帝晶双蠍の設定を激情のままに書き連ねたもの
まんぞく(ほっこり)
此度は新大陸にて新たにその存在を確認された水晶群蠍の亜種について記述したいと思う。
帝晶双蠍
シグモニア前線渓谷、その特殊な立地(調査の結果、元々は丘陵地帯であった場所が後天的に削られて今の形になったと推測される)における中央部頂上、水晶の冠にのみ生息する水晶群蠍の亜種。厳密には水晶群蠍の亜種ではなく共通の先祖、起源種から派生した近縁種と呼ぶべき存在。
かつて記述した偏食性を十分に満たした環境における水晶群蠍の進化系に極めて近しい存在であり、その生態や性質もまた水晶群蠍(以降便宜上「原種」と呼称する)とは大きく異なったものとなっている。
原種の全身は水晶体によって構成されているが、帝晶双蠍の場合は彼らの生態と密接に関わるツァーベリル帝宝晶と同質の鉱物質によってその全身を構築している。これは後天的な偏食と月光による魔力蓄積によって変質した金晶独蠍(以後「亜種」呼称)とは明確に異なる先天的な形態である。
基本的に原種の中からまれに発生する偏食性を備えた個体が亜種としての進化を遂げるが、帝晶双蠍の場合は言うなれば亜種としての性質を持つ個体が原種と同様の進化を遂げた種と呼ぶべき存在だ。
原種は自らと摂食対象の水晶を同質のものへと変化させることで排泄物や亡骸に至るまでをサイクルに組み込むまでに参加したが、水晶を摂食可能とするまでには幾らかの時間を必要としていた。これは原種が必要とする水晶は内部に魔力を蓄積させる必要があるためであり、近年の研究では彼らが食らう水晶は時間経過によって魔力を蓄積する性質を持つことが判明している。
だが帝晶双蠍が生息する水晶地帯は一つの種が命を紡ぐ場としては非常に狭い地域であり、仮に水晶巣崖と同じ環境であったとしても原種がここに生息した場合、遠からず絶滅するだろう。彼らの自給率と自足率が釣り合っていないが為にそう遠くない未来に水晶の全てを食い尽くしてしまう為だ。さらに水晶地帯の広さが水晶群老蠍の生息に適さない為、幼体の育成にも問題が発生するだろう。
ここで重要になってくるのがツァーベリル帝宝晶である。この鉱石は日光と月光を浴びることで魔力を蓄積し、昼夜において別々の輝きを放つ性質を持つ。魔力の性質そのものが光によって変質するという特性に関して今は語らないが、重要な点はツァーベリル帝宝晶がおよそ半日で魔力を外部へと漏出するほどに蓄積するということだ。
これは帝晶双蠍の生態系を維持するにあたって非常に重要な役割を果たしている。何故ならば、ツァーベリル帝宝晶と同質の身体を持つ帝晶双蠍もまた同様の現象を引き起こす為である。これにより水晶冠では極めて短いスパンでの自給自足が成立しており、それにより原種とは大きく異なる生態系を築き上げている。
とはいえ狭い土地に種族の全てが暮らしているためか、彼らは原種とは異なり同種族同士で協力することがほとんどない。というのも、彼らは個体個体によって明確なテリトリーを所有している。帝晶双蠍は自身のテリトリーで一生を終えるが為に、自身のテリトリーに踏み込んだ者は仮に同族であったとしても容赦しないのだ。
同族同士での戦闘によって個体が死亡した場合、空いたテリトリーは戦闘に勝利した個体が六割、残った四割を近隣の個体が分割する。であれば積極的に他テリトリーへの侵略を行う個体が発生しそうなものではあるが、余剰テリトリーは次世代、すなわち自身の子供へと割譲する役割を持つため基本的に帝晶双蠍が必要以上のテリトリーを求めることは稀である。同族すら敵対の対象ではあるが、彼らは決して自身の欲望で種の絶滅を招くことを容認しない。それは外部からの侵入者が複数のテリトリーを犯した際に見せる卓越したコンビネーションからも窺える。
具体的にはテニス。
さらに余談ではあるがツァーベリル帝宝晶が発生させる高濃度の魔力は周辺にモンスターを引き寄せる効果を持つことが明らかになっている、これは一定以上のサイズへと進化したモンスターが物質的なエネルギー補給ではその肉体を維持することができず、大気中の魔力を摂取もしくは自身の体内で魔力を生成する特性を獲得する傾向にあるためである。信憑性には欠けるものの、一部文献では新大陸の果ての果てでは自ら魔力を生成し、体内や体表に特異な生態系を築き上げるモンスターも存在するらしい。
話を戻そう、ツァーベリル帝宝晶という「食料」を得たことでシグモニア前線渓谷にたどり着いた起源種は特異な進化を遂げた。原種たる水晶群蠍があくまでも水晶を食料として用いているのに対して、帝晶双蠍はその生態を環境に強く依存していると言っていいだろう。
ツァーベリル帝宝晶が帯びる魔力は二種類、赤い魔力と碧い魔力である。これらは日光及び月光に依存する為通常はどちらか一方のみの輝きしか放つことはない。だが帝晶双蠍はそれらの性質変化を任意で行うことが可能であり、全身の肉体の魔力色を変化させた赤あるいは碧の魔力を逆色の環境にぶつけることで攻撃の手段としている。そしてそれに適応した刑場へと肉体が変化しているのだ。
まず鋏、原種同様ツァーベリル帝宝晶を摂取する為の形状をしているものの、亜種のような攻撃に特化した形状とは異なり、二つの直方体を重ねたような特異な形状をしている。これは鋏の根元部分から後述の攻撃を行う為に変化した形状であると推測される。
帝晶双蠍は主に自身から放った魔力を周囲のツァーベリル帝宝晶にぶつけることで魔力を増幅させ、最終的に自身がそれを回収、体内で圧縮した魔力を鋏から放つことができる。瀕死の際は自前の魔力のみで攻撃することもあるようだが、基本的には周囲の環境をも自身の一部とした攻撃を行う。
この鋏は強力な圧縮魔力に指向性を持たせる為の役割も担っており、人間程度であれば一瞬で蒸発させることができる量の魔力放出に耐えるだけの頑強さも兼ね備えている。この二つの鋏から放たれる圧縮魔力光の形状をある程度帝晶双蠍側で指定できるらしく、双方の鋏から放たれる魔力光を束ねることで大規模照射を可能としたり、あえて魔力光の収束を行わないことで分岐させた魔力光をツァーベリル帝宝晶にぶつけることで様々な現象を起こすこともできる。一説によれば自身へのダメージが発生することから余程の事態でない限りは使うことはないが、魔力光そのものを鋏で保持することで光の剣のようなものを生成することも可能なのではないか、と推測されている。
次に尻尾、これは帝晶双蠍の戦闘において極めて重要な役割を持つ。原種や亜種と異なり体液注入という機能を完全に捨てた帝晶双蠍の尻尾は体液の代わりに自身の魔力を放ち、受け止めることに特化している。その形状は針、というよりもメイスに似た形状であり、放った魔力を受け止める為により振り回しやすい形状に進化したものであると言える。
当然物理的な攻撃としても有用ではあるが、特筆すべきはその驚異的な可動域であり、原種や亜種と比較しても尻尾が持つ役割は大きく、これを損失した場合帝晶双蠍は自身の体内(厳密には全身を構築するツァーベリル帝宝晶と同質の肉体そのもの)で生成される魔力のみで戦わざるを得ず、大幅に戦力を損なうことになる。
ここで少々話題から離れるが、ツァーベリル帝宝晶が帯びる魔力の性質について説明しよう。
ツァーベリル帝宝晶が赤と碧、二つの魔力を持つことは前述のとおりであるが、これらの性質は全く異なるものとなっている。赤い魔力は碧い魔力と混ざり合うことがなく、二つの魔力をぶつけた場合は碧い魔力が弾かれる性質を見せる。帝晶双蠍の攻撃手段の一つである反射増幅魔力光はこの特性を転用したものであり、碧い魔力を「芯」として放つことにより「芯」が赤色のツァーベリル帝宝晶に反射される際に幾分かの赤い魔力を纏った状態で次のツァーベリル帝宝晶へと飛んでいく。この際に纏われた赤い魔力が弾かれない理由は不明だが、帝晶双蠍が何らかの処理を施しているのでは、と考えられている。
そして最初の反射以降、弾かれる際に「芯」が持ち去る魔力量は段階的に増大していき、最終的に帝晶双蠍本体が尻尾で魔力塊をインターセプトすることで攻撃へと転用する。それだけではなく単純に水晶冠を反射する厄介な攻撃としても用いることができる。
ではその逆ではどうなるのか。ツァーベリル帝宝晶が碧の魔力を帯びている状態で赤い魔力をぶつけた場合、前述の現象とは真逆の現象が起きる。放たれた赤い魔力は反射されず、ツァーベリル帝宝晶内部へと吸収されるのだ。これは互いの魔力の比率によって起きる現象と考えられており、理論上は赤いツァーベリル帝宝晶が含有する魔力量以上の碧い魔力をぶつければ夜間現象が起きると推測される。
碧いツァーベリル帝宝晶に取り込まれた赤い魔力であるが、それは吸収されることなくツァーベリル帝宝晶内部で乱反射に似た現象を起こす。これは外部からはツァーベリル帝宝晶が赤と碧交互に点滅するかのように観測され、一定以上の反射を行うことで水晶内に蓄積された魔力がかき乱され、ツァーベリル帝宝晶そのものが魔力の乱れに耐え切れず破裂する。鉱物が内側からの圧力によって破裂した際の破壊力は言うに及ばないだろう、少なくとも人間が飛び散る鋭利な水晶片に直撃すれば一瞬で全身に穴が穿たれることになるだろう。
これらの特性を得た帝晶双蠍は全身宝石と呼ぶべき美しさと、環境そのものの想像を絶する美しさも相まってさながら水晶の冠に輝く宝石のようだとされ、新大陸に住まう種族がいつしか「この地の中央に輝ける王冠あり」と語り継ぐようになったのも納得の美しさである。
では最後に、帝晶双蠍というモンスターのみならず原種、亜種の先祖たる古代種、及び起源種について語りたいと思う。
極々稀なケースではあるものの、外部環境とは完全に隔離された限定的な環境下において、超古代における姿をそのまま維持した古代種と呼べるモンスターが発見されることがある。ジュラ・ヴァルカンレクスなどが該当する現存古代種だが、今のところ水晶群蠍の古代種が発見されたという報告は上がっていないものの、出土される化石などから恐らく彼らの起源に近しいモンスターが発掘された例がある。
そのモンスター……「硬求古蠍」と名付けられたその蠍は恐らく先天的に種族全体が喰纏種(自信が摂取した物質を自身に反映させ、子孫にも限定的に継承する特性を持つ体質異常現象)としての性質を持つモンスターであるためか、個体それぞれが全く異なる姿をしているが共通して肉体をより強く固くすることに執着している様子が多く見られる。
化石でのみかつての姿を見せる彼らは皆一様に硬いという一点で共通する様々な外殻を持ち、珍しいものでは今なお風化による性質の劣化を見せない謎の外殻を持った個体も発見されている(なお、調査団が正体不明のモンスターによる襲撃を受けたが為に現物は喪失している)
これらの資料から読み取れる事実は、彼らが鉱物食というあまりに特異な生態を獲得するに至った背景は起源種及び古代種が自身の肉体をより頑強にしたいという想いが子孫にまで継承されたからではないか、と筆者は推測する。おおよそ文明的な知性を持たないモンスターではあるものの、そんな単純な願いは時を超えて子孫たちに反映されたのだろう。
いまや化石と成り果て、されど子孫を遺した彼らが何を思い遥かな古代を生き延びたのか……それはまさしく彼らのみぞ知る事実なのだろう。
ぶっちゃけ本編には全く関係ないいつもの発作です
別に蠍は好きじゃないんですけど本能に身をまかせるとこうなるんです、信じてください!!
蠍の古代種に関しては現状の段階で生きてる個体を登場させるつもりはありません。まぁそのうち感情が暴走して出すこ可能性も0%ではありませんがどうでしょうね、化石だからこその「粋」もあると思うのです
補完設定ですが蠍種の歴史年表
・[──規制済──]によるリセット以降、急速な進化を遂げる生態系の中においてバクテリアから派生した生物の一つとして起源種誕生、この時点ではまだ海底を這いずり微生物を捕食するザリガニと蠍の中間みたいな小さな生物だった。
・進化の過程で肉体の巨大化と攻撃的な器官の発達、この時点で喰纏種としての突然変異が発生する。本来は一代限りで終わるはずのこの特性が何らかの理由で継承される。一応理由はあるけどまだ明かせない、強いて言うならちょっとだけ彼らは賢かった。
・深海三強の先祖たちが暴れ始めたため、少なくない数のモンスターたちが新天地たる地上へ進出する。蠍の起源種達はこの時点で機動力が割とゴミだったため地上進出を決心、主にシャチの先祖にムシャムシャされたトラウマからかVIT至上主義にも目覚める。まぁしゃーない、奴らの先祖は顎に特化してたのでエレボスやアイテールの柔い所を噛み砕けたし。
・地上進出する際に種族の大体三割くらいが新大陸へ、残り七割は旧大陸へと進出する。これはただの偶然、この地上に進出した起源種達が地上生活に特化したのが「硬求古蠍」と呼ばれるモンスター。この頃はまだ積極的に他モンスターを襲ったりしていた、蠍蛮族時代。
・ここから分岐
A.旧大陸に進出した硬求古蠍達であったが、他モンスター達が比較的「柔らかい」進化を遂げたために自身らの欲求を満たせず悪食に走る。木や石をかじるのはもちろん、土ばっか食ってたせいで完全に土と同化したドジっ子もいた。ここで彼らはとある水晶と運命の出会いを果たす。
B.新大陸に進出した硬求古蠍達であったが、過酷な環境でライザップされたモンスター達は硬求古蠍をしても強敵が多く、特に某蜘蛛と百足の戦闘力がやばかった為に生存競争で脱落しかけていた。この時点で渡り鳥のような特性を持ち始め、様々な地を転々としつつ己を強くする素材を求めていた(あわよくば安定供給できる土地)。
A.己を固くすることができる水晶と出会った硬求古蠍達はこれらをメインの食料とすることに決定、この際に[──規制済──]現象が発生、ほとんどの個体が鉱物食と肉体変質性に変化する。
B.こっちの硬求古蠍達は放浪を繰り返すも満足のいく土地を見つけることができず、割とシャレにならないレベルで滅びかけていた。しかもこのタイミングで[──規制済──]現象が発生したことで新大陸側の彼らも鉱物食に目覚めてしまう。昨日まで美味しく食べてた肉が受け付けなくなった彼らの心境や如何に。
A.こちらは平和、安住の地を見つけ種族を増やし始める。一部の長寿個体が肉体の巨大化傾向を見せ始める。この時点では今よりも高い確率で偏食個体が発生していた。[──規制済──]現象とて完璧に種族全てを塗り尽くすわけではないので。
B.こっちは大パニック、可及的速やかに食料を確保する……以前の問題として「何なら食えるのか」の把握から始めなければならなかったため絶滅へのカウントダウンが二倍速になる。
A.以下略、ハッピーエンド
B.個体数が100を切ったところで鉱物が美味しいことに気づく。さらに蠍達以上に巨大化への道を歩みだした他種族の脅威などもあり、鉱山に寄り道しつつ外敵のいない地帯へと逃げるように移動する。余談だが鉱人族が利用する鉱床のいくつかは彼らが掘り起こした名残。
・B群、大陸中央部の丘陵地帯に追いやられる。絶滅までいくばくかというタイミングでツァーベリル帝宝晶と運命の出会いを果たす。水晶群蠍の特性を持っていなければこの時点でツァーベリル帝宝晶を食い尽くして滅びていた。
・B群、急速に進化を遂げ現在の帝晶双蠍に極めて近いところにまで進化する。このタイミングで現在のバトルスタイルを獲得し、外敵への効果的対抗手段を保有する。
巨大化しすぎてにっちもさっちもいかなくなったガルガンチュラ種及びトレイノル・センチピード種が襲来、種族をかけた防衛戦が勃発する。
・いつしかガルガンチュラ種及びトレイノル・センチピード種が互いに殺し合うようになり、帝晶双蠍及びツァーベリル帝宝晶は二種族のエネルギー補給源として不可侵領域となる。二種族の殺し合いが丘陵地帯周辺で円を描くように続いたため、いつしかドーナツ型の渓谷が出来上がり、帝晶双蠍は物理的に隔絶された状態となる。
・水晶群蠍と異なりテリトリーの拡大ができなくなった帝晶双蠍は現在のテリトリー主義に転向する。現在も節約生活ではあるもののそれなりに幸せな生活を送っている。
・最近友達ができました! あいつが来るとテリトリーを増やせるのでありがたいです!
・最近変態が来るようになりました、あいつ殺しても殺しても這い上がってくるのでうざいです




