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第47話 レイ……、よくも……殺してくれたわね……

 ブライトはぎりっと奥歯を噛みしめた。

 また、神名朱門の名前が自分を追い込もうとしている。

 彼にはヤマトの横になにも見えなかったが、ヤマトには間違いなくそれが見えているのだろう。だが、レイも同時に幻影に掴まったと聞かされた今では、アヤトの一件での嫌な思いを感じている余裕もなかった。ブライトはリンにむけて咳払いをした。

「リン、策があると聞いていたが、どうすればマンゲツとサターンをこの呪縛から解放できる?」

「策はないわ。ただ、前回のようなことにならないよう応急処置はしたつもり」

「アル!」

 リンがアルに声をかけた。ホログラム映像で空中にアルが投写された。腰から上しか見えなかったが、ブライトはアルがシートに腰掛けていることに気づいた。

「あいよ」

「万が一の時は、すぐに回路を切り替えて。あなたに操縦をまかせるわ」

 ブライトはそのやりとりに耳を疑った。生粋の日本人、しかも95%以上の純度を持つ者しかデミリアンを操作できないというのが常識だったので、そんなにも安易に操縦云々を口にしたことには驚きしかなかった。よく見るとアルはデミリアン用の操縦席を改良したようなシートに座っていることがわかった。

「リン、こんな装置で操縦できるのなら、わざわざ純血の子供たちに頼らなくていいじゃないか」

「まさか。私たちみたいな混血が、あの子を操縦できるわけないでしょ」

「すまねーな。ブライト司令。そうじゃないんだ」

 アルがしゃしゃりでて答えた。

「いや、しかし、今、操縦って言って……」

「あの装置は動かすんじゃないの。これはあの子たちを押さえつけるための装置」

「わりぃな。いざという時こいつで、あいつらの暴走だけは食い止めようっていう腹だ。俺たちがやれるのはそれくらいなんでね」

 ブライトは身体中にわきたった期待が急激にしぼむのを感じた。

「だが、パイロットが……、もしパイロットが取り込まれたら……どうするつもりだ?」

 リンが余裕の笑みをブライトにむけた。

「安心して、ブライト。おなじ轍は二度と踏まないわ」

「もし、パイロットがデミリアンに取り込まれたとしても、シートごと強制射出できるように改良しているの」

 強制射出だと……。

 ブライトはこのおんなの口から、当たり前のように残酷な解決法が飛び出してきたのが、信じられなかった。

「いや、しかし……、そんなことをしたら、パイロットは……」

「あら、両方うしなうような失態をくりかえさずにすむでしょ」

「わたしは万が一の時、デミリアンの方を、あの子たちの方をとる。それだけの話」

 ブライトはリンがヤマトの狂気にあてられたのではないかという思いに恐怖すら覚えた。

 いや、そうではない。

 いつもはっきりと白黒をつけてきたではないか、この女は……。自分が取捨選択されない側にいたから、その容赦のない決断に気づかなかっただけだ。彼女から一度心が離れて価値のないものと判断されれば、それは一顧だにすることもない、塵芥ちりあくたと見なされるのだ。

 それは、パイロットであっても、元恋人のブライト自身であってもだ。


  ------------------------------------------------------------

 

 レイは大きく目を見開いた。ヤマトとことばをかわしているほんの数秒の合間に、女は自分の背中に覆いかぶさってきていた。

 女はレイの耳元にぴたりと口元を寄せて囁いた。

「レイ……、よくも……殺してくれたわね……」

「そ、悪かった?」

「あなた、わたしのこと、口汚くののしったわ」

 女がくわっと目を見開き、ヒヒヒヒと聞こえるような不気味な笑い声を漏らした。口元からは血がだらっと滴り落ち、レイの肩口を血で染めていく。

「おまえが邪魔でしかたなかったからね」

 レイは操縦桿をひくと、セラ・サターンを前進させた。亜獣アトンがいつ戻ってきて奇襲をかけられるかわからない。ぼうっとしていていいわけがない。

「レイ……、安心なさい。あの化物はもう戻ってこないわ。ずうっと私とレイのふたりきりでいられるのよ」

 ふいに女の口調が変わったことに気づいて正面のモニタに目をむけると、自分の肩口から手をまわして抱きついているのは、綺麗だった頃の母親の姿だった。若返りのドリンクを飲んで、もらい物の化粧ロボットに映画スターをまねた化粧を施してもらい、その当時流行していた服を着て、めかしこんだ母親がそこにいた。

「レイったら、お母さんにすこしは構ってよ」

 母がことばを紡ぐようにやさしく言った。レイの心のなかに、なにか懐かしくて、暖かなものが灯ったような気がした。

『ダメ!。信じちゃ』

 レイはあわてて強い意思で、その心地よさを否定した。レイは目を閉じると、心のなかでヤマトから言われた警告を反芻した。

『あいつが、わたしを何と呼んでいたかを思いだせ』

 レイは目を開いた。どんな甘いことばだろうと、どんな厳しいことばだろうと、心など乱してなるものか、という決意に満ちていた。

 レイはふと、セラ・サターンの歩みにあわせて、自分のうしろから抱きついている母のからだが小刻みに揺れていることに気づいた。

『物理の法則を免れない……?』

 レイはぐいっと操縦桿を押し込むと、足のペダルを力の限り踏み込んで、一気に走りだした。さきほど亜獣に突進した時とおなじほどの猛々しい勢いのある歩幅に、コックピット内が揺さぶられガタガタと震える。

「どうしたの、レイ!」

 司令室から誰かがなにか言ってきたが、レイはとりあわなかった。が、その問いかけを合図にして、今度は一気にブレーキペダルを踏み込んで急停止をした。レイのからだが猛烈な力で前方へひっぱられ、背中がシートから剥がされた。上半身が前に飛び出しそうになる。シートベルトが肩と腰にぐぐっと食い込み、それを押しとどめる。

 そのレイの脇をすりぬけるように、レイの母親が前方にむかって飛んでいった。そして目の前のメインスクリーンの奥、ハッチに取りつけられた計測器に音もなく激突した。母はすでに先ほどの血まみれの姿に戻っていた。

 レイは構わず、思いっきり右側に操縦桿を傾け、セラ・サターンのからだをひねった。母親のからだは今度は右側の壁にふきとばされ、デッドマン・カウンターの下の計器類にぶつかった。

 レイは自分の足元にごろごろと転がってきた母親を見下ろしながら言った。


「母さん、これからたっぷり、かまってあげる」


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