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いつか日本人(ぼく)が地球を救う  〜亜宙戦記デミリアン 〜  [オルタナティブ版]  作者: 多比良栄一
第一章 第二節 非純血の少年たち
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第31話 おまえの語る正義なんぞ、現実世界ではサード・プライオリティくらいの価値しかない

 セラ・プルートが二体がかりでの抑圧から解放されたのを確認するやいなや、ブライトは大声でミライに指示をとばした。

「ミライ、遠隔操作で操作系統をシャットダウンする。用意を」

 ミライは素直に「はい」と返事を返してきたが、その声色は混乱の色が隠せなかった。ヤマトがブライトの腕をつかみ、そうさせまいとしてきた。

「ブライトさん、ダメだ。先にパイロットのほうを始末しないと、危険すぎる」

「まだ言うか。ヤマト」

「わたしは機体もパイロットもうしなうわけにはいかんのだ」

「そんな中途半端な決断では、両方ともロストする」

 ヤマトがぎゅっと拳を握りしめたのが、目の端にはいった。

「ほう、また上官を殴るつもりか、ヤマト!」

 その言葉に司令室にいる人間が一斉にヤマトのほうへ目をむけた。その事実を知らないアルやエド、ミライたちはみな驚いた表情をしている。事情を知っているはずのリンは冷ややかな目でヤマトを見つめていた。

「自分の正義がいつもまかり通ると思うな」

「現実世界での『正義』なんぞ、サード・プライオリティくらいの価値しかない」

 そう一喝するなり、ブライトは指示を続けた。

「ミライ、認証画面を」

 ミライがコンソールのスイッチを押すと、ブライトの目の前と、それより一メートルほど離れた場所の空間に、手のひらマークが浮き上がった。ブライトは目の前のマークに自分のてのひらを合わせて言った。

「リン、頼む」

 春日リンは一瞬、逡巡するような目線をあたりに走らせたが、すぐにその場所に歩み寄り、手のひらマークに手をかざした。

 手のひらマークの上の空間に『認証』のサインが点滅した。

「ミライ、シャットダウンだ」

 ミライは命じられるままに、コンソールのスイッチを押下した。


  ------------------------------------------------------------

 

 アスカがもう一撃をくらうと覚悟し、頭を両手でガードした瞬間、ふりあげたプルートの手からライフルがすっぽ抜けて、頭上を超えていった。プルートの腕がそのままぶらりと下に垂れさがっていくのが見えた。アスカにはすぐにプルートの操作回路がシャットダウンされたことがわかった。プルートは全身を脱力させて、立ち尽くしているだけの存在になった。

 アスカは即座にプルートに駆け寄ると、コックピットを鷲掴みにした。

「バカ兄貴、今引きずりだしてやるンだから」

 だが、デザイン性を帯びたコックピットは、凹凸があるにもかかわらず、うまく指をひっかけることができなかった。

「もう、指、かかんんないじゃない、このクソコックピット!」

 焦るあまり悪態をついているアスカの眼前にレイの映像が現れた。

「アスカ、わたしがやる」

「うるさい!。あたしの兄なの、あたしが助ける権利があるの!!」

「でも……」

 アスカはレイの無遠慮な親切心にいらだった。

「アスカ、槍を使ってこじあけろ!」

 ブライトからの指示だった。

 アスカは腰から槍の柄を引き抜くと、短い長さのままの状態で、槍の先をハッチのすきまにたたき込んだ。ガツンと手応えのある音がして、ハッチの隙間に刃先がねじ込まれたのがわかった。アスカの心が急いた。いつのまにか頬に笑みが浮かんでいる。あとすこし、あと少しだ。

 ハッチをこじあけたら、兄を引きずり出して、頬を何発もひっぱたいてやるんだから。

 ひっぱたいて、ひっぱたいて、ひっぱたいて……、抱きしめてやらなきゃいけない……。 


  ------------------------------------------------------------

 

 すこし、ほんの少しだけ、まどろんでいたようだ。

 搭乗中、しかも戦闘の最中に夢境をさまよっていたことに、リョウマは自分でも信じられない思いだった。アスカに知られたら、眉根を思いっきり寄せた険しい顔をして、罵倒してくるに違いない。レイだったら声すらかけてもらえないほど呆れられるだろう。ブライト司令はたぶん叱責だけでは済まないかもしれない。あの人は規律を重んじる人だ、相応の処罰は覚悟しておくべきだろう。

 だが、初戦は、なんとか負け戦にならずに済んだ。まずまずの滑り出しと胸を張っていいのではないか。今ごろ、世界中のマスコミが今回の戦いのことをニュースにしているだろう。しばらくは一面を独占し続けるのは間違いないし、トレンドワードの上位にぼくらの名前がランクインするかもしれない。

 父は……、父さんは、ぼくらの名前を見つけて、どう思うだろう?。誇りに思ってくれるだろうか、見捨てたことを悔いてくれるだろうか。

 リョウマの口元に笑みがこぼれた。

 たぶん、その両方だ。自分にはわかる。そういう変わり身の早さを、父さんは何のてらいもなくやってのける。そういう人だ。

 だがそれでも構わない。一度うしなったプライドを取り戻して、父に突き返せるのなら、そうやって元の関係に戻れるのなら、それだけでいい。

 リョウマはふとコックピット内がやけに騒がしいことに気づいた。カンカンという気持ちの良い金属音が前の方から聞こえてくる。とても心地よいリズムだ。

 あぁ、この音が鳴っていたから、眠りにいざなわれたのか?。たぶんそうかもしれない。

 リョウマはなんとはなく、右の壁に目をむけた。

 まず、羅列された数字がぼんやりと目に映った。『3850』という数字。リョウマにその数字がなんなのかわからなかったが、眺めているうちにそれが意味することに思い当たった。


 リョウマの目が大きく見開かれた。


 ぼう然とした面持ちで正面のモニタ群のほうに目を移した。

 なにも映っていなかった。

 司令部からの映像や音がとだえていて、自分がこの狭いコックピットのなかでたったひとりぼっちであることを知らされた。リョウマは混乱したまま、緊急用電源のスイッチを入れた。室内の電灯と一部のカメラが稼働をはじめると同時に、リョウマの思考をAIが読み取り正面の映像を、セラ・プルートの足元の映像に切り替えた。

 自分の足元に四肢がばらばらになった人間の死体がごっちゃりと転がっていた。ある場所では折り重なった死体が小さな山となり、地面の窪んだ場所はもれなく血溜まりとなっていた。そしてあたりのビルの壁には赤い血糊と一緒に人のからだの一部が貼りついていた。

 リョウマにはワケがわからなかった。恐怖にまごつき、思わず両手で顔を覆った。

 これは夢……。いや、これこそが夢なのかもしれない。

 が、リョウマはハッとして顔から手をはなして、自分の手のひらを見た。その思考を読み取ったAIによって、メインモニタにセラ・プルートの手のひらが映し出された。

 セラ・プルートの、いや自分の両方の手のひらは、血だらけだった。


 コックピット内に耳をつんざくような異音が鳴り響いた。

 なんの音だ……、これは何の音だ……


 リョウマはすぐに、それが自分の悲鳴だと気づいた。


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