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スパイス・アルケミック

RPAに君も協力しよう!

───自分の駆け抜けた道を悔いるつもりはないが、自分の駆け抜けた道に無かったものを持つ者を見た時に心に湧き出る怒りでも悲しみでもないこの感情の名前はなんだろう(匿名希望の魚類)


───嫉妬やめてください(匿名希望の鳥頭)


───憎悪を育むのだ……泥のような感情が君を一流の鉄砲玉にする(匿名希望の文房具)


───薄汚れた喜怒哀楽でしか己を表現できない奴らが何言ってんだ(喧嘩上等の魚類)


───よし表出ろ(喧嘩上等の鳥頭と文房具)














ペッパー・カルダモンはサードレマにいた。どうも、自分がシャンフロに復帰する直前に倒されてしまったらしいレイドモンスターの影響か、いつにも増して人が多いように感じる円形都市下層にある宿屋の中で、ペッパーは己の進展を考えていた。


「やっぱり慧達は戦闘職だったし……やっぱり思い切って支援職とかにしようかしら」


ペッパーがエクゾーディナリーモンスターを倒した事を伝えたところ、数万円入った財布を無くしてもここまでの顔をするだろうかというレベルの哀しみを見せた慧に混乱するという一幕もあったが、どうやらなんらかの事情で慧はレベルが大幅に下がっているらしく、失った分を取り返すべく行うレベリングに恵も参加するところまで漕ぎ着けることができた。


何はともあれ二日後に慧とプライベートで遊ぶわけだ、それまでに最低限足を引っ張らないくらいには準備を整えなければならない。

ただでさえ慧はプライベートに知り合いを巻き込みたがらない人間なのだ、断じて不仲ではないが魚臣 慧という男は人が集まらなければソロを選ぶ人間であるし、顔隠しや名前隠しというプライベートな友人で間に合ってしまうと外様の自分達が入り込む隙が無くなってしまう。


「千載一遇なのよ、絶対に失敗できない……!!」


ならば己が取るべき行動は何か……そう、それはログアウト(・・・・・)に他ならない。



……


…………


………………



シャングリラ・フロンティアの攻略サイトはその膨大な情報量と、主に【ライブラリ】による熱心な更新によって今やとんでもない容量のデータベースと化している。携帯端末では満足にページを切り替えることすら困難、ヘッドセットタイプのVRシステムでようやく「重いけど動く」程度まで軽減される。

情報の更新を担当する【ライブラリ】のメンバーは皆チェアタイプのVRシステム……いわゆる「業務用」の所持が最低条件である、とまで言われておりそれですら最近は若干重くなってきたと言われている。

だが夏目 恵は日本最強のプレイヤーを要するプロゲーミングチームの一員であり、そして別に恵自身の戦績は中の上程度は常に確保している。つまり、国内上位のプロゲーマーでありそんじょそこらの「業務用」を持っている程度のプレイヤーとは資金力も設備力も比べ物にならないということだ。


「さて………マルチウィンドウ、表示枠を三つにして」


専用回線と最速の通信速度の保障を売りとするマンションの一室をまるまるゲーム用の設備で埋めている恵にとって、シャンフロ攻略サイトであっても物の数ではない。ネットサーフモードでフルダイブし、複数のウィンドウを表示させながら恵はサイト内の情報に目を通していく。

ジョブの性質、サードレマから続く三つのルートの情報、さらにどこぞの魚類と違って自発にこだわっていないので発見済みのユニークシナリオ、クエストなどの情報も洗い出していく恵であったが、丁度検索を始めてから十分ほど経過したところであるページにたどり着いた。


「アイテムの調合、生産に特化し……戦闘の際は作成したアイテムを使うことで他者を援護する戦闘生産職………ふぅん、ちょっと興味があるわね」


添付された画像を見るに、生産職としての手間をかけるだけの「火力」はあるらしい。支援職としてのジョブを探していた恵であったが、これならば与ダメージに貢献しつつも他の援護に回ることもできる。


「……錬金術師、魔法職からの派生なのね」


恵が口触りの良い言葉で隠蔽されていた「沼」に気づくのは、もう少し先のことである。

ネットサーフモードからゲームプレイモードに切り替え、そのままシャンフロへとログインした(ペッパー)はその足で魔法使いに転職する為の組合「ギルド」へと赴きメインジョブを魔法使いに変更。

剣士はサブに移しつつ、攻略サイトに記されていた通りにサードレマの片隅にぽつんと看板を出している小さな雑貨店へと足を踏み入れる。


「……いらっしゃい、何をお求めかな?」


鍋と屑鉄(・・・・)あと叡智(・・・・)


「……宜しい、では試験を行う。己が情熱を掲げて下に降りたまえ」


攻略サイトの通りにペッパーは行動を開始する。

最上位職業「錬金術師」は魔法使いから派生する「薬剤士」を発展させたものだ。つまりこの薬剤士への転職クエストは発注者が「魔法使い」であることが肝だ。

己の情熱、即ち自身の生み出した火を掲げて提示された階段を下りること……ファンタジーに見えてその手順は「店員を装った薬剤士ギルドの受付からランタンを購入し、自身の魔法で火を灯す」という若干世知辛いものであるが、幸いサードレマへの道を阻む泥掘り(マッドディグ)の素材を売り払ったことでやたらぼったくるランタンの費用は賄えている。


「これいただけるかしら?」


「成る程お目が高い、こちらで火をお点け致しましょうか?」


「不要よ、情熱の火は自分で灯せるもの」


魔法使いに転職した時点で習得する火魔法はこういうカラクリか……とランタンに点火しつつペッパーは階段を降りていく。背後から「ようこそ叡智の集う場へ……」と投げかけられた言葉は無事転職イベントを越えたという事だろう。

薄暗い階段を転ばないようにランタンで照らしながら降りた先、巨大な扉を開けばそこには数十人規模が入ることを前提とした広さの地下空間が広がっていた。


「青空?」


「いいや、あれは錬金術の真髄にて生み出された空蒼石って宝石アイテムで出来た天井さ」


「ああどうも……って、プレイヤー?」


地下に降りたはずだというのに、地下内を青々と照らす空色の天井への疑問に答えた人物をてっきりNPCと思っていたペッパーは振り向いた先にいた如何にもらしい(・・・)格好をした人物は頭上に「ラック・ピニオン」と表示されていた。つまりNPCではなく、プレイヤーという事だ。


「いやちょっと私用でサードレマにね、どうせなら先人としてデカい顔でもしてみようかなってね」


「ふぅん……装備が強そうだしレベル99とかなのかしら?」


「ははは、俺は新大陸の出戻り組だからね……114だよ」


成る程、と頷きつつも心の中でペッパーは僅かに驚きの感情を灯す。なにせ彼女がガラムマサラ重蔵だった頃はまだレベル上限が99だった、最近レベルキャップの解放条件が広まったと調べている中で知ったが、やはり最前線にいたプレイヤーともなれば既に3桁の大台にはなっているものなのだろう。

てっきり初心者寄りのエリアで燻っているならそう大したことはないのだろうと考えていただけにペッパーは口には出さずラック・ピニオンへの評価を上方修正する。


「で? その先輩は私に何か薫陶でもくれるのかしら?」


「登録受付ならそっちだよ、あと一つ攻略サイトにも載ってない極秘かつ耳寄りな情報がある」


攻略サイトに載っていない、その言葉はつい先程まで攻略サイトを読み込んでここに辿り着いたペッパーからすれば無視し難いものがある。既にサブに剣士を置きつつ、錬金術師までの最速チャートを組み上げていたペッパーは妙なデザインの片眼鏡を付けたプレイヤーの言葉に対して無関心を装ったものの……やはり興味深い言葉を完全に無視しきることは出来ず、意地の悪い笑みを浮かべた錬金術師の座るテーブルに同席する。


「ま、先輩だし話くらいは聞かないとね」


「そうだな……君は手っ取り早く要件を言った方がいいタイプかな」


「リアルもこっちもそこまで暇してないからそうしてくれると助かるわね」


「プレイヤークエストを知ってるか?」


「触り程度には」


プレイヤークエスト。

それは通常NPCからの依頼や状況による発生で提示されるクエストとは異なり、プレイヤーがプレイヤーあるいはNPCに依頼するクエストである。ことシャンフロにおいてNPCはゲーム的万能性を持たない。例えば鍛治屋に100件の依頼が入れば後になるほど完成までの時間が伸びたり、納品クエストを依頼するNPCが一定以上の納品を受けると別のNPCが同じクエストを発注したり……要するに、どれだけソロで貫き通していてもプレイヤーの力を借りなければならない時がある。


そんな時に有用なのがこのプレイヤークエストである。パーティ募集なども広義の意味でこれに含まれるかもしれないが、例えば戦闘職の技能ではどうしても手に入らないものがあった場合にギルドを通してクエストを出すことで必要技能を持つプレイヤー……この場合は生産職に代理で作って納品してもらう事で必要アイテムを入手する、などが出来る。


「……ま、簡単に言うと俺はとあるプレイヤーの下請けみたいなもんでね、いや中間管理職かな」


「プレイヤークエストに関与してるって事?」


「ま、そういう事だね。事の発端はつい先日討伐された彷徨う大疫青だ」


サードレマの喉元にまで迫ったたった一体の大侵攻は、サードレマという都市のリソースを大きく削った。

だがそこに目をつけたプレイヤーがいた、仮にA氏と呼ぶがA氏は旧大陸でも屈指の商会の伝手を利用してサードレマ大公に接触、自身がプレイヤークエストで生産職達に回復ポーションなどを納品してもらう事で消耗したサードレマの補填とするプランを持ちかけた。


「……成る程? つまり初心者にも協力してもらう為の手先が貴方ってことなのね」


「手先って言い方は悪役っぽいからやめてほしいなぁ……ま、こっちにも旨味があるから協力してるわけだけど」


「具体的には?」


「あー、実はサードレマの上層に土地が欲しくてね。アトリエ兼マイハウス建てたいんだけど普通にプレイしてたんじゃ時間も金もかかる」


ラック・ピニオンの言葉が全て真実とは思えないが嘘だけではないようにも見える、とはいえ真贋を見抜く目などペッパーは持っていないので勘でしかないのだが。

要するにそのA氏とやらはネズミ講のような事をこのシャンフロでやろうとしているらしい。とはいえプレイヤーに詐欺を仕掛けようとかそういうわけではないようで、なにせラック・ピニオンが提示した「報酬」は普通にギルドや雑貨屋などで売却するよりも大きく色がつけられた値段だ。マーニを大量に使ってでも土地が欲しいのだろうか……と首を傾げたが、楽しみ方は人それぞれかと考え直す。


「ちなみにレートは?」


「この炸裂反応ポーションで大体通常レートの1.5倍で……で、これは特別に君だけに伝える耳寄り情報なんだけど、実はこれ手間賃で何割か僕みたいな回収係が差し引いてるからサードレマの邸宅に直接持っていくと1.8倍くらいのレートで───」


錬金術師を目指すにあたっての小技などのアドバイスも交えながら「商談」を続けていくラック・ピニオンの言葉にいつしか身体を前に傾けて聞き入るペッパー。そこでふと、ペッパーの装備しているローブに妙な模様が刺繍されていることに気づいた。ファンタジーにしては妙に現実くさい(・・・・・)模様にペッパーは思わず問いかけた。


「いきなりで悪いけどなにそのマーク」


「これ? あー、まぁA氏の計画に加担してるプレイヤーが勝手につけてるロゴみたいなやつだよ。RPAマークってね」


「ふーん? 「赤い鉛筆」のマークが、ねぇ……」


その言葉にラック・ピニオンはなにも答えなかった。ただ、歯車にレンズを入れたような奇妙なモノクルを光らせながら浮かべた笑みをペッパーは見たことがない……だが彼が身に纏う雰囲気を何処かで感じたことがあるような。











「やぁメグ、じゃないペッパー。今日はよろし…………なんか装備が初心者のそれじゃなくない?」


「え? こ、これ!? えと、ちょっといい稼ぎを見つけて頑張りすぎたというか……あははは」


「いい稼ぎ?」


「生産職向けのプレイヤークエストがあってね、そこで資金とかそういうのを融通したのよ……Aさん? とRPAって赤い鉛筆マークの人達が主催してるんだけど……ってどうしたの? 顔色悪いけど」


「赤い鉛筆マーク……アカい鉛筆………あ、あの野郎……」

レッド・ペンシル・エージェンシー

国取り戦の鉛筆衆達のこと、アーサー・ペンシルゴンの優秀な手駒であり他者に詐欺まがいの事をすることにあまり抵抗がない要注意集団

いやいや嘘なんてついてませんよ土地が欲しいのは本当です、ただサードレマに納品したアイテムがなにに使われるのかは説明しないし、ライブラリ内部に潜り込んだエージェントやゼニス・ゲバラなどに代表される鉛筆に全面協力する情報屋たちの情報操作によってこの「二面作戦」は未だ水面下で蠢いている。


ちなみに夏目ちゃんは同志ハグルマン……もといラック・ピニオンの口車に乗せられて稼いだ金で錬金術に必要なアイテムを買うなどして無事サードレマ経済という名の滑車を回すハムスターとなった模様

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― 新着の感想 ―
さっき一回書いたけどなんか見えなくて書き直す これは錬金術で中間素材つくって本来付与できない効果を付与できるのでは?例えば宝石匠が宝石を布にしてから防具にしたように(あるアトリエシリーズ由来の思考) …
こう…真っ赤な旗にィ…黄色い鉛筆と分度器を…クロスさせてェ…
[一言] 赤い鉛筆…赤…共産主義…あっ(デェェェェェン)
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