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第5話 ~我慢できず……~

「はぁ…………」


 疲れた……今までの人生の中で1番と確実に言えるほど疲れたよ。

 何でかって? そんなの決まってる。

 さっきまで行われていた生徒会関連の式で見た目は大人だけど頭脳は子供っぽさが残っている高校2年生で、赤みがかった髪を肩甲骨あたりまで伸ばしており、くりっとした瞳が可愛らしい美少女こと天川桜が会長挨拶で俺の存在を大々的に全校に知らせてくれたからだ。

 おかげでさ、同じクラスの連中から片付けして教室に戻ったときに嫉妬の視線もらったよ。大空のファンなのか知らないが、女子も数名睨んでた。予想してたとはいえ堪える。

 いや俺だって嫉妬の視線を受けるってのは覚悟してたよ。覚悟して体育館に入ったわけだしさ。

 でもね、本来なら俺に視線を送るやつはもっと数は少なかったはずなんだよ。クラスの全員と親しい仲ではないからさ。

 つまり視線を送ってくる奴がそれなりに親しいやつか、教室に張ってあった生徒会メンバーの紙をちゃんと見ていた真面目なやつだけだったはずなんだ。

 いや……本当に真面目なやつなら別に生徒会入ったからって嫉妬めいた視線を送らないか。生徒会入るなんて偉いなみたいな感じの感情を抱くに決まってる。


「……はぁ」

「真央くん」


 1時間にも満たない時間を思い返して、ため息をついていると声をかけられた。

 言ってなかったが、今いるのは生徒会室だ。荷物は隅の方に置いて、イスに座って俯いていたわけだよ。


「さっきからため息ついてるけどどうしたの? お腹でも痛いの?」


 どうしたのって、いま俺がこうなってるのはあんたの所為だよ! あんたの! ……あぁー内心で突っ込むのもきついわぁ。

 本当にあんたは気楽な顔してるよねー。

 片付けのときもニコニコしてたし。今は心配そうな顔をしてるけどさ。……女相手に思うのはどうかと思うけど、顔面に1発入れたいなぁ。顔面に1発入れたら少しはすっきりするかもしれないし。

 でもやったらこのくそ天然会長泣きそうだし、周囲からは非難されるだろうし、下手したら退学とかの可能性もゼロじゃない。

 今の考えを行動に移してたら余計に状況が悪化するのは確実で、改善することはまずないな。


「……会長」

「なに?」

「とりあえず近づかないでもらえます?」

「……えぇ!? 突然の近づくな宣言!?」


 ホントに元気良いですねー。俺が小学生の先生で、会長が教え子だったらしょっちゅう褒めてあげてますよきっと。

 でもね、今は凄くうるさいです。

 俺が先生だったら「天川、そんなに大きな声じゃなくていいからな」って言ってるよ。ただし小学生ならね。中学からは普通にうるさいって言ってると思う。


「――というわけで黙ってもらえませんかね?」

「今度は黙れ、って何がというわけなの!? 私、分かんないだけど!?」


 うるさい、黙れ天然会長。いや処刑人、または死神。

 さっき落ち着かせた感情がまたグツグツと湧いてくるだろ。

 それとも顔面に入れていいのあんた? 我慢した後のって手加減とかできないよ。

 ……とにかくさ、俺の自制心を破壊しないでね。俺だって問題とか起こしたくないからさ。


「ねぇ、私って真央くんに何か怒らせるようなことしたかな?」


 ……本気で1発入れ込むぞあんた! 惚とぼけた顔しやがってよ!

 大体なんでピンポイントに人をイライラさせること言うんだよ。本当はあんた、分かってやってるんじゃねぇだろうな!


「あぅ……なんで睨むの? 私が何かしたんなら謝るから理由教えてよ」

「……理由ですか?」

「教えてくれるの?」

「……いいですよ、教えてあげます」


 おぉー怯えてたのに急に笑顔になったよこの人。

 頭の中で『理由を知る=謝ることができて、今後はしないように心がけられる→許してもらえて仲直り成功』って感じの式が成り立ってるのかねー。

 あのねー会長さん、謝ってすぐに許してもらえるのは小学生ガキの頃だけなんだよ。いや、同じ失敗を繰り返してたら小学生でも許してもらえなくなるけどね。

 高校生ってのはもう数年すれば社会人にだってなるんだぜ。謝って済むことが少ないことは分かってるよな?


「なになに!」

「それは……会長が嫌いだからです」

「……えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」


 嫌いとか言われたことなさそうだから下手したら泣くかもって思ったけど、天然さんの中では驚きの感情の方が勝ったわけね。


「な、なんで、昨日までは結構友好的だったよね真央くん!? それがどうして嫌いになるの!? というかなんで笑顔で言うのかな!? 言ってることと表情が噛みあってないよ!?」


 驚愕しながらツッコミ入れるのってこんな感じなんだ。

 俺も内心でこんなことやってたんだな。いやーホントに内心だけにしててよかった。口にしてやってたらうるさいやつ、または変人扱いされる。それかお笑い芸人志望って思われるかもしれない。

 というかこの天然会長ってまともなツッコミできたんだな。てっきり生徒会においてボケだけ担当って思ってたんだけど。


「桜、ツッコミはあなたの担当じゃなくて奈々の担当でしょう。ツッコミの担当を取っちゃったら奈々泣いちゃうわよ」

「泣かねぇよ! チナツ、テメェの中のわたしはどんだけ泣き虫なんだ!」


 氷室先輩ハンパねぇ。月森先輩が口を閉じたのとほぼ同時のツッコミだったぞ。

 確かにツッコミは氷室先輩の担当だ。というか、この人より早くツッコミを入れれるやつはここにいないし、探してもそうはいないと思う。

 それにしても、月森先輩の会話に入り方おかしいだろ。会長に話しかけたと思わせて氷室先輩に話しかけてるようなもんだし。


「そうね……1人で寝れないくらいかしら」

「寝れるわ! 毎日1人で寝てるわ!」

「え……?」

「何で本気で驚いた顔してんだよ!?」


 本気で驚かれたことに氷室先輩驚いてるよ。それでもツッコミを忘れずにやる。ある意味ツッコミと顔芸の合体技だな。先輩やるねー。


「ちょっ、奈々嘘つかないでよ。驚くじゃない」

「嘘ついてねぇよ!」

「う、嘘よッ!」

「なんで本気の否定が返って来るんだよ!? わたしが1人で寝たらおかしいのかよ!」

「おかしいわよ!」

「本気の肯定かよテメェ!」


 この2人って仲良いよねー。

 おそらく口にしたら氷室先輩が即行で仲良くないって返してくるんだろうなぁー。

 そして月森先輩が「そんなひどい……あの愛し合った日々はなんだったの奈々?」とか言ってさらにやりとりが続きそう。


「わたしが1人で寝ることのどこがおかしいんだよ!」

「奈々が1人で寝るって言ったらご両親、泣いちゃうからよ」

「なんでわたしの親が泣くの!? これってわたしに対しての話じゃなかったのか!?」


 何か月森先輩、ただ弄るのが飽きたのか方向性変えてきたな。

 おそらく氷室先輩がどれだけ泣き虫かって聞いて、その返答あたりから方向性を気づかれないように変えたんだろうな。

 やっぱりあの人って怖いね。気づかない間にあの人の手の平の上で踊らされているってなっても不思議に思わないし。


「私が奈々の母親でもきっと泣くわ」

「お前、話聞いてる? 別にうちの親泣いてねぇから。というかお前が泣くなんてありえねぇだろ」

「ありえないなんて酷いわ。こんなに小さくて可愛くて、抱き枕にちょうど良さそうな奈々と一緒に寝れないのよ?」

「人として扱ってねぇな、おい! 一緒に寝れないから寂しいとかじゃないのかよ。というか自分を抱き枕にできない本人に尋ねんじゃねぇ!」


 それはごもっとも。自分を抱き枕にはできない。自分そっくりな人形でも作らない限り。

 それとお疲れさまです氷室先輩。

 肩で息をするほど本気でツッコミを入れていたんですね。

 無意識にツッコませる言動をするくそ会長とか、全力でツッコませるための行動を意図的にやる月森先輩の相手は疲れますもんね。


「ねぇねぇ千夏、自分から話しかけてきたのに即行で放置というのはひどいと思います」


 会長、俺と話してから少しキャラがぶれてきてないか?

 あんたは真面目に不真面目なことをぶっこむキャラだろ。あっ、間違った。それは月森先輩だ。あんたは無意識に人にツッコミを入れさせようとしたり、イラつくことをやる天然野郎だった。

 はぁ……疲れてるのかな俺。非常識人ってこと以外は真逆と言えそうな性格の人達を混同するなんて。


「奈々、ちょうどいいとこだったし終わりにしましょう。楽しかったわね」

「……楽しかったのはテメェだけだっつうの」

「さてと、桜待たせたわね。話してくれていいわよ」


 氷室先輩のボソッと、ではなく堂々と呟かれた独り言を何事もなくスルーした月森先輩はくそ会長に顔を向ける。

 あれ? 何か会長から話しかけたみたいに変わってねぇか? ……まあいいや。とりあえず俺の精神を乱す会長の相手は月森先輩がやってくれるみたいだし。


「千夏!」

「何かし……桜、顔が近すぎるわ。あともう少し声の大きさを下げてもらえる?」


 いま俺が会長と話してたら「うるさい」って言ってただろうな。直接会話してなくてうるさいって思ったし。

 今思えば、会長の美声ってこういうときが1番困る。

 意識を向けていないときってあまり他人の声って耳に入ってこないものなのに、会長の声は意識を向けてなくても耳に入ってくる声だし。

 少しでもうるさいって思わないためには……距離を取るしかないか。

 よし、善は急げだ。会長の意識が俺に向いていないうちに少し離れよう。


「これくらいでいい?」

「ええ。それでなに?」

「あのね……私、面と向かって嫌いって言われたことないんだ」


 でしょうねー。

 なんだかんだであんたみたいな人って嫌われないから。でも嫌われなくても、時々ウザいとかは思われていただろうけどね。


「だから千夏、面と向かって嫌いって言った相手と仲直りできる方法教えて!」


 そうかそうか、面と向かって嫌いと言った相手と仲直り……えぇ!?

 あのさ会長さん、普通そこに行き着くのはもっと色々考えたあとだと思うんだ・例えば落ち込むんだりさ、何が原因だったのか考えるとかね。

 さっきぶれてきてないかって思っちゃったけど、全然キャラぶれてなかったね。あんたはどこまでも天然の善い子ちゃんだったよ!


「え、えっと……」


 会長に詰め寄られている月森先輩はどう答えていいか分からず、困惑した表情を浮かべている。

 何かこっちをチラチラと見てきているな先輩。

 助けて欲しいんですか? まあ嫌というか、助けませんけどね。会長の相手すると感情が湧き上がって何かするかもしれませんから。 

 そういう意味を込めて、視線を月森先輩から外した。

 それとほぼ同時に「薄情者!」という心の声が聞こえた気がしたよ。だって鋭い視線を感じたしね。きっとこの感覚を殺気って言うんだろうな。


「……というかお前、いつまで笑ってんだよ」


 視線を、テーブルに突っ伏して声にならない声を出しながら時折ピクッと震えている同級生の生徒会会計に向ける。

 生徒会を訪れて俺の顔を見たときから、現在行われている会長と月森先輩の会話。今の今までと呼べるほど、秋本はずっと笑い続けている。

 最初は人の不幸を笑うとはいい趣味してるな、ってイライラを覚えていた。

 しかしだ、ここまで長時間続くと怒りは消えて心配とかの感情が湧いてくるんだ。

 ぶっちゃけ……


「……ッ! …………!!」


 ……今もあまり呼吸できていないように見えるし。

 というかここまで笑うとなると、もうツボに入ったとかのレベルじゃなくね?

 一度病院に行くべきくらいのレベルだと個人的に思うんだ。どこの科に行けばいいかは医学の知識とかないから分からんけど。


「……お前、大丈夫か?」

「…………。…………」


 とりあえず尋ねてみた。

 すると秋本は身体をピクピク震わせながら、親指を立てた手を俺の方に出してくる。


「え~と、大丈夫だから心配するなって解釈でいいのか?」

「…………」

「うん、その解釈でいい。とりあえず話しかけないでくれるとありがたい。いや話しかけるな、思い出して笑う」

「…………」

「だからしゃべんなっていってんじゃん。分かってんならやめ……あっ、また笑いが込み上げてきた。あぁもう! しゃべ……腹が……腹が捩ねじれる。やめろしゃべるな、しゃべるなって言ってるだろ。だから……」

「そこまで読み取れるなら黙ろうぜキリタニ!」


 秋本の状態から言いそうなことを推測して言葉にしていると、氷室先輩にツッコまれてしまった。

 氷室先輩の方に視線を向けると同情の混じった顔をしている。その同情は俺へのかな? いや今の状況とツッコミの内容からして秋本へのだろうな。


「いやーあくまで俺の推測ですから合ってるのか確かめたいじゃないですか」

「うん、まぁその考えは分かんなくもねぇ。だけどよ、アキモトのやつの状態が悪化してただろ。悪化したってことは合ってたってオメェなら分かると思うんだ。なんですぐに止めなかったんだ?」


 おぉ……氷室先輩って普通のテンションで長くしゃべれたんですね。しかも一度も噛むことなく。

 あれ? 何かギロりという効果音が聞こえてきそうなほど睨にらまれてるぞ。

 やっぱりこの人って子供っぽいことや見た目をバカにするようなことを考えるだけで分かっちゃう能力の持ち主なのかな? それともさっさと質問に答えろという無言の合図とか?

 流れにあまり関係ない気もするけど、背丈的に先輩は俺を見上げてる状態だ。

 つまり上目遣いで睨まれていることになる。何が言いたいのかっていうと、鋭い目を見て恐怖心が湧いても、外見が視界に入ったのと同時に薄れるんだよね。


「……特に問題なくストレス発散できるなぁーと思ってたらずっと言ってました」

「罪のねぇアキモトに矛先向けるなよ! 確かに笑ってるだけだから問題はないけどさ。でも下手したらアキモト、呼吸困難で死んでたからな!」

「そうですね……でも罪はあるでしょ」

「……なんだよ?」


 怒りながら言ったように思ったけど、意外と聞いてくれるんですね。先輩って背が伸びなかった分、心が広くなったんですね。


「今はどうか分かりませんけど、最初の方は人の不幸を笑ってたでしょ?」

「……確かに」


 小さな先輩、今の理由で納得してくれたぜ。

 多分秋本を笑わせただけだから納得してくれたんだろうけどね。

 先輩とは仲良くなれそうです。いや、天然会長や先輩とは別の副会長という非常識人が2人もいるんだから仲良くなろう。

 じゃないと俺ひとりじゃツッコミが持たないもん。まぁ俺は先輩と違って心の中で言ってるけどね。


「真央くんッ!」


 ……うるさいッ!

 真後ろ1メートル以内から大声で話しかけるんじゃない。

 声の主は間違いなくあの人。今日の流れと俺を名前で呼んだってことからして間違いない。


「……なんですか会ちょ……う……」


 え……。

 ………………ええええぇぇぇぇぇぇぇ! なななななにやってんの!?

 いやいや落ち着け、落ち着くんだ俺! テンパるな、物事は冷静に対処すれば大抵のことは何とでもなるもんだろ。

 まず状況を確認だ。


 Q.場所はどこ?

 A.学校の生徒会室。


 Q.じゃあ今、俺の目の前にいるのは?

 A.首もとのリボンを解いて、ボタンとかを下着がギリギリ見えないくらいに外している会長。俺のほうが身長が高いこともあって胸の谷間がはっきり見えている。


 ……ええええぇぇぇぇぇ!?

 マジでなにやってんのあんた。男子の目の前で過激な格好とかさ。ここは女子更衣室じゃないんだよ!?


「わ、私のこと……好きにしていいから許して!」


 な、なんですとおぉぉぉおッ!?

 最初は恥ずかしそうな顔だったのに即行で真顔になったぞ。絶対最初の顔は演技だろ! ってそうじゃねぇだろ俺。

 何口走ってるのあんた……あんた、確か月森先輩と『面と向かって嫌いと言ってきた相手と仲直りするには?』っていう難題の話し合いしてただろ。

 ん? ……はっ!?


「…………ふふ」


 視線を送って確認したけど、やっぱりあんたの差し金かぁぁぁぁ!

 しかもちゃっかり最初は恥ずかしそうにやれとか演技指導までしただろ。というか、どこをどうやったら身体を差し出すっていう答えに辿り着くんだよ!

 あんただって今年で17歳になる年頃の女だろ! 発想が大人だなんて今回のは肯定的に捉えられないし、言えないかんな!

 はっ!? ……いや落ち着け俺、高校は義務教育じゃない。別に20歳以上の人が入ってもいいんじゃないのか(普通は大学に行くと思うけど)。

 つまり月森先輩は俺の1つ上ではなく、もっと年上なんじゃ……


「私は今年で17歳よ。もちろん桜も奈々もね」


 なんで今その言葉が出るんですか!? 俺の心を読めるの!?

 嫌ぁぁぁぁ! 心の中でツッコんだ瞬間、笑ったよあの人。絶対とまでは言わないけど、ある程度心の中読まれるって気がしてならねぇぇぇぇ! 

 それと、やっぱり先輩が言った年齢は信じられない!

 月森先輩は読心術とか何か色々とやってることが17歳じゃないから・会長は羞恥心などのなさとか子供っぽいところがあるので17歳に見えない。氷室先輩は心はいいけど、見た目が17歳には見えねぇ。

 よく思えば生徒会の2年、全員17歳に見えないじゃん!?


「真央くん、こっち見てよ!」

「見れるか!」


 あんたは自分の恥ずかしい姿を見てほしいっていう変態か!

 ってついに声に出してツッコんじゃったよ。でも仕方がないよね、無意識にツッコむほどのもんなんだし。というかこの場にいてツッコまない人っているの?


「なんで!」

「会長、話すのはいいですけどまずは服装を整えてください!」

「放して誠くん!」


 何やってんのこの人達。

 はたから見たら服装が乱れている美少女に美少年が後ろから抱き付いているようにしか見えないぞ。シチュで言えば・

 美少年が美少女に何か(詳しくは言わない)をしようとして、拒まれてしまい、別れ話になったので必死に美少女を引きとめようとする美少年。

 おそらくこんな感じになるだろう。


「――私は真央くんと大切な話をしてるんだから!」

「大切な話をするのにその服装はおかしいでしょう!」


 何このツッコミどころがあるんだけど、2人の意見が食い違っているように思えてツッコめない状況。あの氷室先輩でさえツッコまないんだぞ。

 というか大空、なんで両腕で会長の胸を上下で挟むように抱きついたの?

 会長の育った胸がかなり強調されてるんだよ。自然と視線がそこに行っちゃうくらいに。

 言っておくけど、別に俺は変態じゃないからな。目の前に服装の乱れて大きな胸が強調されている美少女がいたら男なら誰だって見ちゃうだろ。見ないやつは同性愛者か女性恐怖症のやつだけよきっと。

 だから今の俺は健康な男子高校生としては当たり前の反応だろ。

 でもな、これでもできるだけ見ないように必死に会長から顔を逸らしてんだぞ。これがどれだけ大変なことかは男なら分かるだろ?


「真央くん、人と話すときは顔を見て話すのが礼儀なんだよ! 私を見てよ!」

「あら桜ったら、大胆」

「見れねぇって言っただろうが!」


 というか月森先輩はなにちゃっかりと途中に一言入れたんだよ!

 あなたが入るとさらにカオスになっていくから黙ってて! そもそもあんたの所為でこんな状況になってんだよ!

 ……なんで会長への言葉は口に出したのに、月森先輩には言わないのかって?

 そんなの無理に決まってんだろ。まず第一にあの人に向かってツッコむ勇気は俺にはねぇよ。

 だってあの人への恐怖心が身体に染み込んじゃってるもん。ツッコんだらまた捕食者のような目で見られそうだもの。

 でも読心術みたいなことできてる節があるから心の中で言っても無駄かもしれないけどねー。


「あぅ……ま、まおくんはわたしの顔を見たくないほどきらいなの?」


 一瞬にして泣きそうになったよこの人!?

 というかさ、俺は見たくないとは言ってねぇだろ。あんたの服装が問題で面と向かって見れねぇつってんだよ!

 年頃の男子だからチラッとは見ちゃってるのはツッコまないで。


「なに会長を泣かしているんだお前!」


 会長を抱き締めながら言うんじゃねぇよ! というか、いつまで抱きついてんだよお前もさ!


「女の子を泣かせるなんてサイテー」


 …………。

 何なのあの人!? もう何なのよあの人!?

 自分がこの状況を招いたのにさ、クラスの委員長みたいな立ち位置を急に演じ始めて俺を罵倒するとかありえなくね。

 しかも今かけてる眼鏡はどこから出したの。ついさっきまでなかったよね。この人はこの人で会長に負けないほどの人にツッコませる人物だな。


「いやいやあなたがこの事態を招いたんですよね。それでサイテーとか……あなたが最低ですよ」

「もうそんなに褒めないでよ」


 褒めてねぇよ!

 というかなんで本気で笑ってんの!?

 無意識に最低って言っちゃって内心冷や冷やしてたんだよ俺、まさかの展開過ぎる。それと最低を褒め言葉って受け取る人物ってあんただけだと思うよ!


「褒めてない!」

「え……?」

「そのくだりはいい!」


 それはさっき氷室先輩とのときにやったでしょ。最近のお気に入りなんですかね!


「そこで切る辺り奈々とは違うわね――面白い」

「面白いのはあなただけだからね!」

「それは違うわ……何故なら」


 そう言って先輩が指を使って示した方向には呼吸困難のように見える秋本の姿があった。そしてその秋本を心配して声をかけている氷室先輩の姿も。

 お前……まだ笑ってたの。ツボに入った所為でどこまで笑うラインが下がってるわけ?

 氷室先輩、ツッコまないと思ったらそんな理由があったんですか。


「……あいつは面白いから笑ってるというよりは、もう病気か何かで笑ってるんでしょう。放っておきましょうよ。氷室先輩が見てますし」

「……桐谷くん、短い時間でやたらと冷たくなってない?」

「そんなことは今はどうでもいいじゃないですか。それよりも会長ですよ、会長。先輩の所為で泣きそうになってるじゃないですか」


 今も泣きそうな顔でこっち見てるしさ。「あぅ~」とか可愛らしい言葉というか泣き声を発しながら。それに「ぐすっ」っていう擬音語も時折。


「桐谷くん、責任転嫁はやめてほしいわ。この状況を招いたのは私にも責任があるかもしれない」


 いやいや『私に責任がある』の間違いでしょ。


「だけど元々桐谷くんが桜に嫌いって言ったからじゃないの」

「それは……そうですが……。……でも先輩が俺の立場だったらどうなんですか? 個人的に超ド級の変態でもない限り嬉しいとは思いませんよ」

「そうなのよねー。だから桜にどう言っていいのか分からなかったのよ」

「いやいや分からないなら分からないでいいじゃないですか。なんでああいう手を使うんですか」

「分からないって言ったら私のキャラがぶれちゃうじゃない。なんでかって聞かれたら……困って助けを求めたのに見捨てたからかしら♪」

「ぶれても会長は分からないと思うんですけど。それと俺が参加してたら余計に会長を追い込んでたと思いますけど」


 お互いにこやかに笑顔で途中から会話し始める。表面上はにこやかでも、互いの内心は決してにこやかではないことは容易に分かるだろう。

 だけど、ここにはそれが分からない人物がいたんだ。


「ちなつは……すきなんだ。ううん、……まおくんはわたし以外はすきで……わたしだけきらいなんだ」


 泣き崩れかけてるよ会長さん!?

 というか物事を勘違いした挙句、悪い方向に捉えすぎるんじゃないかな!


「(桐谷くん、さっさと桜に声をかけるのよ! それで好きって言いなさい!)」

「(声はかけますけど、好きっては言いませんよ! 俺が会長に告白したって噂を広がりそうですし)」


 言い広める犯人はもちろん月森先輩。

 それにしても会長絡みだと簡単にアイコンタクトで会話が成立するから不思議だ。まあいいとして、意識を涙目になっている会長だけに切り替えよう。

 うん、なんで服装直してないのかなー。大空は離れているのにさ。服装を元に戻しとけよ大空。

 まずは泣き止ませないとな。好きなんて言えないから……アレで行くか。


「会長……」

「あぅ……ぇ?」


 とりあえず会長が大好きな頭なでなでをやってみた。

 するとだ、最初は驚いていたものの徐々に気持ち良さそうに目を細めていく。凄い効き目だけど、これが使えるのはこの人だけだろう。


「その……さっきは気が立ってたので言い過ぎました、すみません。別に嫌いじゃないですから」

「……じゃあすき?」

「それはないです」

「あぅぅ……」


 やっべ、反射的に答えちゃったよ。

 でもさ、『嫌いじゃない』への返答が好き? って質問はおかしいと思うんだ。


「……ほら、俺と会長はまだ会ったばかりじゃないですか。好きってなるのはまだ先ですよ。でも、会長のダメなところが治ったらすぐに好きになると思います」

「ほんと? ……ダメなところ教えて」


 元気出てきた途端、本性を表し始めやがったな。

 なにちゃっかり聞こうとしているんだ。あんたのダメなところはそういうのを自分で考えないから治らないんだぞ。


「教えません」

「なんでー?」

「こればかりは自分で考えないとダメです。じゃないといつまで経っても治りませんよ。会長は良い会長になるんでしょ?」

「……分かった。頑張って考えてダメなところをどうにかする」


 教えなかったからか少し口を尖らせてるけど、どうにか泣く恐れは消えたようだ。

 よかったぁ……どうにかなったよ。子供みたいに聞き分けなかったらどうしようって不安もあったからマジでよかった。


「そうだわ桜、このあとどこかで桐谷くんの歓迎会しましょう」

「うん、良いね! やろうやろう!」


 急に元気になったぞ会長さん。

 話題が変わったから今さっきまでのこと忘れたのだろうか? そうだったら幸せな生活を送ることに長けた頭してるなー。

 まあ何か食べられるってことで元気が出たのかもしれないけど。

 ただ……ここでさすがに行きたくないなんて言えるわけないよな。せっかく会長が元気になったわけだし。

 でも行って学校の連中に見られたら……いやどうせ早いか遅いかの違いだけか。なら見られたっていいや。



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