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いつか日本人(ぼく)が地球を救う  〜亜宙戦記デミリアン 〜  [オルタナティブ版]  作者: 多比良栄一
第一章 第二節 非純血の少年たち
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第14話 訓練しておけば殺された時、ちょっとは悔やまずに死ねると思うわ

 昨夜のレイからの告白が頭から離れなかった。

 それがどういう意味かは語ろうとはしなかったが、ヤマトはレイが言っていることが嘘ではない、と本能的に感じとっていた。おかげで今日の朝は少々寝不足気味だった。教鞭をとっている人間の教師がニューロン・ストリーマを使って、脳波に直接語りかけているのに、ちっとも内容が頭に入ってこなかった。

 そんな時に、ふいに指名されてヤマトは、あわてて起ち上がった。

「はい、アスカさん」

 指名されたのは自分ではなく、アスカだった。だがヤマトは事態が飲み込めず着席できずにいた。マンツーマン授業が染みついて、自分以外の者が指名されるということを想像すらしていなかった自分に思わず苦笑した。その声が思いのほか漏れでたのだろう、アスカが反応した。

「何よ、何がおかしいのよ」

 教室の隅で警備の姿勢を崩さずに待機していた草薙素子が、その剣幕にピクリと反応したのが目の端に入った。

「ごめん、アスカ…。ちょっと思いだし笑いをしただけだ」

 タケルはごまかすように嘘の言い訳をした。真実を話せば、今までひとりで大変だったんだ、という同情や、みんなでいるのって楽しいでしょう、という賛同を求められたりする可能性があって面倒だった。

「へーー、あんた、思いだして笑うほど楽しい思い出があったんだぁ」

 そう言い返されて、ヤマトは逆に虚をつかれた。嘘をつき通せばいいとわかっていながら、頭のなかで、楽しい思い出を必死でかき集めていた。

 父や母、妹がいた幼き日、叔父貴や先輩、仲間と呼べる『99・9(スリーナイン)』の面々…。そして…まどか。

 彼らとのあいだに、そんな瞬間はあっただろうか?。

「わたしにはないわ!」

 アスカの鋭い口調に思考を断ち切られたヤマトは、おもわずアスカに視線をむけずにはいられなかった。

「わたしも兄さんも思いだして笑えるような思い出なんて、爪の先ほどもない」

「おい、アスカ!、授業中だよ」

 先生が遠慮がちに咳払いして、リョウマのことばをあと押しする。アスカはなにか言いたげに眉根をよせるが、さっさと抗うことをやめて、息を吐きだしながら言った。

「2196年 第3次世界大戦終結です」

「そうですね。196、ひと苦労して三次戦争終結で、覚えてください」

 すっとレイが挙手した。

「2は無視するの?」

「あぁ、2000年代の年号の語呂合わせの2は無視してもらっていいですよ。いくらなんでも弥生時代とごっちゃにしないでしょ」

 レイはそう説明されても手を降ろせずにいる。昨夜と同じだ。何事も合点がいかないと、納得できないタイプらしい。

 ヤマトは歴史が一番の得意科目だったが、アスカが軽々と回答してのけたことに、すくなからず驚いた。月でよほど勉強漬けの毎日だったのか。

 それなら楽しいことがひとつもなかったというのにも得心がいく。

 ヤマトはふっと視線を感じた。アスカがこちらを見ていた。だが、目が合うやいなやアスカはぷぃっと首をそらして、無愛想な意思表示をしてきた。

 隣のリョウマが椅子から身体を乗り出して、ヤマトに小声で囁いた。

「タケルくん、妹がごめんね」

「いや、別に…」

 ヤマトはリョウマに声をかけられたついでに頼みごとをお願いすることにした。

「リョウマ、あとで、リアル・ヴァーチャリティルームに付き合ってくれないか。ちょっと聞きたいことがある」

「いいけど、午後からは戦闘シミュレーションをやるの、聞いてる?」

「誰が?」

「ぼくらがさ。ブライト司令のたっての願いでね」


  ------------------------------------------------------------

 

 ブライトは、眼下に広がるシミュレーションエリアの端々に目を配っていた。富士山の山麓の樹海付近の土地を切り開いて作られた広大なエリアが、遥か遠くまで広がっていた。視界を遮るものがなにもないので、ともすると、とてつもなく大きなグラウンドにしか見えない。国連軍の広報ページには、『東京ドーム300個分』と、200年近くも前に無くなった施設を引き合いに出して大きさを説明していたが、おそらく誰も正確な大きさは知らされてないだろう。国際的な機密事項でもあるので、そのあたりはぼかされているのは間違いない。

 隣の席に座っているヤマトタケルのほうをチラリと見た。予想通り、あからさまに不機嫌そうな顔をして、足をぶらぶらさせながら、エリアのほうを眺めていた。

 ブライトは目を閉じると、昨夜、リョウマ、レイ、アスカ、を呼びだした時の、彼らの反応を思いだした。


「君らの実力をみてみたい」

 ブライトは、円卓の前で車座になって座っている三人にむかって問いかけた。

「到着してまだ二週間ですよ。ずいぶん性急ですね」

 まずは3人を代表するようにリョウマが意見してきた。

「知っての通り、ヤマトのマンゲツ、いやセラ・ムーンは損傷が激しく、修復するまでに時間がかかる。だが、亜獣はいつ出現するかわからない」

「その間は、わたしたちでなんとかしろ、っていうわけ?」

「あぁ」

「次、亜獣現れるの、2ヶ月後だって、エドさんが」

 ぼそりとした声でレイが口を挟んできた。

「確かに今までのデータ通りならな。だが、出現の周期は確実に縮まってきている。自然災害と同じだ。25世紀の科学をもってしても完全に予見できるわけではない」

 アスカが不満そうに声を荒げた。

「だったら、あの特待生を別の機体に乗せればいいでしょ」

「いや、それは避けたい。機体を変更して、もしタケルの身になにかあったら…」

「は、やっぱりそれが本音。メイが言っていた通りだわ」

 ブライトはアスカの口から、『春日リン』の名前を持ち出されて、毛穴から汗が噴きだすのを感じた。

 あの女め、先入観をもたれるのを排除したいから、事前情報を与えないでくれ、とあれほど釘をさしていたのに…。

 だが、ふと、ブライトは、そんなことをわきまえることすら煩わしく思う女が、わざわざリークするはずもない、と思い当たった。となれば、この小娘、アスカが彼女を籠絡した、というのが正解というところか……。

「エースを温存して、その次の戦いに備えておくというのも指揮官の努めだよ」

「ま、ものは言いようね」

 というなり、アスカはたちあがり、ドンと机の上に両手をおいて、ブライトのほうへからだを乗り出してきた。

「いいわ、乗ったげる」

「あの特待生の鼻をあかせる機会、行使させてもらうわよ」

 そのたくらみに充満ちた目線に、ブライトは身体をのけ反らせそうになったが、リョウマが口を開きかけたのを目の端にとらえ、機先を制するように強い口調で言った。

「マンゲツが間にあわなかったら、実戦も君たち三人だけで出てもらう」

「これは頼みごとではない」

「命令だ」

 案の定、リョウマは二の句がつげず、口をぱくぱくさせていた。どうせ、正論しか振りかざせない口だ。大人の社会では、常に理不尽な都合のほうがまかり通る、ということを叩き込んでおかねばならない。

 だが、アスカの反応は速かった。

「あら、ブライト司令、しっかりと決断、できるンじゃない」

「メイがブライトは優柔不断な男って言ってたけど、ちょっとはマシになったのかな?」

 ブライトはグッと口元を引き結んだ。

 この子は、この小娘は、扱いにくい。ヤマトとはまた異質の異物だ。

 やる気を高らかに宣言しながら、返す刀で、こちらのやる気を深々と削ぎ落としにくる。頭部と腹部を同時に殴られたような、そんな感覚……。

 拍手を送ろう。さすがメイの一番の生徒と自負するだけのことはある。

「戦争、はじめていい?」

 レイのひとことが、ブライトの苦々しい思考を断ち切った。

「あぁ、うん」

「いまからすぐにやってもいいの?」

「いや、今は夜中だから…」

「夜中には、亜獣、こないの?」

「そ、そうじゃないが、準備が…」

 レイがぼそりという一言は、余分な修飾語を排しているせいか、なぜか重たく感じられ、ブライトはゾクリとした。気軽に返答してはいけないような感覚に陥いる。そのシンプルな単語の羅列の奥底になにか重大なことを潜ませているような、鈍重かつ鋭利な言霊。迂闊な返答で言質をとられたら命取りになる。そんな気分にさせられた。

「殺すんでしょ。この三人だけで」

「あ、あ、うん、ヤマトが間に合わなけ……」

「たぶん、間に合わない」

 返事が出てこない。ブライトは焦った。レイの言葉の沼にはまって、身動きできなくなってきている自分がいる。

 レイがとまどったような表情をして、こちらを見つめていた。


「でも、たくさん訓練しておけば、殺された時、ちょっとは悔やまずに死ねると思うの」


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