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いつか日本人(ぼく)が地球を救う  〜亜宙戦記デミリアン 〜  [オルタナティブ版]  作者: 多比良栄一
第一章 第二節 非純血の少年たち
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第29話 リョウマを覚醒させちゃあダメだぁぁ

「リョウマを覚まさせちゃダメだ!」

 司令室内の大きく流れてきたヤマトの声と映像は、ほかの回線と一緒になり、リンの頭のなかで『キーン』と、ハウリングをひきおこした。

「ちょっとぉ、タケル君」

 ブライトが苛立ちを隠そうともせず、ヤマトにそれをぶつけた。

「どういうことだ、ヤマト。今は戦闘中だ」

「ブライトさん、ふたりを止めさせて。今、リョウマが我に返ったら大変なことになる」

「ヤマト、おまえ、なにを言っている?」

 ブライトに問い詰められたヤマトが、その先を言うのを躊躇している。リンにはそれが画面ごしでもわかった。

 なにか重要なことを隠そうとしている?。隠したまま、ブライトに行動を起こさせようと……。

 そんな都合のいい話はない。

「タケルくん、それはセラ・ネプチューン事件と関係ある?」

 カメラのむこうのヤマトが、リンのほうをギロリと睨みつけた。

 ビンゴだ。リンの心が逸った。

「今からそちらに行きます。だからリョウマを今は覚醒させないでください」

「バカ言うな。あいつを抑えなければ何人死ぬと思っている?」

 ブライトが叱りつけた。

 画面のむこうのヤマトは外に走り出ていたが、そのまま走りながら即答してきた。

「あれくらいの人数なら殺させておけばいいんです」

「きさまぁ、人の命をなんだと……」

 ブライトが怒りに顔を真っ赤にして息巻いたが、一瞬、デッドマン・カウンターのほうへちらりと目配せしたのをリンは見逃さなかった。どんなに感情を揺さぶられても、どこか冷静な自分を保とうとする習性はいまだに健在らしい。

 そうだった。あの男は昔からそう。

 愛し合っている最中でも、常に次はどうしようかと、頭の隅で考えているのが見え隠れしていた。

 流れにゆだね、快楽に溺れる、というのが、彼にはできない。

 別れて正解だ。


「リョウマには心の闇が、トラウマが、あるんです」

 ブライトの激高している様を無視して、ヤマトが冷静に説明をしながら廊下を走っているのが見えた。

「トラウマがなによ」

 アスカが割って入った。

「アスカ、君の兄さんは君と違って、心が弱い。だから、我に返ったとき、自分がたくさん人を殺したって知ったら、精神が耐えられないかもしれないんだ」

「だったら、なに?」

 映像のむこうで、ヤマトが言いよどんだのがわかった。

 まだなにか核心部分を言えない様子だった。

 なぜ言えない?。まさか……。

 リンはゾッとする仮説にいきあたった。

「『四解文書しかいもんじょ』に、そう書いてあるの?」

 リンのブラフに反応したのは、ヤマトではなく、ブライトのほうだった。いや、エドとアルまでもがぎくりとして、こちらに目をむけた。

 だが、肝心のヤマトのほうは、廊下で足をとめただけで動揺している様子はまったく感じられなかった。

 残念ながらストライクではなかったようだ。

 だが、ヤマトはその挑発に促されるように、言葉を続けた。

 リンは心躍った。ビンボールで尻餅をつかせることくらいには成功したらしい。

「残念。違うよ、リンさん……」

「リンさんは知っているはずだ。こいつと同じタイプの亜獣に昔、デミリアン一機が奪われたことを…」

 専門分野に言及されたと思ったエドが、空気もよまずにヤマトに進言した。

「いや、ヤマト君、それは先ほどデータベースを検索して確認済だ。でもデータベースに生体パスワードがかかってて……」

 が、エドの言い訳を遮って、リンはヤマトのことばの違和感を突いた。

「奪われた?。それどういう意味?」

 映像のむこうのヤマトはすぐには答えようとはしなかった。

 ゆっくりと歩きながら、なにかを考えているようだった。どこまで話していいのか考えているのだろうか。

 司令室の面々はヤマトが考え込んでいる様子を見ながら、一言も発することができずにいた。しばらく歩いたところでヤマトが口を開いた。

「ぼくたちパイロットは、デミリアンと血を交換し、その血を介して彼らを操っています’

「その血に分泌されるドーパミンやアドレナリンの量や質を通じて、ぼくらの思考や行動が伝達されるのはわかっていますよね」

「もちろんよ」

「でも、もしパイロットの精神が乱れて自分をコントロールできなくなったとしたら…」

 リンはごくりと唾を飲み込んだ。

「その血は逆流して、デミリアン側から人間のほうへ流れ込むんです」

「そんな初歩的なこと……。そうなったらパイロットは死ぬって……」


「嘘なんです」 


 ヤマトが大きな声で否定した。それはもしかしたら機器を通した強い思念だったかもしれないが、どちらでも変わりはしなかった。

 そのことばは、リンにこれまでにないほど大きなショックをもたらしていた。

 嘘……。それはどういうこと……。

 セラ・ネプチューンのパイロットは、死んだ……と文献に……。

 頭のなかで混乱だけが増幅していく。 

 デミリアンの専門家として任にあたり、地球上で一番詳しいと自負していながら、自分が知らないことがある……。いや「嘘」を信じさせられていた。

 ぼう然とするあまり、うまく言葉も思考も操れない。

「999(スリー・ナイン)だけに知らされている事実です。だからそのデータベースはボクがさきほど封印させてもらいました」

「な、なに……。ど、どういう……」

 今度は隣にいたエドがことばをうしなった。

 ふたりの専門家が口をつぐんだことで、司令室のクルーたちだけでなく、アスカとレイも迂闊にことばを発することができずにいた。


 リンは自分自身が許せない思いだった。研究者として、専門家として。

 これはわたしの専門分野。研究のなかで、その可能性に行き当たらなかったわけではない。だが、唯一の実例がその可能性を否定していた。だからわたしはその『嘘』を鵜呑みしていたのだ。

 リンは震える声でことばを絞り出した。

「もし……デミリアンの血が人間に流れ込んだら……操られるのは人間のほう……なの?」

 リンの導き出した結論を聞いても、ヤマトは顔色ひとつ変えず淡々と話を続けた。

「68年前、セラ・ネプチューンの搭乗パイロットは、3番目の亜獣、モスピダンの幻影に正気をうしなって暴走しました。そして……」 

 司令室の自動ドアがすっと開いて、ヤマトタケルが姿を現した。


「セラ・ネプチューンは4番目の亜獣になったんです」


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