第100話 誓う。誓う。誓う。誓う。誓う……
アスカが言うと、すぐ目の前でヤマトが、立て続けに二回まばたきをした。目を閉じた瞬間、アスカはヤマトがわずかばかり緊張してるような雰囲気を感じとった。なにか言いたくないようなことを言おうとでもしているような、そういうためらい。
アスカは、ヤマトが最後に、自分になにを誓わせようとしているのかに気づいた。
そう、レイが言っていたあのこと……。
いちばん、あたしがやれないはずのこと。
でも、あの時、あたしは「やれる」ってみんなの前で宣言した。
だったら、その通りよ、その通りする。
やれる。やれるはず。
口にしなくてもわかってる。
誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う。誓う……………。
だから、ことばを口にしないで。
だが、ヤマトはそれを口にした。
「きみがもしプルートゥと戦うことになったら……きみの手で兄さんを殺すこと」
「誓うか!」
そう訊くなり、ヤマトはアスカの頬に手を添えたまま、促すようにゆっくりと左側をむかせた。
さきほどから目をそらし続けた、リョウマの遺体がそこに横たわっていた。アスカはその死体をじっと見つめた。
あれは兄、リョウマではない、わかっている。
こちら側から顔は見えなかったが、つい先ほどまで、いつも見訓れたリョウマの顔で困ったような表情を浮かべていた。だから自分にとっては、確かに兄だったものなのだ。
馬鹿みたいに妹思いで、そのためには驚くほどの献身をもいとわない。なにか執念じみたような愛情があった。それが重たくて、アスカは時折、兄を困らせる行動をとった。それでも兄リョウマは困り果てたような顔で、なぜか嬉しそうに顔を輝かせながら対処してくれた。腹立たしくも感じたこともあったが、自分にそんな兄がいることが、心のなかでは自慢でならなかった。
その兄をためらいもなく殺せるか……。
目の前で兄が殺されるのを見せつけられパニックに陥った自分に、このヤマトタケルという男は、もう一度、今度は、あたしの手で殺せという。
今、数センチ先で自分にむけられている心がひりつくような、あたたかいまなざし。
アスカ、という女はこんなことで終わりになるような役を演じてなかっただろう。
そう目が訴えている。
あたしを信頼してくれてる?。でもそれは残酷な期待……。
なんて卑怯な男。
これじゃあ、私に選択肢なんてない。
アスカは目の前で額をこすりつけたまま、自分の目をまばたきもせず疑視し続けるタケルの目を強くにらみつけた。
さぁ、タケル、あなたが望むアスカに、もう一度、もう一度、なったげる。
もう私は取り乱さない、悲しまない、怒らない、そして躊躇しない。
アスカは力強く宣言した。
「誓うわ」
ヤマトが目でうなずいたのがわかった。だが、自分の頬に添えた両手をまだ放そうとしなかった。アスカはヤマトを睨みつけた。
だが、目の前のヤマトの目は、すこし戸惑っているようにみえた。
なに、なんなの。
もうこれ以上誓わなくちゃいけないほどのものは、残ってないでしょ。
だが、ヤマトはアスカの目を、じっとのぞき込んだまま言った。
「最後にもうひとつ……」
「もしきみがセラ・ヴィーナスに取り込まれそうになった時……きみは自分の命を絶つことで、それを阻止しようとしない」
「誓えるか!」
アスカはうろたえた。
自分の目がヤマトの目からすっと逸れていくのを、自分自身で感じた。自分の決意が見透かされていたことが悔しかった。だが、それくらいの決意を持たないものが、亜獣を倒せるはずがない。それもすぐれたパイロットの資質のはずだ。
それに……、あたしにはあたしの生き方がある。
「嫌ッ。あたしは、兄のようにはなりたくない」
「あたしが、もしあなたたちの、人類の敵になる、とわかったら、あたしは自分の手で、みずからに決着をつけ……」
「ぼくが絶対に助ける!」
ヤマトが強いことばで言い放った。
アスカは驚いてヤマトの瞳を見つめた。
「きみをヤツラのいいようになんか、絶対にさせない!」
「だから、死なないと誓ってくれ」
ずるい
ずるい
ずるい
ずるい……
予想外のことばだった。
タケルは、自分がやつらに取り込まれた時は、あたしの手で殺してくれ、って言っておいて、あたしが取り込まれた時は、絶対に助けるって……。
そんな勝手、このあたしが、アスカ様が、許さない。
そんな身勝手を、この男に、ヤマト・タケルという男に許したら、あたしは……。
その時、教会の入り口から、強い光が射し込んできた。出動しようとした投光ロボットが誤動作したようだった。
強い光が、祭壇の前にいるふたりを照らしだす。
爆発の際に巻きあがっていた埃や塵が、まるでダイヤモンドダストのように、キラキラとふたりの周りに舞い降りてきているのが見えた。
ヤマトがアスカの額に、自分の額をさらに強く押しつけながら、訊いてきた。
「もう一度きくよ。もしきみがデミリアンに取り込まれそうになっても、自分ひとりで決着をつけようとするな」
「ぼくが絶対に助けにいく。だから絶対に自分で死ぬな!」
「誓えるか!」
お互いの睫毛と睫毛が触れそうなほど近くにヤマトの真摯なまなざしがあった。アスカはその瞳に語りかけるように、ゆっくりと口を開いた。
「誓います」
その時、アスカには、ヤマトの目の奥にかすかな安堵の光が指したような気がした。ちょっぴりだけ微笑んでいるような光。
アスカの頬を両側から包み込んでいたヤマトの手のひらに、ほんのすこしだけ、やさしく力がこめられた。
そう感じた。
それだけで、アスカはぎゅっとからだを抱きすくめられたような気分だった。
ヤマトは何も言わなかった。でもその目には決意がみなぎっていた。
ヤマトは参列席に座っていた、ブライト、リン、エド、アル、李子、そして、そのうしろに待機している兵士たちのほうをふりむいて言った。
「アスカ、出撃します!」
-------------------------- 第1章 第四節終了 第1章最終節へ続く ---------------------




