第19話 ~生徒会in桐谷家 その4~
着替えが終わってリビングに戻ると、目に飛び込んできたのはかなりブチ切れている亜衣と由理香。
その次に2人のやりとりを見ている生徒会だった。月森先輩は、会長達と違って笑いながら姉妹のケンカを見ているあたり彼女の性格性を実感させられる。
あんた、やっぱり人とズレてるな。
普通は今日初めて会った人間達が口ゲンカしてたら気まずかったりするだろ。あの天然な会長でさえオロオロしてるっていうのに。
にしても、誠と秋本の姿はリビングには見当たらない。
誠は鼻血を出していたので生徒会のメンツに心配をかけたくないとか、恥ずかしいから見られたくないと思って家のどこかにいるのだろう。
性格的に考えて大丈夫だとは思うが、ティッシュがなかった場合は洗面台とか血がたれても大丈夫なところにいてくれることを望む。
秋本は……俺より先にリビングに向かったのにいないということは、誠を探しに行ったな。
鼻血のことで弄るためなのか、心配して行ったのかは分からないが。誠に対しては両方ありそうだからなぁ……。
「で……」
俺のシスターズは何でケンカしてるんだろうか。
リビングに近づくにつれて何やら騒がしいなとは思っていた。月森先輩が氷室先輩でもからかったか、秋本が誠をからかったのだろうと思っていたのだがそれは状況からして外れ。
……そういうことか。
先ほど誠が俺のところに来て秋本から助けてくれたわけだが、本来の目的は妹達を止めてもらうために俺を呼びに来たのだろう。
ちょっと待てよ……。
ケンカの様子からして今始まったばかりのようには思えない。つまり誠は俺が本格的に襲われそうになる前から部屋の前に居たんじゃないだろうか。部屋に入ってきたとき顔が赤かったことの説明も付くし。
そして秋本のやつは、誠がドアの向こう側にいると分かったから言動のエロ度を上げたのでは。その方が誠の妄想は加速するわけだし、あんなイタズラをしかけてきた理由も納得は出来る。
……って、今は亜衣と由理香をどうにかするのが先か。
「由理香のほうがお兄ちゃんと仲良しだもん!」
「ハ、勘違いがすげぇな。あれのどこが仲良しだよ。兄貴はお前のことウザいって思ってるね!」
「思ってないよ! なんだかんだで相手してくれるもん。自分が素直に甘えられないからって由理香に嫉妬しないでよね!」
「何でお前に嫉妬しなくちゃいけねぇんだよ。大体な、もうベタベタ甘える歳じゃねぇだろうが!」
……えーと、今回のケンカは、いつもの女らしさみたいなことじゃなくて、亜衣が由理香に説教している。だけど由理香は、亜衣の言うことに納得できず逆ギレしているってことでいいのかな。
うーん……由理香の今後を考えると、亜衣を応援すべきだよな。
だけどここで俺が入ると、絶対といっていいほどの確率で面倒な展開になる。片方の味方をしたら……なんでそっちの味方するの、私のこと嫌いなの? みたいなことを言い方は違えど言いそうだし。
何でそう予想するかというとだ……小さい頃に実際に経験したことがあるからだ。
昔の亜衣は今では見る影もないが、由理香のようなところがあるやつだった。まぁ普通に兄に甘える妹だっただけなのだが。
亜衣と由理香は、見ていて分かると思うが好きなことなど反対側を向いていることが多い。そのため昔からよくケンカしていた。片方が外で遊びたいと言えば、もう片方は中で本を読んでほしいとかそういう感じにな。
というわけで……生徒会の連中には悪いけど、下手に口を挟んだらややこしくなりそうだから放っておこうかな。
「妹がお兄ちゃんに甘えて何が悪いの。大体お姉ちゃんはお兄ちゃんを傷つけてるって自覚してるの!」
「私のどこが兄貴を傷つけてんだよ!」
「ほんの少し前まで由理香と同じくらいお兄ちゃんにベッタリついて回って甘えてたのに、急に素っ気無くなったら嫌われたんじゃ……って思うでしょ!」
……なんで断定なんだ?
俺、由理香に亜衣が素っ気無いとか、甘えてくれなくて寂しいとか言ったことあったっけ。俺の記憶が正しいなら無いはずなんだけど。
それに……亜衣が俺について回ってたのって小学生のときまでだったような。今みたいな亜衣になってもう数年経ってるんだからほんの少し前ではないのでは?
「それは……そうかもしれねぇけど」
意外とクリティカルヒットしてる!?
亜衣、俺は別にお前に嫌われてるとか思ったことないぞ。普通に思春期迎えてるのにベタベタ甘えてくるほうがおかしいって思うから。だから安心しろ。
「だからお姉ちゃんの分まで由理香が甘えてるんじゃない」
「それはおかしいだろ。私とお前はおにぃの妹ってことは同じだけど別人だろうが。仮におにぃが傷ついてたり寂しがってたりしても、お前が私の分まで甘えたところで何も意味がねぇよ! お前が甘えたいって欲求を満たしてるだけだろ!」
さすが亜衣。俺よりもズバッと言えるね。俺はあそこまで本気で怒れませんよ。だって慣れちゃってるからそこまで感情高ぶらないし。
それよりも……一瞬ドキッとしたね。
あまりにも自然に出てきたので違和感を覚えたなかったが、俺って昔は亜衣から『おにぃ』って呼ばれてたんだよね。亜衣が中学生に上がる前か上がってからあたりから兄貴』って呼ばれるようになったけど。
確か……『おにぃ』と呼んでいた時期が、亜衣が由理香ほどではないが俺に甘えていた時期だろう。『兄貴』と呼ぶようになってからは、肌が触れるようなスキンシップはしなくなった。下着姿やらを見られても平気なのは変わらなかったけどね。
物心ついた頃から思春期迎えるまでおにぃって呼んでたから今みたいに無意識に言うことがあるんだな。まあ兄貴って呼んでる時間の方が短いからおかしくない話なんだけど。でも改めて言われると何かこっちも恥ずかしいね。
「このブラコン!」
「自分だってブラコンのくせに!」
「ハァ? 私がブラコンだって? ふざけんじゃねぇよ、私のどこがブラコンだ!」
「知らないとでも思ってるの。由理香は知ってるんだから。お姉ちゃんがお兄ちゃんの服の匂い嗅いでること!」
え……ええぇぇぇぇぇぇぇッ!? 初耳なんですけど!
う、嘘だよな。亜衣が由理香のような行動をするやつなわけないよな……って何で亜衣さん、顔を赤くした上に動揺している顔をしてるんですか!?
「な……バ、バカちげぇよ! 確かにおにぃの服の匂いを嗅いだってのは合ってるけど――」
合ってんの!? じゃあ何が違うの!?
いや……待つんだ、落ち着くんだ俺。きっと亜衣のことだ。この後ちゃんとした理由を言ってくれるはず。
「今合ってるって言った。ほら、お姉ちゃんだってブラコンじゃん!」
「最後まで聞きやがれ! おにぃがこの前、戻り臭がするみたいなこと言ってたんだよ。だから確認しただけだ!」
あぁ、確かに言ってたな俺。亜衣が聞いてるとは思ってなかったけど。
そういや洗剤が前とは別のになってたっけ。いつものがなかったのかくらいにしか思ってなかったけど。亜衣、お前って家事できるだけでなく、気配りもできるなんて出来たやつだ。将来はきっと由理香よりも良いお嫁さんになれるよ。
まぁそれはまだ先の話だから今は言わないでおく。お前に彼氏ができたら言ってやろう。だからさっさと彼氏作れ。
由理香に彼氏ができないって話はブラコンだから理解できるんだが……
亜衣は確かに少々口が悪い上に家ではがさつってところがある。だがそれは許容できるレベルだろうし、そこを抜けば問題はない。寧ろ男からすれば優良物件のはず。
おそらく学校ではがさつな部分は特にないだろうから男子達に少なからず人気があるだろう。
なのに……なんで彼氏ができないのかねー。亜衣の性格が強気だから告白できないとか? それか容姿の問題だろうか? 俺みたいに平凡なやつは、容姿とかでつりあわないって考えそうだし。
でもそれなりに生徒のいる学校だからイケメンのひとりやふたりいるだろう。何でそいつらは亜衣に行かないんだ。自分勝手な性格じゃないなら亜衣だって嫌がりはしないだろうに。
それとも告白とかされてるけど亜衣がフッてるとか? ……ありえるな。
よく知らないやつに告白されてOKしそうじゃないし。でも亜衣なら友達から、とか言いそうな気もする。……もう考えるのやめよう。そのときが来てから考えればいい。今考えてもこれといって意味がないし。
「ねぇキリりん、何が起こってんの?」
と、耳に聞こえたのと同時に後ろから誰かに抱きつかれた。
抱きついてきた人物(俺の呼び方で誰だかはすでに分かっている)は、胸をより押し付けるためか脇の下あたりから体の前に腕を回している。
後方にいる人物の顔が俺の顔のちょうど右にあるので、右手を握り締めて自分の顔の右あたりに勢い良く持って行った。
「あぐッ!?」
可愛らしい悲鳴と共に抱きついていたやつが離れる。
振り返ってみると、予想通り先ほど人のことを散々からかってきた秋本の姿があった。俺の裏拳? はどうやら秋本のでこに当たったようで、秋本はでこを手で押さえている。
「ッ……痛いじゃん、何すんのさ!」
「変態の捕縛から脱出」
「ガチな顔とトーンで変態言うな!」
「だったら変態のような言動すんな」
「うっ……抱きつくのは変態のやることじゃないじゃん」
何で急にしおらしくなるのお前。
ほんとキャラが多彩なやつだな。ただ単に自業自得って理解はしてるだろうから反論しにくかっただけかもしれないが。
「それはそうだが、変態がやる場合は別だろ。大人しく家に帰れ」
「分かったよ――って家に!? そこは『大人しく待ってろ』とかじゃないの!?」
だってお前がいる限り真面目な空気になりそうにないんだもの。それに勉強会が始まらないなら生徒会のメンツをうちに居させる理由がなくなる。
俺は勉強会をするって言ったから家に入れたんだからな。ってこいつの相手をしている場合ではない。
「はいはい、悪かった。大人しく待ってろ。出来たらここに居ていいから。今はお前の相手をしている時間はない」
「う……まこと~」
秋本は泣き真似しながら、秋本と同様にしれっと戻ってきていた誠に抱きついた。
「きりたにがつめたいよ~」
「そっか。でも僕は恵那が悪いと思うよ」
誠さん、予想外に冷たい反応だ。前の誠、つまり一方的に俺が悪いと言ってた誠の姿は微塵もない。
「まこともつめたい……いいもん、勝手に自分を慰めるから」
ボソッとそう呟いた秋本は、自分の顔を誠の胸の位置に持って行く。2人の背丈は同じくらいなので、秋本は少々足を曲げている構図だ。
それだけに今の体勢はかえって自分を痛めつけているのでは? と思ってしまうのは俺だけではないはず。そう思って、秋本に抱きつかれている誠に視線を送った。
「っ……!」
……即行で逸らされました。
誠さん、あなたは俺のことが嫌いになったんですか? 別に友好的だった関係でもないけれども。生徒会の仲間以上友人未満みたいな関係だけれども。
でも……俺と視線は重なった瞬間に逸らすことないじゃないですか。
さっきの一件が原因なんですか? もしそうならひどいよ……さっきのは秋本が全て悪いんだから。……さっき?
そういやさっき誠は鼻血出したっけ。それを誠が気にしていて恥ずかしいと思っているとすれば……俺の配慮が足りなかったな。俺だって鼻血を出したら、そのあとそのことに触れられるのは嫌だ。
よし、こいつらじゃなくて妹達に意識を向け――
「……小さい」
――ようとした瞬間、ゴツっなんて表現が生温いような鈍い音が聞こえた。
意識を誠達の方に戻すと、頭を両手で押さえて蹲うずくまっている秋本。その秋本を怒りの混じった冷たい眼差しで見下ろす誠さんが見えました。
誠さんの握られた拳がやや高い位置にあることと、痛みで悶絶している秋本から予想して――誠さんが秋本にげんこつを落としたんでしょう。
「恵那……恵那はなんでそうなのかな?」
「な…………何がさ? というか……まずは謝ろうよ。いくら何でも今のはひどいでしょ」
「何がじゃない!」
いったい秋本は誠に何を言ったんだろうか。
誠は弄られるやつではあるが、今日のはいつにも増して怒っているように見える。
「というか、ひどいのはそっちだろ。僕のことよく分かってるのに僕が気にしてることを言ったくせに!」
「いやーそれはその……思ったことは素直に口から出てしまいまして」
「思っても口に出して言うな!」
「まぁまぁ、そんなに怒んないでよ。事実なんだしさ」
秋本、お前は誠を落ち着かせたいのか怒らせたいのかどっちなんだ?
この2人の会話のキーワードになってる言葉は良く分からないが、誠が気にしてるということは女性らしさに関することだと推測できる。
それに加えて秋本の先ほどの体勢、秋本の視線などから考えて……胸のことかな。そう思った俺は誠に意識を向ける。
言っておくが胸には向けてないぞ。貧乳には興味ない、って言う奴じゃないからな。あくまで誠の全体を見る感じで見てるから。
誠は秋本の『事実』という言葉が効いたようで、拳を力の限り握り締めながら身体を小刻みに震わせている。相当怒っていらっしゃる確率100%だ。
「……事実だけど……事実だけど言うなよな! あぁそうだよ、確かに僕は小さい方だよ。だけど僕が気にしてること恵那は知ってるだろ。人が傷つくこと言って恵那は楽しいのか!!」
誠さんが今までで1番ブチ切れてる。初対面のあのときよりも絶対ブチ切れてる。
その証拠に誠さんの迫力にあの変態さんである秋本が完全に怖気付いているもん。
おい秋本、その「桐谷ヘルプ!」みたいな目は何だ。お前が招いたことなんだからお前で片付けろ。そもそも俺は、妹達の場合は中立に立つがお前と誠なら誠側につくから助けても求めても無駄だ。
「えーいや、その……誠、気持ちは分かる。だからいったん落ち……」
「胸も大きくて今どきの女子って感じの恵那に僕の気持ちが分かってたまるか! というか、分かってないだろ。大体桐谷と会ってから恵那は嘘やら冗談を言う頻度が高くなったよね。桐谷にはそういう関わり方ってことで、まあ先輩達があれだからとやかく言わないけど!」
誠さん、そこは言ってください。正直生徒会で1番面倒なのは秋本なんで。
会長も面倒だけどそれなりに構ってあげたり、何か会長にも得のある条件で提案すれば大人しくできる。月森先輩は底が見えなかったりして怖いけれど、最近あの人の素を何度も見ている所為か恐怖心が大分なくなった。打たれ弱いので頑張って反撃すれば何とかできる可能性もある。
だけど秋本は……相手してやったらもっとって空気になり、相手しないと構ってよと絡んでくる。頭を叩いたりしても効果がない。よって俺にはどうにもできないんだ。だからお願い、誠さんガツンと言って。
「桐谷以外に……特に先輩からもおちょくられる僕にはやめろよ! 1番いいのは桐谷にもしないことだけど。恵那が……桐谷が好きってなら仕方がない。自分の気持ちに素直になれなくて違う言動をするってのはよくあることだし……」
あれー何か途中からおかしな方向に話が進み始めてるぞ。
解釈の仕方によっては、誠が俺の部屋でやられたことを恵那に仕返しているとも取れるけど。あの誠さんがそんなことを意図的にするはずもないよね。真っ先に自分がパンクしそうになっちゃうから。
「……バレちゃったか。実はあたし、桐谷のこと好き――」
「家からたたき出すぞ」
「――だけど、それは友達としてであって異性としてではありません」
まったく、誠の説教の効果はなかったようだな。俺にはやっていいみたいな感じに誠が言ったからかもしれないが。
さて、いい加減に本来の目的を果たそう。誠に意識向けてたら秋本と最終的に絡んでしまうようだし。そういや……さっきから亜衣と由理香の声がしない気が。
2人の方に視線を向けると、2人は顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。2人とも真っ赤な顔だが、顔を見る限り赤くなっている理由は異なるようだ。
由理香は頬を膨らませていかにも怒ってますよって顔をしている。顔が赤いのは怒っているからだろう。亜衣は……何というかまずいものを見られたり聞かれたりしたって感じの顔をしている。顔が赤い理由は恥ずかしいからかな。
確かに俺の服の匂いを嗅いでるとか話に出てたから恥ずかしいのは分かる。
だけどちゃんとした理由があるのだから恥ずかしがる必要はないのではないか。ぶっちゃけ普段の家での姿を見られるほうが恥ずかしいと思うべきことだろうし。
「ケンカ終わったのか?」
「そっちのやりとりの話をしようぜ、みたいな空気なのによく言えたなキリタニ」
氷室先輩にツッコまれたけど今回は気にしないでおこう。だって気にしてたら話が進まないだろうから。
「終わってないよ、全然終わってない!」
由理香はギュッと拳を握り締めながら元気な声を発する。普段大人しいだけに大声でもそこまでうるさいって思わないからある意味得しているよね。まあ声質も問題あるとは思うけど。
でも……今日のお前は何かキャラがブレてるな。
普段はそんなに元気な声は、亜衣とケンカしている時くらいにしか出さないのに。
というか、大人しくなってたのに終わってないのかよ。亜衣は一瞬「え、終わってないのかよ」みたいな顔したのに。
「お姉ちゃんとのケンカなんかよりお兄ちゃんのこと優先だから!」
やべぇ、由理香が口を開いてほんのわずかな時間で空気がよりカオスになったぞ。それ以上に何で心の声に対応したかのような発言が出るのかな。いつからお前はそんな非常識な技能を身に付けたんだ。
まあ会長以外の人間は「間違いない、この子は正真正銘のブラコンだ!」みたいな反応しかしてないけどね。とりあえずこれは置いておくとして
個人的にはケンカって『なんか』をつけれるほど軽いものじゃないと思うんだけど。
亜衣が由理香みたいなら2人の意思がケンカよりも俺ってなるから分からなくもないんだけど。でも亜衣はブラコンじゃないしな。亜衣が由理香みたいだったら……俺は即行で熱測ったりして病院連れて行くだろうな。
「というかお兄ちゃん、何で由理香じゃなくて他の人ばかり構うの!」
「いや、客人いるのに妹の相手するやつはいないだろ」
「昔はしてくれたじゃん!」
そりゃ昔だからね。
目を離すと何やらかすか心配だったし、何かやらかしたときに怒られるの俺だったわけだから。
「亜衣」
「何おに……んだよ兄貴!」
うおっ!?
何で急に大声出すんだよお前。マジでびっくりしたぞ。
「なに急に怒ってるんだお前?」
「怒ってねぇよクソ兄貴!」
兄貴の前に『クソ』ってつけたってことは怒ってんじゃん! 顔も真っ赤じゃん!
何で亜衣は急に怒り始めたんだ? 突然過ぎてさっぱり分からない。俺何か亜衣にしたか? ……いや何もしてないよな。身体的接触はおろか、これといって口論もしていない。
「黙ってないでさっさと言えよな!」
「お姉ちゃん、恥ずかしいこと聞かれたからってお兄ちゃんに怒るのは間違ってるよ!」
「うるせぇ、私は兄貴と話してんだよ! ブラコンは黙ってろ!」
「お姉ちゃんこそ黙ればいいと思うよ! ブラコンブラコンって自分だってブラコンのくせに!」
……また始まってしまった。こいつらってこれといってきっかけがなくてもケンカするんだな。
まぁ日頃からケンカする奴らだし放っておいていいか。口で言い合うだけで殴りあったりはしないだろうし。それにケンカするほど仲が良いって言うしな。
「うるさいですけど、勉強会始めましょうか」
「真央くん、止めなくていいの?」
「いいです。ケンカなんてよくあることですし、別に殴ったあったりしませんから。それに昔から言うじゃないですか、ケンカするほど仲が良いって」
「そっか……あれ? それだど私と真央くんは仲良くないってこと?」
「……別にケンカしない=仲が悪いってことじゃないでしょ。ケンカしないことに越したことはないわけですから」
「いま間があったわね」
そこの長い黒髪の人、ツッコミを入れないで。あなたのツッコミは、氷室先輩とかのと違ってカオスの方向に進みそうだから。
「でもでも! 真央くんって私よりもよくケンカしてる恵那ちゃんとの方が仲良いよね」
「会長さん分かってる~!」
「仲良くないですよ。だって俺、生徒会であいつが1番嫌いですから」
「ちょっ!? 桐谷、そのマジなトーンで言われたら傷つくじゃん。それと、そのやっと言えた……みたいな清々しい笑顔は何!」
あはは、何のことかな。俺は会長を見習ってただ思ったことを素直に口にしただけだよ。
「話してないで勉強しましょう。勉強しないなら3名ほど帰ってもらいます」
「奈々先輩、3名って誰だと思います?」
「普通に考えて、生徒会の非常識度の高い順に3名だろうよ」
「つまり奈々、誠、恵那ってことね」
「ちげぇよ! お前の常識があるやつから上げたその思考が非常識だ!」
「それと、僕的には恵那より会長の方が常識あるように思えます」
「……チナツだけでなくマコトもさらっと入ってきたな」
「奈々と誠が2人ががりでなんて……ふふ」
「……全員帰らせようかな」