さぁ、未来に続く終焉に集え
◆
この状況をなんと形容すればいいのか。
「ネフホロを、やれ」
「アッハイ」
この俺が室内の隅に追い詰められ、壁面に「上下逆さに」張り付いたルスト(恐ろしく目が据わっている、多分仮に今断ったら喉笛を噛みちぎられる)の端的な言葉に、俺は肯定しか選択肢を持っていなかった。
がぢんがぢんと歯を鳴らしながら去っていったルストを見送ってから即座に比較的冷静な方ことモルドに話を聞いてみれば、どうやらネフホロ2の発売前に無印ネフホロなファイナルイベントを開催するらしい。
なるほど、道理でルストが壊れてるわけだ、多分これリアルでも同じ調子で社会的に致命傷を負い続けているのだろう……疲れ果てたモルドの目がそれを雄弁に物語っていた。
まあ、ギラギラした光を宿してるのはモルドも同じなんだが。狂犬の陰に隠れた狂犬め、大人しそうなツラして歴戦の闘犬なんだから油断できねぇんだこいつは。
ただまぁ、今回のルストは一味違った。狂犬が首輪と脳味噌のリミッターを食い千切って放し飼いになっているようなものである今のルストはネフホロプレイヤーである俺だけではなく………
「ネフホロネフホロネネネネネネネネネネネネネネネ……………」
「怖い怖い怖い怖い怖い!! 何何何何!? ちょっとルストちゃん!? 私対話できないタイプの人間がめーっちゃ苦手なんですけどー!!?」
ぎょるん(他人事だと思っていたオイカッツォに顔「だけ」動かした後に目玉を追いつかせる奇妙奇天烈な動きを見せる)
「ひぇ」
すなわち、誰彼見境なくネフホロの沼に叩き込もうとするおぞましい怪物が誕生していた。既によく分かっていないが快諾した秋津茜や五分間追いかけ回されて屈した京極も含めればあと残るは……
「あ、サンラク……君」
「あ、レイ氏───」
「サイガ-0、ネフホロをやれ」
「へ? え、あの……はぁ」
はい、コンプリート。これにて「旅狼」全員がネフホロに行くことが決定しましたとさ。
……これブッチしたらルストの奴、キレるとかじゃなくて泣き始めるんじゃねーかな。今の奴の感情は山の天気より信用できねぇ。
……
…………
………………
物事の上下を決定づけるのはなにも才能によるものだけではない。積み重ねた経験が生み出す習熟、時に才能の差を埋めるだけのアドバンテージたりうる経験の有無は挙動にこそ現れる。
『あの、ねぇ! ねぇって! 両足の爪先に力を入れながら人差し指でコンソール操作して他の指の動きで武装起動ってやること多過ぎない!?』
『京極、これが鋭角方向転換変形だ。超高速戦闘下においてはどんな高出力レーザーにも勝る一撃必殺テクニックなので覚えような。やり方としては曲がる瞬間に爪先を伸ばしたまま前転する感じだけど人によってはバク転の方がやりやすいって人もいて……』
『意味もなく高等テクニック見晒してマウント取るのはやめてもらえますぅー!?』
これはゲームにおける真理だが、真に完璧なゲームは過疎らない。
つまりネフホロが過疎ゲーたる最大の理由であるゴミ操作性という壁を前に未経験者が苦戦を強いられているのだった。
『くっ……ルストさん、動きの端々から妙に精密動作上手だなとは思ってたけど……』
『あの二人、このゲームで最強のコンビだし』
ロボットダンス以下のロボットのたうちを見せる京極を笑い飛ばしつつ、ネフィリムに搭乗したままに今回のファイナルイベント「アポカリプス・フェスタ」の内容を再確認する。
今回のイベント、なんでもネフホロ2で使う新型サーバーに無印サーバーを直結する事で限定的にシャンフロクラスのクオリティを旧作ゲームに導入するというストロングスタイル・エクステンドなイベントとなっている。
時系列的には1と2の時系列の中間……既に発表されているネフィリムホロウ2のプロローグが1のあれそれが一通り滅んでる状態なので公式が2に移行する前に全員死ねとプレイヤー達に喧嘩を売ってきたという訳だ。
当然、過疎の時代を生き抜いてきた強者や、定着した新規プレイヤー達は燃え上がった。批判の炎ではなく歓喜の炎で。
イベント内容としては名前の通り終焉の祭り、空から堕ちてくるネフィリムもどきを撃退しまくる陣営関係無し、人類vs悪性ネフィリムの最終決戦って訳だ。
『ど、どうだ!!』
『ガニ股でホバー移動してんのクソ面白いなお前』
『これ以外で安定しないの!!』
空飛べよ空、ホバー脚は二種類あるタイプのどちらかに突き詰めた時だけ環境クラスのパワーを発揮する上級者向けの脚部パーツだ、少なくとも妥協で浮かぶホバーは固定砲台より弱い。
『ホバーはガチタンか地上番長の二択だぞ』
『地上番長って?』
『アイススケートみたいにヌルッヌル地上を走り回るタイプ、範囲攻撃持ちに笑っちゃうくらい弱いけど逆に言うと範囲攻撃が無いと地獄の鬼ごっこが始まる』
フィールドが障害物多めだった場合は敵がミスるのを祈るかさっさとサレンダーした方が早いレベルで厄介だからな……まぁ俺が戦った時は墜落ギリギリの滑空で逃げる前に膝で轢いたけど。
『なんで僕だけこんな居残りみたいな……』
『同じ新規勢の秋津茜の半分以下の飲み込みだったからだよ』
他の面々はとっくにストーリー攻略と素材集めの周回中、ルストとモルドはガチ勢オブガチ勢なので誘った側のくせに俺らそっちのけでさらなる周回の旅へ。
そんなわけで必要パーツも大体揃えててもうやる事が殆どないそこそこ経験者の俺がドロップアウトガール京極の補習を担当している。
ピピッ
『ん? ゲーム内メール?』
何、もう一人追加? ルストの奴、【旅狼】の面子に飽き足らず他の人まで引き摺り込んでたのかよ……まぁ、京極がまだまだ卵の殻も取れないひよっこなので一人初心者が増えたところで教える内容に大差はないか。
えーと、このフリーエリアは伝えてあるからプレイヤーネームで探せ、と……名前は……
『SyG……いや、SyGか?』
ルストの知り合いなんだろうけどネフホロ新規であいつの知り合いっていうとリア友か何か───
『Hello!』
激しく既視感のあるカラーリングの軽量級ネフィリムから響いた声を聞いた瞬間、俺はネフィリムを変形させて最速で逃走した。
何してんのあの妖怪ネフホロ狂い!?
全力でエンジョイしに来た謎の新人プレイヤーシグさんと、シグさんをルストの同年代の友人だと勘違いしてやたら砕けた調子な京極の二人を相手に一分毎にカッツォへ呪詛を送信するサンラク先生の補習教室が始まる───!!
なお謎の新人プレイヤーシグさんは二分で鋭角ターンを習得した
ヒロインちゃん、中途半端に経験者なせいでストーリー攻略組の引率として後ろ髪鷲掴みな未練を抱えたまま旅立って行ったよ




