ダイビングランブル・トレジャー:前編
水着描写がしたくて……と思わせて単純に水中の設定書きたいだけ
富める鮭王面という頭防具がある。
リッチマン・キング・サーモンなるモンスター………俺が遭遇したのはルルイアスで合ったが故に、頭だけ魚で首から下がモリモリムキムキマッチョという度し難い怪物だったが………からドロップした「リッチマン・キング・サーモンの頭面」という頭部に装備可能なアイテム、という特殊な素材を正式に頭防具として加工したものだ。
リッチマン・キング・サーモンの頭面は……まぁ、言ってしまえば剥ぎ取った魚の頭をそのまま被っているわけなので生臭いわ眼は死んでるわでネタヘッド以上の価値が一切なかったのだが、めでたく頭防具となった富める鮭王面には「水中での活動時間延長」という素敵すぎる効果が付与されていた………あとついでに目に生気が戻ったしたまにエラが動く。生きてんのかこれ?
それはさておき、水中活動に有利な効果が付与されたとなると……ある疑問が浮かび上がる。
──────これ、最大まで強化しきったら完全水中呼吸可能になるんじゃね? と。
◆
「と、言うわけで”漁”をします」
「理解:状況は把握しました」
新大陸前線拠点、海上ギルド……の下、現在仇討人もとい着せ替え隊の秘密基地と化している海中コロシアムに来た俺は、怪訝そうな顔をしていたサイナに簡潔に状況を伝えた。
富める鮭王面は現時点では水中での活動時間を若干伸ばす程度のものでしかない。素顔で潜った時と比較して大体五分くらい水中での呼吸が延長されていた。
「つまりこれ、最大まで強化すれば完全な水中呼吸が可能になるんじゃないか、って俺は睨んでいる」
「その可能性は高いかと。現行人類の加工技術は素材の性質をある程度引き継ぎますので」
水中、というか海中。それはシャングリラ・フロンティアにおいてもある種のブラックボックスと言える。
なにせ、人類は水中で生活できない。肺呼吸だからな。故にどれだけ肺活力を鍛えても、鍛えた分しか水中に滞在できない。
どういう理論か水中でも普通に呼吸できるし爆睡もできる魚人族がいる以上、「改宗」を使えばあるいは水中呼吸も可能になるのかもしれないが……「改宗」を行うには専用の施設に魚人族を連れていく必要がある。
だが現在発見されている改宗施設は森人族の里にあるものだけ……だが、魚人族は地上活動にマイナス補正がかかる。新大陸を攻略するプレイヤーに立ちはだかる大樹海を、弱体化したNPCを引き連れて攻略できるほどプレイヤーは樹海を踏破できていない。
では、魚人族の”都”にあるという改宗施設はどうだろうか。
Q.水中呼吸がしたいので魚人族の改宗施設に行きたいです。
A.水中呼吸スキルを獲得してください。
本末転倒って訳だ。
「水中呼吸が出来れば、海中の素材やモンスターとエンカウントできる。五分潜水出来たって風呂で頭の先まであったまるくらいにしか役に立たねぇんだ、最低でも三十分は潜水出来なきゃ話にならない」
「確認:契約者は当機との契約前に深淵のクターニッドが支配する海底都市を訪れている、と記憶しているはずですが」
「まぁそうだな、このシャケヘッドも元を辿ればルルイアスで手に入れたものだし」
「契約者はモンスター素材などを特に明確な用途が無くとも貯蔵する傾向があります。ルルイアスでも同様だったのでは?」
よく分かってるじゃん。まぁ確かにルルイアスではアトランティクス・レプノルカを始めとして結構な数のモンスターを狩ったし、あの時点でインベントリアを手に入れていたから容量の心配も一切なしで回収できたが………
「んー、まぁ大体使い切ったんだよな………」
アトランティクス・レプノルカの素材は盾作るのに大体つぎ込んだし……魚そのものは大体食ってるし……何よりも、
「海喰の剣の作成条件が複数種類の水中モンスターの素材を大量に使う武器でな」
魚系、というか水やら泥やらを泳ぐモンスターに対してめっぽう強いので作ったことは後悔していないがアイテムを大量に要求する食いしん坊だったのは事実だ。ま、ビィラックに素材押し付けて「これでなんか作ってくれや!」って数も武器種も指定しなかった俺に非があると言ったらそれまでだけど。
「というわけで、俺は新たに魚系素材を確保しなきゃあならんって訳だ。故に”漁”だな、釣ってるようじゃ効率が悪い」
「以前のようなおびき寄せではなく、海中での本格的な活動をするのですか?」
「まぁそうなる。一応現時点でできる水中対策はいくつか用意してきたし……な」
まずは新大陸沿岸部の海中に生えている海藻「オキシケルプ」! 口の中に含むと五分間水中呼吸が可能になる! ものを口に含んでいるので当然魔法は詠唱できないし間違えて飲み込んだらアウトだが、魔法なんて使わないので無問題。現時点で海に挑むプレイヤーの殆どがこれを使い続けることで無理矢理海中での行動を延長させていると聞く。
次に「女帝皮布の疑似鰭」! ルルイアスで獲得したほぼ全てのドロップアイテムは海喰の剣に使ってしまったが、それでもいくつか使わなかったものはある。その内の一つがすれーギヴン・キャリアングラーのヒレだ。それを加工して作ったのがこのアクセサリー……まぁ要するにダイビング・フィンだな。ただし装備していると性別がオスのモンスターが寄ってくる。刻傷の雑魚散らしとどっちが強いか見ものだな。
そしてさらに「水視の点眼薬」。水中でもはっきりとした視界を確保するための薬品、その名の通り点眼……要するに目薬だ。
「今回は富める鮭王面無しで潜る」
「何故:その頭防具の性能をあえて使用しない必要性が感じられませんが」
「んー、まぁそうなんだけどな。今回はちょっと違う頭装備を使う」
プレイヤーとて、誰もかれもが剣を振り杖から魔法を放つわけじゃない。錬金術で危険な薬品を作る奴もいれば、鍛冶師として武器防具を作ることに心血を注ぐ者もいる。で、そういう「売れる」ものを生産するジョブのプレイヤーは当然それを販売する必要がある。
新大陸といえど前線拠点はプレイヤーが多く詰めかけているのであんまり出歩きたくないので、大抵は深夜に人通りの少ないところを通っているのだが、ある日そんな人気のないところにぽつんと露店を出していたプレイヤーが売っていたのがこの頭防具だ。
その名も「呼び珊瑚の角飾り」。形状としてはヘッドホンが一番近いが、耳あての部分に珊瑚がくっついている奇妙な頭防具だ。見ようによってはこめかみから角が生えているようにも見えるし、それが防具名の角飾りってことなんだろう。
「なんでも、これをつけてると特別なモンスターが寄ってくるんだと」
「疑問:信憑性はあるのですか?」
「さぁ? どうせ金なら稼げばいいんだ、こういう怖いもの見たさの買い物は人生のゆとりあってこそってな」
何やらこれを使うプレイヤーが増えることで自分にも利益がある、とかNPCみたいな怪しい事を言うプレイヤーだったが……ロールプレイ勢だったら指摘するのも野暮だったのでそのまま買ってしまった。一応その「なにかしらを引き寄せる効果」とは別に若干の温度耐性があるらしいので水温によるスタミナ減少をある程度軽減してくれるだろう。
「そして水泳を補助する水着を装備している!」
これは別のプレイヤーの露店で買ったやつだが、作ったやつの邪念がビキニという水着タイプから漏れている気がしてならない。
だが水中抵抗を微軽減して水温耐性も他と重複するとなればこちらも性別を変えて装備することもやぶさかでは───!!
パァン!!(三分経ったのでビキニが弾け飛んで強制的に初期装備になる音)
この世から一つ邪念が消えた、それでいいじゃないか。
「さて………ところでサイナ」
「なんでしょう」
「お前水に落ちたらショートするとか錆びるとかそういうことは無いよな?」
「憤慨:当機は水に浸かった程度では錆びません。当機のインテリジェンスを疑うつもりですか?」
「知性で酸化を防げるとは知らなかったが……水中活動も出来るんだな?」
「肯定:エルマ型は水中特化タイプのマナ型と比較した場合は水中活動に秀でているとは言い難いですが、征服人形が備える水中活動機能は当然搭載しています。そして戦闘型ですので水中戦闘機能も加味すれば……」
「すれば?」
なにやら長々と自身のスペックが水中にも適応しており、カナヅチであると思われていたのが心外で仕方がないと言いたいらしいサイナがなにやらホログラムでエルマ型の性能スペックを説明し始める。申し訳ないが右耳と左耳が聞き取った情報が丁度頭の真ん中でぶつかり跳ね返って耳の外に流れていくような気分だ。つまりは話半分に聞いていたのだが、どうやらサイナは最終的に身を以てエルマ型、というか自身の水中活動機能を証明するようだ。
全身が光に包まれ、その光が収まるとそこには。
「───エルマ型水中戦闘活動用プロトコル【キョウエイ・ダイバー】:征服人形の全タイプと比較しても中の上程度の性能はありますので」
「あーうん、やる気満々なのはよくわかった」
膝丈の競泳水着っぽいものに着替え、ゴーグルまでつけたガチガチの「泳ぐぜ」モードなサイナがドヤ顔で仁王立ちしていたのだった………ああうん、やる気満々だね、はい。
あとで聞いた話だと、戦闘活動フォームとは別に水中啓蒙活動プロトコル【マーメイド・グラビア】もあるらしい。欲しいのは戦闘力なので却下。
……
…………
「………………」
ダイビング・フィンをつけた足で水を蹴り、水中を進んでいる。モゴモゴと昆布を口の中でベストポジションに移動させつつ、点眼薬ではっきりと見える視界を首ごと動かして後ろからついてきているサイナを確認。
昆布を口の中で転がしている点に目を瞑れば、征服人形と女二人でダイビングして楽しんでるようにしか見えないだろう。サメ映画なら冒頭で死ぬやつな。
「…………ごぼぼ」
息を吸えば当然吐くわけで、僅かに開いた口から泡を吐き出しつつ、改めて懐中を見回す。
南国の海、って感じだな。色鮮やかな珊瑚に魚、明らかに人間も捕食対象に入ってそうなイソギンチャク、心なしか棘やらツノやらを生やした魚が多い気がするのはやはりファンタジー世界ゆえに外敵も、それに立ち向かう術も多彩であるためか。
「…………ごぼっ」
と、口の中に旨味が広がる。オキシケルプの効果時間が切れた証だ、唾液でふやけて旨味が出てきたら効果切れとのことだったので適当に噛んで飲み込んでから次のオキシケルプを口に放り込む。一緒に口の中に入った海水はしょっぱい、流石のクオリティと言うべきか。あるいは地球じゃない星でも海水はしょっぱいんだなと言うべきか。
うーん。十分くらい潜っているが、今のところエンカウントは無し。鰭薙ぎみたいな、こちらの刻傷を恐れず襲ってくるようなモンスターも今のところ姿を見ていない。まぁこっちに突っ込んでくるモンスターがいないならいないで採取が捗るからいいんだが……おっ、オキシケルプ発見。酸素残量が増えたぜ。
とはいえ浅瀬でちゃぷちゃぷして得られるアイテムのレアリティなんてたかがしれたもの。富める鮭王面の強化に使えるものもあるかもしれないが、やはりもっと強い素材が必要だろう。
「………………ごぼごぼ」
「………………」
サイナにハンドサイン。あらかじめ決めていたいくつかのハンドサインの中から「先に進む」を手で形作り、それを認識したサイナの両手が俺の両手を掴む。水中戦闘用のウォータージェットブースターを装備したサイナに引っ張ってもらった方がかつてはとあるゲーム内で「カエル界のキラーホエール」と恐れられた俺がドルフィンキックするよりも速い。
流石に深海まで行くつもりはないが………せめてもうちょっと強いモンスターがいるエリアまでは潜りたい。
サイナに引っ張られる形で進みつつ、なにかめぼしいモンスターはいないものかと周辺を警戒……と、視界に大きな影がよぎる。
「…………!」
ぐい、とサイナの腕を引っ張る。こちらを見たサイナに下を示し、そのまま俺はそれへとゆっくり近づいていく。
「………………ごぼぼぼ」
思わず泡が口から洩れる。上から見つけ見下ろしていたはずのそれは、近づき、海底に足をつけてみれば、見上げるほどに大きい。ちょっとしたトラックくらいあるんじゃないかこれ。
口の中に広がる旨味を噛みしめながら、俺とサイナはそれ…………凄まじく巨大な二枚貝を見つめるのだった。
プロトコル【マーメイド・グラビア】
エルマ型はビキニ。オプションでパレオだったりなんか色々ある。
半径2メートル以内に契約者以外が近づくとスタン・ビートに似た電撃が対象に叩き込まれる自衛モードでもある。アンドリュー君の”念”が籠っているのか、あるいは生前アンドリュー君がキモかったのかは不明だがあらゆる耐性を貫通してスタンさせて来る。
ちなみに契約者でもおいたをしたら電撃。
明日、12月16日にコミカライズ版シャングリラ・フロンティア11巻が発売です!
漫画の方では丁度ルルイアス編(GGC編)、はやくルストとモルド(あと秋津茜)が正式に旅狼に加入してくれないと番外編がずっと外道三人固定になってしまう……と悩んでいたらもう11巻です。二桁ァ!
特装版では外道三人が協力プレイで人間を襲ったり、人間に襲われたりしています。人道から外れた獣の末路だね、悲しいね。
ともあれ2022年の年の瀬はシャングリラ・フロンティアを読んでゆるりと過ごすのは如何でしょうか?硬梨菜は多分色違い厳選かサーモンランで年越ししてると思います。




