呼びかける声にはっとした。

 ブライトが声の方に目をむけると、祭壇のヘリにしがみついて、ガタガタと震えているアスカの姿があった。顔色は青白く、目が細かく動き、視線はそこかしこに飛んでいた。おそらくあらゆるところを見ているが何も目にはいっていない目つきだ。体は床にへたりこんだまま、小刻みに震え、まともに動けるどころか、一人で立ちあがることさえ困難なように思えた。

 ブライトは、まだわずかに煙がくすぶっている、リョウマだったものの死体に目をやった。アスカの異変は、これが原因なのはすぐにわかった。

 たったいま、自分の兄が炎に包まれたうえ、射殺されたのだ。

 

 それをいくら違うと否定しても、アスカにとっては、それが目の前で起きたことなのだ。

 

 残念だがアスカはもう使いものにならない、とブライトは判断した。


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