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第60話 自分は諦めの悪い生き様しかできない男だ

『四面楚歌』ーー


 中国の古い故事にならえば、今自分がその状態のまっただなかにいることは、疑いようのない事実だった。

 ブライトは敵しかいない、この公聴会という名の儀式の『(にえ)』であることは充分理解しているつもりでこの場に臨んでいたつもりだった。だが、こうやって、この場に実際に立ってみると、そんな高邁な理由づけなどない、ただの『生き餌』にすぎないのではないか、と感じられて、足が震えた。

 ブライトはぐるりと周りを見回した。すり鉢状になった議席は、まるでコロシアムのようだった。この場所もその中心で繰り広げられる残虐な行為を、どこからでも見られるように席が配置されている。その議席の並びに沿うように、国連幹部の文官と、国連軍幹部の軍人とが、空中に大きなホログラフとなって映し出され、中央に引きずり出されたブライトを、取り巻くように中空から見下ろしていた。

『生身のまま来ている者は誰もいないのか』

 ブライトは不平ともつかない言葉を頭に浮かべた。  

 もちろん、自分自身も生身ではない。数千キロ離れたこのスイス国連本部に身を晒しているのは、自分の意識を憑依させた『素体』と呼ばれるアンドロイドだ。だが、このコロシアムの臭い、空気がよどんでさえ感じられるズンと重々しい空気感。まるで生身でそこに立っているのとなにも変わらない。

 だが、もし自分を斬首するつもりで彼らが呼びだしたとしたのなら、その『死』はだれかひとりでも生身の目で直視するのが礼儀であろう、とも思う。

 国連事務総長が口を開いた。出撃があるたびに「SOUND・ONLY」のアイコンとともに流れてくる聞きなれた声。しかし、この日は決定権者として顔を見せていた。まるでおのれの威厳をほかの参加者に見せつけようとでもするように、ことさら厳めしい顔をしていた。

「さて、ブライト君、今回のデミリアンが亜獣に乗っ取られた一件について申し開きを聞こうじゃないか」

 ブライトが予想していた通り、案の定、高圧的な物言いで機先を制しにきた。これで、むこうは、マウントポジションを取ったと考えているだろうが、そうはいかない。

「なんのでしょうか?」

「きみの失態で、デミリアンを一体、そして優秀な新人パイロットを一名、うしなった件のことだよ、ブライト君」

 ひとりの中年男性が加勢するように、事務総長のことばをあと押しした。おそらく次期総長の座を狙う候補のひとりなのだろう、とブライトは値踏みした。

「失態?、失態とは?」

「いいかげんにしたまえ。九体、いや、八体しかいないデミリアンを一体、うしなったのだぞ」

 ブライトは上にむかって大きな声で言い放った。

「まだ、七体もあるではないですか!。あなたがたは、その数では足りないというのですか?」

 ブライトはこのハゲタカどもに、ついばまれながら、ゆっくりとなぶり殺しにあう前に、みずから非を認めてキャリアに幕引きするか、どんな屁理屈を駆使しても自分を正当化するかしかない、と腹を括っていた。そして、自分は後者を選択する、諦めの悪い生き様しかできない男であることも知っていた。

「もちろん、デミリアンとパイロットをうしなったことは、痛恨の思いです。ですが、パイロットは今、三人いる。すこし前まで、あのヤマトタケル、ひとりであったことを考えれば三倍もの戦力強化ができている。そしてデミリアンはたった三人のパイロットに対して七体も残っている。これで戦うのに、なんの不都合がありますでしょうか」

「くだらん言い逃れを……」

「わたしが司令官を辞すれば責任をとったことになるのであれば、そうしてください。だがここにおられる方々は、まだ事態が収束していない状況で、わたしがすべてを放りだし、敵前逃亡するような真似をお望みなのですか?」


「だーれが、そんなことを?。そんなこと、あなたに臨んでなんかないわぁー」

 突然、女性の軽やかな声が場内に響いた。


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