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第101話 圧倒的絶望感が常に使命感を押し潰そうとする

 アスカは自分が高揚していて、それを自分自身でもわかっていることがなぜか嬉しくてしかたなかった。

 祭壇の前でタケルに誓ったあの瞬間、自分の中のなにかが変わった。

 責任感、使命感……、いや何かわからないもの……。

 だが、これだけはわかっていた。

 誓ったからには、それを実現するべき義務が自分にはある。

 その義務を果たしてみせるという、気概に満ちた今の自分にすこし陶酔していた。

 セラ・ヴィーナスの搭乗クレーンに乗り込もうとすると、その脇に春日リンが立っていることに気づいた。

「アスカ、おめでとう」

「なにがよ」

 アスカはわざとしらばっくれるような言い方をしてみせた。

「タケルとのこと……」

「な、なによ、それ。べ、べつに愛を誓い合ったわけじゃないわ」

「まぁ、そうね。でも、そう見えたわ……」

 リンがてのひらで、まるで火照った顔を冷ますようなしぐさをしてみせた。

「そ、そういうんじゃないから……」

 アスカは恥ずかしくなって、顔をぷいと横にむけた。

 ちょっと頬が熱い。

 リンが口元に笑みを作りながらも真顔で言った。

「あなた、もどってこれたわ」

 アスカはふっと我に返った。

 そう、あのままだったら、もうここにあたしの居場所はなくなっていた。

「は、そのおかげで、今から亜獣と戦うために最前線送りよ」

 アスカはわざと声を張ってみせた。

「でも、送られるからには、大暴れしてくるつもりよ。安心して!」

 リンが破顔した。

「あばれすぎて、ヴィーナスを壊さないようにしてよ」

「了解。これ以上、あたしのことでみんなに迷惑をかけたくないしね」

「そうね」

 そう言いながらリンがアスカの背中に軽く手をそえて、リフトに乗るように促した。

 アスカはリフトに足をかけると上昇ボタンを押した。リフトがあがりはじめると、アスカはくるりと首だけをリンの方にむけた。

「メイ、心配かけたわね。でもあたしはもう大丈夫よ」


『守ってくれる人がいるから……』


「あたしは強い!」


  ------------------------------------------------------------

 

 シン・フィールズにとって長い軍歴の中でも亜獣と戦うのは、これで三度目だった。前の二回は思いだすだけで、胸が痛くなるような残酷な結果だった。

 亜獣がすでにこの世にあるあらゆる兵器をもってしても倒すことができないという絶望的事実を知ったうえで、戦場のむかった消耗戦でしかなかった。彼はその戦いで多くの仲間と部下をなくした。

 敵は倒れないことがわかっているのだから、攻撃はただの足止め、爆発はただの目くらましにすぎないのだから当然だ。それでも国防軍としては一人でも多くのひとを逃がさねばならない。それ一点のためだけに無為な戦いを強いられたのだ。

 シン・フィールズは歯がみした。

 絶対に勝てない敵に挑みつづけることは意味があるかもしれない。だが何をやってもまったく意味をなさない敵と、命をかけて対峙しなくてはならないその心中は、当時者たちしか理解できないだろう。


 圧倒的絶望感が常に使命感を押し潰そうとする、その恐怖と苦悶の一瞬、一瞬。


 だが、今日の戦いはそれまでのものとは違う。

 勝てる、倒せる、という希望があるのだ。

 部下たちの様子をみても、まるで『希望』という鱗粉があたりに舞っているかのように、喜々として戦闘準備にとりかかっている。シン・フィールズとしても、それまでの戦いで失った部下や仲間たちの仇を、もしかしたらこの手で討てるもしれないという高揚感に体がうち震えるのをおさえきれないでいる。

「フィールズ中将、現場にデミリアン残り二体現着しました」

 彼はその報告を聞いてほっとした。レイ・オールマンの乗るセラ、サターンは時間通りにスタンバイ完了していたが、あとの二体の用意が本来の予定時間より一時間以上も遅れていた。ミライ副司令より遅れるという連絡があったものの、時間はあと十分ほどに迫っていたのだ。やきもきするなというのが無理だというものだ。

「すみません、フィールズ中将。遅れてしまって」

 ヤマトタケルのコックピット内の映像とともに、謝罪のことばを送ってきた。

「ヤマトくん、何があった?」

「たいしたことはありません。ちょっと殺されかかっただけです」

フィールズはハッとした。

「どういうことだ」

「気にしないでください」

 フィールズはブライト司令から連絡を受けたときのただならぬ声色をおもいだした。あれはそういう事態だったのだとのみこめた。フィールズがヤマトに詳細を尋ねようとした時、ふいに自分の上に影がおちるのを感じて頭をあげた。セラ・ヴィーナスだった。

「フィールズさん、あとで話すわ。でも、殺されかかっただけ、死んだわけじゃないわ」

 自分たちの盾になる位置にセラ、ヴィーナスが着地してくるやいなや、アスカのコクピットの映像とともにやけにテンションの高い声がとびこんできた。カメラのむこうのアスカが両腕をあげて、筋内こぶしをつくるようなしぐさをして見せた。

「ほら、こうやってピンピンしている」

「あ、いやまぁ、たしかに……」

「くわしい話はあとでします。亜獣を倒したあとで」

 フィールズは今はそんなことを栓索している局面ではないことをはたと思いだした。

「あぁ、そうだな」と相づちを返すにとどめた。だが、口元は笑いが浮かぶのをとめられなかった。隣にいた副官が訊いてきた。

「フィールズ中将、どうされました?」

「群しい話は亜戦を倒したあとで、とは言ってくれる」

「はあ?」

「彼らにとっては、少なくともヤマトタケルにとっては、亜戦を倒すことなど、放課後の部活程度の重みしかないようだ」

「けしからん……話です……かね」

「その逆だよ。頼もしい話ではないかね」

「頼もしい……ですか?」

「我々の決死の覚悟の戦いを、それほどまで軽んじられる者が味方なんだぞ」

「どれほどの同朋が亜獣どもの犠牲になってきたかを考えると、なんともワクワクするな」」 副官はやっとフィールズの意図を察して、これ以上のない相の手をいれてきた。

「今宵は我々は、日本国防軍、いえ、亜獣に涙を飲んできた世界中の軍隊が、勝利をおさめる歴史的な日になりますね」

「ああ、そうなってもらわんと」

 フィールズは追従とわかっていても胸が踊る気持ちをおさえきれず、こぶしをにぎりしめそう叫んだ。だが、ふっと我にかえり、呟くように続けた。



「そうなってくれんと、彼らは何のために死んだのか……」


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