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いつか日本人(ぼく)が地球を救う  〜亜宙戦記デミリアン 〜  [オルタナティブ版]  作者: 多比良栄一
第一章 第二節 非純血の少年たち
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第10話 あいつは、いったい、ぜんたい、どこにいたんだろうね?

 春日リンは、救護スタッフと修復ロボットがマンゲツの怪我を修復している様子を、腕をくんだまま見あげていた。今までにない状況を目の当たりにして、リンは頭が混乱するばかりだった。それでもマンゲツの怪我の様子を子細に調べることで、手がかりの糸口だけでもつかめればという思いだった。

 リンは望めるかぎり最大限集中したかったが、ぱたぱたとあわただしい足音が聞こえてきて気分が削がれた。子供が走っているような小幅なストローク。見なくてもすぐにエドだとわかった。リンは嘆息した。

「春日博士、ちょっと、これを見て欲しい……」

 エドはリンの前にくると、息を荒げたまま、亜獣の死骸の映像を目の前に3Dで展開した。まったくこちらの都合をまるで考えず、自分優先なのはいつもどおりだ。

「ヤマト君は聞き取り調査のなかで、亜獣に深海に引きずり込まれた、と言ってだろう」

「で、この亜獣の死骸を見てくれ」

 リンは空中でゆっくりと転回している亜獣の3D映像に目をこらした。3本の首が切断されたうえに尻尾の根元がえぐりとられた姿。特にどうというものではない。

「この尻尾の根元…」

 エドの思考を読みとったAIによって、すーっとその部分が自動的にアップになっていく。リンはその拡大されていく映像をみて、ちょっとした違和感を感じた。自分は亜獣の専門家ではないが、そんな部分にあるはずのない、なにかが見えた気がした。それがなんなのか思いだそうとしたが、エドは、そんなことはおかまいなしに回答を披瀝した。

「ここに頭蓋骨があるんだよ」

「ということは……」

 リンは目の前の小男のほうに向きなおった。

「ヤマト君の証言どおり、この亜獣の本物の頭は尻尾側にあった……ってこと……?」

「でもわたしたちはこのサスライガンが首を切断されたあと、ビルに突進して絶命した瞬間をみていたはずよ」

「そうなんだよね。だったら、あのあとなにが起きたら、この状態になるのか、まったく説明がつかない」

 たしかにあの時、モニタごしとはいえ自分は目を離さなかった自信がある。深海に引きずり込まれたというタケルの証言は支離滅裂で、だれも受け合おうとしなかった。だが、しだいに明らかになってくるデータや数字は、信じがたいことに、それらの証言を裏づけていた。

 その時、頭のなかに、テレパスラインを通じてアルの声が響いた。

「すまない。春日博士、エド、ちょっとコックピットまできてくれないか」

「見て欲しいものがある」

 リンがマンゲツのほうを見あげると、昇降機にのって降りてくるアルの姿が目に入った。

「ありえないことが起きているんだ」

 ふだんからいつも控えめなもの言いをするアルが、ずいぶん大げさな表現をしていることにリンは少なからず驚いた。彼が少々興奮気味で声を弾ませているとなると、それは一見に値するということに間違いはない。


  ------------------------------------------------------------

 

 アルは二人を乗せて昇降機を上昇させた。

「すまねーな。コックピットの一部に、ものすごい圧力がかかってできた亀裂があるって話しはしたっけな」

「話しはしてもらってないけど、わかっているわ」

「破断面のストライエーションの幅からみて、圧力がかかったのは間違いねぇ」

 コックピットに到着すると、アルは半身をなかにすべりこませた。こういう狭い場所では、自分の高い背丈が邪魔で腹だたしい。

「まったくこのコックピットは狭くていけねーな」

 ハッチは最大限に開いていたが、大きく歪んで計器類が前にせりでているせいで思いのほか間口は狭いらしく、アルのうしろから覗き込もうとしている春日博士とエドが肩をぶつけていた。リンが軽く咳払いするのが聞こえた。どうやら空気の読めないエドもさすがに察したのか、からだをうしろに退いているのが見えた。

「タケルの証言じゃあ、海に引きずり込まれたときに制御装置が故障したので、マンゲツの神経回路を直結したと言ってたよな」

「えぇ。でも、こっちはマンゲツの怪我の修復のほうで手いっぱい。まだそちらの検証にはとりかかれていないわ」

 アルはパイロットの座席にひざを乗せて、シートの上方にある機器を指さした。

「こいつをみてくれ」

 デミリアンと神経回路を直結するための装置。いくつかの行程を得ないと解除できないことは春日リン博士が自分の次によく知っているはず。すぐに気づくはずだと、アルはわかっていた。

「起動されてる!」

「さすが、春日博士」

「タケルの言う通り直結する装置が起動された痕があるんだ」

「いや、しかしね。アル。だからと言って、本当に直接操作したかどうか…。起動しただけかも…」

 存在感を出そうとエドが反駁しようとしたが、すぐに博士が否定した。

「いえ、もしマンゲツにつながったままで、この装置を起動したとしたら、ただじゃすまない。起動だけでも戯れにできるものじゃないわ」

「そう、映像が残っている」

 3人の目の前にホログラフ映像が浮かびあがった。

 ふいにカメラにアップになるヤマトの顔。ヤマトがカメラにむかって語りかける。

『リンさん、アル。この映像、そっちにつながっているかわらんないけど、現在、マンゲツとの操縦回路をロストしています』

『今からボクの神経回路を直結させます』

 アルはその映像を食い入るように見ているリンを見ていた。おそらくリンならこの映像が本物であることがわかるだろう。そしてそれがわかれば、この世で一番興奮を抑えられないのはほかならぬ彼女だ。

 映像のなかのヤマトが息を詰まらせ、顔をまっかに紅潮させ、のたうちまわりはじめる。

 アルはリンの目が大きく広がっていくのを見逃さなかった。いつも人間には興味がない、と言い放つ意地悪な女史に一発見舞った気分がして、アルはひさしぶりに爽快な気分を感じていた。こころもち後方にさがって見ているエドも鼻梁に指をあてたまま、動きをとめて映像に食いついているのがわかる。

 機器のメンテナンスという目立たない仕事、いわば後方支援とも呼ぶべき陰の役割のため、彼らのような表舞台にいる立場とは縁遠い役職からすれば、胸のすくような瞬間でもあった。

 しかし、本当に驚くのはこのあとだ……。

「たしかに、直結しているようにしか見えない……」

 エドがふりしぼるように呟いた。

「あの苦しんでいる時のヴァイタルグラフをみて!。同時記録されているデータと照らし合わせてみても、本物なのは間違いないわ」

 アルはにたりと口元をゆるめて言った。

「2人とも何かとんでもないことが起きていることに気づかねーかい?」

 このうえもない至福の時間を邪魔されたと言わんばかりに、リンがいまいましげな表情でアルに一瞬だけ目配せした。

「春日博士、時間だよ」

「この映像が撮影されたのは、昨日の16時45分なんだ」

 リンの目がこれ以上ないほどに大きく見開かれた。アルが望んだまさに最高の反応。エドもその事実に気づいて、手を震わせながら眼鏡をはずした。

「あの仙台市街地で撮られた映像は16時5分」

「これはそれから40分後の映像なんだ」

「でも、その間、我々はずっと映像に釘付けになったまま、マンゲツとタケルの救出をみていたはずだよな」



「ここに映っているヤマトはその間、いったい、ぜんたい、どこにいたんだろうね」


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