第43話 ごめん、アスカ……。キミの想い出の遊園地……今から戦場になる
亜獣出現予定の当日は朝から、各部署担当やクルー、ロボットたちで、出撃レーンはあわただしさ一色になっていた。彼らのペースに引っ張られて、調子を崩したくなかったので、レイはセラ・サターンに搭乗し、彼らの邪魔にならない場所で、万布を使いこなすための訓練の最終点検をしていた。
レイは、万布をセラ・サターンの首にケープのように巻くと、それをすっと引き抜きながら、「盾」と呟いた。布の終端が、首から離れるか離れないか、というタイミングで万布は形を変えた。レイが防御態勢の構えをした時には、すでにレイの手には盾が握られていた。レイが「布」と呟くと、それが手からダラリと垂れ下がり、元の布にもどった。レイは、すぐさま、「ネット」と呟き、形状をネットに変化させた。左右にある厚みのある部分をもってピンと張ると、柔軟性に富みながらも、強靭な網に変化した。さきほどの盾の倍ほどの面積があり、かがんだ状態ならじゅうぶん全身を隠せるほど大きかった。
「レイ、使いこなせそうか?」
ヤマトのコックピットの映像がサブモニタに映った。ヤマトはいつの間にかマンゲツに乗り込んでいた。
「えぇ、問題ない」
レイがそう答えると、画面のむこうのヤマトが安堵したような顔を返してきた。レイがヤマトに声をかけようとすると、サブモニタにアルが割り込んできた。
「ヤマト、調子はどうだい?」
「あぁ、アル。ヴァイタルみてくれよ。鉄分もばっちりだろ」
「あぁ、そうだな」
モニタのむこうでアルが、ヤマトに対してなにかいい淀んでいるのが感じとれた。
「なぁ、ヤマト、すまねぇな。昨夜、マンゲツが……」
ヤマトがすぐにつよい口調でアルを制した。
「秘密の特訓だ。あとで正式に詫びるよ」
アルは複雑な表情をしていたが、やがて「新型のサムライソード、搭載しといたぞ」と声を張った。
レイにはヤマトの表情が晴れやかになるのが見えた。
「アル、何秒持つ?」
「あ、そうだな。3秒はもつと思う」
「了解」
ヤマトはそれだけ言うと、アルとの交信を切った。レイには、ヤマトがあわてて打ち切ったように見えた。なにかやましいことでもあるような素振りだ。
「タケル、秘密の特訓って、なに?」
レイの質問にヤマトは関心なさげな口調で淡々と答えた。
「レイ、秘密だから、秘密の特訓なんだよ」
ヤマトはなにかをごまかしている……。
レイは直感的に感じた。昨夜、ふたりっきりで、お互いの秘密を告白しあったというのに、まだこの男は隠すことがあるのだ。
『ほんとうに、この人を、タケルを信用していいの?』
レイの脳裏に疑念が浮かびかけた。だが、司令室のミライから出撃準備完了の合図が送られてくると、レイはそんなことはどうでもいいことに思えてきた。
すべてを晒していないのはこちらも同じ。
わたしは、自分ですら知らない秘密をいっぱい抱えているのだ。
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アスカはラウンジのソファーに腰掛けて、目の前に投影された映像を見ていた。ラウンジでは部屋の三面を使って一度に50以上の映像が見ることができるようになっている。
モニタには亜獣出現に備えて、あわただしさを増している司令室、ヤマトとレイのコックピットの映像、そして亜獣の出現予定地の施設の風景が遠景で映し出されている。
いまの自分はとても不安定から出撃はできない。
それは納得した。だが、せめてレイとヤマトが戦ってるのは見ておくべきだ。
アスカが各映像をチェックしていると、うしろからひとの気配がして、すっと机の前にドリンクのグラスが差し出された。
執事の沖田十三だった。
「アスカさん、そんなに気をはらないでください。エル様は心配ありませんよ」
「な、なにもタケルのこと心配なんか……」
アスカは十三に食ってかかろうとうしろをふりむいたが、十三はやさしげな笑みを浮かべるとすぐに奥の方へ戻っていった。アスカは精いっぱいの虚勢をはって、ふんと鼻をならしてグラスを口に運んだ。
「おいしい……」
世辞抜きにおいしいドリンクだった。ほっこりと心が休まる気持ちになった。
『アスカ!、アスカ!』
うしろから機械的な声が自分を呼んでいる声がしたかと思うと、白いボール状の機器がリビングに転がりながら、入ってきた。声のほうに顔をむけたアスカは、『シロ』の姿をみて思わず「あ、シロだ。なつかしい」と声を出した。シロはころころと器用に机の脚をよけながら転がってくると、ソファに座っていたアスカの手元にポーンとジャンプして、彼女の腕のなかに飛び込んできた。
シロはアスカの腕のなかに収まると「ヤマトから伝言だよ」と言い、上部からホログラフを投影し、メッセージを再生しはじめた。
ヤマトの顔がそこに現れた。
『アスカ……、キミに謝らなければならないことがある』
アスカはヤマトのいきなりの謝罪に驚いた。
『キミは、自分には思いだしたくなるような良い想い出なんかないって、怒った時のこと覚えているかな』
「あのあと、謝りにきたよね」
アスカは恥じ入るようなそぶりも見せず、映像のヤマトに言い訳をした。
「あったりまえじゃない。わたしだって、そういう時があったって思いだしたんだから」
『よく考えたら、楽しいことがあったって。子供の頃、家族で何度か行った遊園地が、とっても楽しかったって……」
ホログラフのヤマトが、困ったような顔を見せて、言葉をつまらせた。
『ごめん、アスカ……。キミの想い出の遊園地……』
『今から戦場になる』
ハッとしてアスカはメインモニタをみた。モニタ画面がアスカの思考を読み取って、ヤマトたちが亜獣を待ち受ける施設の近景に切り替わる。そこには、子供の頃の唯一の楽しい想い出が詰まった、遊園地の風景が広がっていた。
『アスカ……、本当にすまない』
ホログラフのヤマトはそうもう一度だけ謝ると、シロの上部から消えた。アスカはシロを胸に寄せると、ぎゅっと抱きしめた。
「ボカぁ……」




