第73話 わたし、死体に命令された
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イズミシンイチの証言を受けて、容疑者が右手里実所長に絞られた。
だが、捜査三日目の捜査会議でも、これといった成果はもたらされなかった。
捜査員たちはライブカメラやテレパスラインを通してとは言え、一人あたり数十人にもおよぶ聞き込みをおこなっている。ほとんどの犯罪が未然に防がれるこの時代において、今どき『聞き込み』などという、前時代的なことをよくこなしている。
草薙は各員からの捜査報告を会議室の最後列に座ってききながら、そう思った。
会議を正面の真中の席に陣取って、とりしきるトグサ兄が最前列の分祈官に声をかけた。
「まだ、右手里美の生体チップのビーコンは見つけられないのかね」
その分祈官はこの二日間答えてきたのと同じ口調で答えた。
「ええ、見つかりません。おそらくヘルメット型のジャマーか何かを装着して、電波や起磁波が漏れないようにしていると思われます」
トグサ兄は面倒くさそうに、手のしぐさだけで分祈官に着席を促した。
兄の横に立つトグサ弟が捜査員たちをひとしきり見渡すと、正面に大きく投影された支部の館内図を指さしながら言った。
「支部内のほとんどの部署内の捜査は終ったので、明日からは外部の納品業者や委託会社の方へも捜査範囲を広げる」
「各員、本日も遅くまでご苦労だったが、明日もよろしく頼む」
そう言われて何人からの捜査員が正面横に設置されている、デジタル時計に目をやるのがわかった。時刻は二十二時をとっくに回っている。早朝から駆り出されているはずなので、なるほどなかなかに良くやっていると、草薙はひとりごちた。
その時、ビーッというが高い音とともに、正面に投影されている館内のマップ上に赤い点が点滅をはじめた。
トグサ兄が大きな声で怒鳴った。
「なんだ。これは」
問いかけられた捜査員もわけがわからず、回りの仲間たちの顔色をさぐっている。
草薙はその中で先ほどの分析官だけが呆然とした表情で、マップを見あげているのに気づいた。彼とは面識もなく、テレパスラインやニューロンストリーマで、脳に直接語りかけることもかなわなかったので、草薙は大声で直接問いかけた。
「分析官、どうした!」
分析官はふいにうしろの方から呼びかけられて、ふらふらとした様子で、草薙の方をふりむいて言った。
「右手里美が見つかりました」
彼は正面のマップを指さして言った。
「シミュレーションエリア内の人工の街の中にいます!」




