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第18話 ~生徒会in桐谷家 その3~

 月森先輩とのやりとりは、お互い息切れするほど言い合った後に疲れたからやめようということで終了を迎えた。

 言い合っている最中に他の連中が静かだな、とは思っていたが……まさかお茶を飲みながら談笑したり、俺達のやりとりを見学しているとは思わなかった。由理香だけは膨れっ面だったけど。

 このあとだけど普段と逆の立場に居る月森先輩は完全にキャラ崩壊してたよ。


『何見てるのよあなた達! 私達は見世物じゃないのよ……って、そこ! 何ニヤニヤしてるの。それはひどい目に遭いたいって意思表示なの。そうなんでしょう!』


 って大声で言ってたし。

 俺は別に何も思わなかったからこれといって言わなかったけどね。だって日頃から似たような立場に居るから。なので何事もなかったように着替えてくると言って自室に向かいましたとも。

 でもね……こうも思うんだ


「家の場所だけ教えて、中には入れなかった方がよかったかもしれない」


 いや、しれないじゃなくてしなければよかった。

 家に上げてしまったばかりに、この短時間で会長に押し倒され、月森先輩と由理香のケンカに巻き込まれ、月森先輩と口論になったわけだし。

 そうしておけば生徒会活動もなかったから体力を温存できていた……なのにどうしてこうなる。

 そもそもテストのために勉強会するってことだからそんなに疲れないだろうって期待してたのに……期待した俺が馬鹿だったということか。誠と氷室先輩だけなら期待していいだろうけど、あの非常識人3人もいたんだから。


「……今からでも出て行ってくれないだろうか……そんなことあるわけないか」

「おぉ、さすが桐谷。あたしらのことよく分かってんじゃん」


 俺以外の声が聞こえたので、恐る恐るドアの方に顔を向ける。

 視線の先に居たのは、リビングで待っているはずの秋本だった。サイドポニーの茶髪は現在俺の家にいる中で秋本以外にいないので間違いない。そもそも茶髪なのが秋本しかいないのだが。

 とりあえず今は髪の毛の色とかどうでもいい。

 何で秋本がここにいるんだ。仮にトイレに行ったとしてもだ……俺の部屋は2階にある。トイレは1階にあるので普通はそっちに行くはずだ。2階にもあるが、亜衣達は1階の場所を教えるだろう。


「でもさー、客人のあたしらに出て行ってくれないかなーってのはひどいんじゃないの?」


 誠と氷室先輩は客人でいいが、お前とあとの2人は客人として扱いたくない。下手に出たら好き勝手にされるに決まってるから。

 って、なに許可してしてないのに部屋の中に堂々と入ってんだよ!


「ひどくない。胸に手を当てて……」

「……あ」

「思い出……さなくていい」


 何で即行で自分の胸に手を当てて、エロい声を出すんだよテメェは。

 今日は割りと大人しいと思っていたが、今日も絶好調だな。まぁこれは今はどうでもいい……それよりもだ


「とりあえず出てけ」

「Why?」


 何で英語なんだよ……それに何でネイティブな発音に近いんだよ。

 こういうときに英語が母国の人ではないやつの発音が良いと、やたらとイラッとするよな。まさに今もイラッとした。


「見て分からないのか……俺は着替えてる途中なんだよ!」


 入ってきてから今までずっと俺を見てただろ。

 普通さ部屋に入ろうとして誰かが着替えてたら即行で謝ってドアを閉めるよな。同性なら別に気にしないで入るだろうけども。

 そりゃお前が普通じゃないやつってのは分かってる。

 だから入ってきたことにはツッコまなかった。だけどな、こっちが出て行けって言われたら素直に出てけよ。異性のいる中で着替えるなんて変態ではない俺にはできないんだから。お前が家族ならできるけど。


「それは見れば分かるよ。どうぞ続けてください」

「続けられねぇから言ってんだよ、そもそも続けられるなら何も言ってねぇよ!」

「確かに」


 そこで素直に納得するところがまたイラッとする。

 なんでかって? 納得したくせに全く出て行こうとしないからだよ。出て行かないならまだ納得されないほうがマシだ。

 納得してるのに出て行こうとしないのは納得しないよりタチが悪い。納得してないのなら納得させればいいのだから。


「でもさーあたしは桐谷の裸見たことあるんだから今更恥ずかしがることないよね。あのときは恥ずかしそうにしてなかったのに、今恥ずかしがるのはおかしいしさ。堂々と着替えればいいよ」


 ……確かにそうだな。

 でもな、いくらお前が変態でも俺は一応女として見ている。まだ女として扱っているんだよ。だから恥ずかしさはどうしても感じるんだ。

 妹がいるから異性に着替えを見られるのは、姉や妹のいない男子よりは慣れてはいるけど。

 ならば……この話を終わらせるために秋本の言うとおりさっさと着替えてもいい。だが、どうしても今回は着替えられない理由があるんんだ。


「あのな……この前とは状況が違うだろ」

「場所が桐谷の自室だね。でも大差ないでしょ、あたしは気にしないからさっさと着替えていいよ」

「お前が気にしてねぇのは言われなくても分かってんだよ! そもそも気にしてるなら部屋に入ってないだろうが!」


 お前が気にしなくても俺は気にするんだよ。今回はあのときと決定的に違うことがあるんだから!


「それにな、この前とは決定的に違うことがあるだろ!」

「だから場所でしょ?」

「違うわ! 下も着替えるために脱ぐんだよ、だから出てけって言ってんだ!」


 上だけならお前に見られてる状況でも着替えるわ!

 一応お前は上半身見ても襲わない変態って思ってるからな。襲われるならまず家に上げない。いや、そもそも会話もしない。正直に言えば関わりたくもない。


「嫌だ!」

「何でだよ!」

「そのズボンの下を見に来てるから!」


 …………。

 ………………誰かイイ笑顔でセクハラしてくるこいつをどうにかしてェェェェェェェッ!


「フフフ……」


 その笑いと肉食獣のような目なんだよ!

 正直怖いよ、今のお前は月森先輩以上に怖いよ!


「……ぷっ、あははは」


 こちらに徐々に近づいてきていた秋本は、突如噴出して腹を抱えるようにしながら笑い始める。

 ま、まさかガチで壊れたのかこいつ。俺はこれから何をされるんだ?


「冗談、冗談だって」


 秋本は充分に笑った後、目頭に涙がある状態のままの顔をこちらに向けて軽い口調で言った。

 冗……談……だと? お……お前な…………


「冗談にしては悪質すぎるだろ!」

「ごめんごめん、まさか本気に受け取るとは思わなくてさ」


 会った頃なら本気じゃなくて冗談って受け取ってるわ!

 だけど会ってまだ一月くらいなのに……お前の変態性がかなり分かっちまったんだよ。おかげで最近は、お前の冗談は冗談なのか本気なのか区別つきにくくなってるんだよ!


「あっ……でもあたし的に怖がってる桐谷、結構可愛いかったよ。襲いたいって思っちゃうくらい」


 可愛いとか言われても嬉しくねぇ! ってガチで襲いそうになってんじゃねぇか!?

 冗談って言ったくせに冗談にならないところだったわけかよ。そういやこいつ、ちゃんとドアは入った後閉めてやがった。

 ……いや待て、これも冗談って可能性がある。

 …………だぁぁぁぁぁ余計に冗談なのか本気なのか分からなくなってきたぁぁぁぁ!


「にしても桐谷の部屋って綺麗だねー」


 内心パニックを起こしかけ上を着替えないで止まっている俺をよそに、秋元は独り言のように話しかけながら部屋内を歩き回り始める。


「男の部屋ってもっと汚いってイメージあったんだけど……そういや桐谷は弁当自分で作ってたっけ。料理できるなら掃除もできるだろうから綺麗でもおかしくないか。……うちにもほしいな」


 ……最後の言葉は何?

 お前は俺のことを家事をするロボットか何かに思っていないか。俺はお前と違って見た目も中身もそのへんにいる一般男子だからな。


「おぉー! このベットふっかふか。結構いいやつみたいじゃん!」


 …………こいつは何で高校生になれたんだろう。

 人のベットに本人の許可なく、勝手に寝転がるなんて常識外れ過ぎる。同姓または幼馴染ってなら分かるんだが。

 まあそれは置いておくとしてもだ……なんでお前は男の前で堂々と足を広げて寝るのかな!

 今履いてるのズボンじゃなくてスカートなのに。制服のスカートだけど、うちの高校の女子のスカートはミニスカートっていえる代物なんだぞ。

 つまり秋本が動いたときにパンツが見える可能性が高いわけです。不可抗力でも見ちゃったら悪者にされるのは男の方なんだからね。そのへんマジで不平等。


「ねぇ桐谷……見たいなら見せてあげてもいいけど?」

「……何をだよ?」

「それはもちろん……スカートの下」


 ……なに人の思考を読んだような弄り方してくるのお前!?

 というか、お前だんだんと会長化してきてないか。やろうとしている行為がエロいことということを理解していないような言動だし。羞恥心がないって分かってたけど。


「……見るわけないだろ」

「おやおやー今の間は何かな?」

「目の前の変態とこれ以上会話してもいいのかって思ったから返答が遅れただけだ」

「真顔で淡々と言うな、あたしの心は意外と脆いんだよ!」


 意外と打たれ弱いってのは知ってるよ。

 だけどお前の回復力が異常だから徹底的に、木っ端微塵レベルでやっておかないと黙らないと俺は思っているんだ。

 それともうひとつ……寝転がってる状態で叫ばれても何も響かないぞ。


「というか、どんな下着か想像して顔を赤らめるとかもっと可愛い反応してよ」

「無理だろ、お前みたいな変態の下着を想像するわけないんだし」

「あたしは変態じゃない。大人に向かって日々成長している女子高生だ」


 ……女子高生って言葉にここまでときめかないこともない気がする。世の中じゃJKなんて言葉も出来上がっているのにね。


「ほんとにいいのかなー? 見れるのは2人っきりの今だけだよ。あたし、結構すごいやつ履いてるんだけどなぁ……Tを」


 なんだろうな……。

 出会った頃は凄く男に優しい……何か言い方がおかしい気がするけど、まあエロ要素を提供してくれる気さくなやつって感じだったのに。

 だけど今は……下着を見られて興奮する変態にしか思えない。

 T……Tか。それってTなバックのことだよな。現物は見たことはないが、名前だけは知っている。

 ちなみに今亜衣が下着姿でいるのに見たことがないわけないだろ! って思ったやつ。いいか、亜衣はまだ中学生だぞ。

 秋本が本気で履いてるのなら亜衣も高校生になったらデビューするかもしれない。でもな……ああ見えてあいつってそこそこ羞恥心はあるんだぞ。露出の高い服装は平気でも、生で見せるのはダメなやつなんだ。一緒に風呂に入ってたチビの頃は別だけど。

 まあ亜衣は今はどうでもいいだろう。今は変態……じゃなかった秋本だ。

 秋本がTバック……うん、エロい。スタイルがいいのできっと似合って見えるだろう。

 だがしかし、それだけなんだよな。

 擬音語で言えばムラムラ、それが全くないんだ。おそらくだが、変態ってことで何かフィルターがかかってるんだろう。


「そうか、見せたいなら今すぐここから出て行ってリビングにいるみんなに見せて来い」

「ちょっTだよ、T! ムラッとして元気になるとまでは行かなくても、赤面くらいしてもいいんじゃないかな!」

「無理。Tだろうと紐だろうとクマさんだろうと、お前が変態である限り絶対に無理だ」


 淡々と言い切ると、秋本は四つん這いの姿勢になりがっくりとうな垂れてた。

 ふんいい気味だ。というか女子高生がムラッとして元気になるとか言うんじゃねぇよ。お前の下ネタ(基本的に言ってることがエロいので全て下ネタかもしれないが)はガチな気がして怖いから。襲われるんじゃないかってヒヤヒヤする。

 こいつ以外なら違うんだろうけどな。

 まあ氷室先輩でどうのってのは考えないが。あの人がTバックとか想像するの無理だし。クマさんとかなら簡単だけどな。全く欲情はしない。誠は……男っぽさがあるからTとかは似合わない気がする。スポーツブラとかそういう下着って感じのが1番似合うかな。

 月森先輩は……Tバックが一番と言うしかないな。それに色が黒だったらかなりやばい。真っ白な肌に大人っぽい過激な下着。……考えるのやめよう、あの人で妄想したら誠みたいに止まらなくなりそうだ。

 会長は…………何か氷室先輩よりもクマさんとかが似合いそうな気がする。

 というか、実際に履いていそう。でもせっかくのあのスタイル、あえてTバックとかも……子供っぽいから似合わない。と思ってはいたのだが、考えてみるとそうでもない。寧ろなんていうか、ギャップからか凄くエロい気がする。無邪気に自分の方に来てって言いそうだし……


「……くそ、下着を見せた代わりに桐谷の下を見ようと思ってたのに」


 ……顔を蹴り上げてやろうかな。

 自分から見せてやると言ったのに、見返りを求めるとはちゃっかりしている。

 まあそこはいいだろう。こいつが脅迫したりするのは分かってることだ。俺の中で、こいつは2代目月森先輩筆頭候補なのだから。

 ただな、人に聞こえるように言うなよ。しかも本気で悔しがってるように。

 というか……そのベットの下を覗き込むような体勢はなんだ。その体勢よりは、まだ四つん這いの方がイライラは少なかったぞ。

 でもまぁ、思考が通常運転に戻るきっかけになったからそこだけは礼を言っておく。


「ところでさ……なんでエロ本が全くもって見当たらないわけ?」


 秋本さん、君は真顔で何を聞いているのかな?

 妙に部屋を見渡したり、ベットの下を覗いていたのはエロ本を探していたからなんですかそうですか。実に秋本さんらしいですね。

 そう思う俺もおかしいのだろうが、目の前にいるやつがおかしすぎるんだから仕方がない。


「お前さ……真面目な口調と顔で何言ってんの?」

「エロ本が見当たらない」


 自信満々に言うな!

 俺は別に聞き返したんじゃないんだよ。お前の心の内が知りたくて聞いたんだよ。会長じゃないんだからニュアンスで分かるでしょ。


「あのな、高校男子の全員がエロ本を持ってるって思うなよ」

「そりゃ金銭的に買えないって人もいるだろうね。だけど桐谷は買えるお金はあるでしょ」


 金はあっても買う勇気はねぇよ。

 そもそも俺はまだ18以上じゃないんだぞ。年齢確認されたらアウトだろうが。そのリスクを冒してまでエロ本を買ってる奴らの気がしれないぜ。

 それにだ……うちには年頃の妹が2人もいるんだぞ。

 しかも2人との仲は悪くない。世間的に見れば良い方に入るだろう。その証拠に妹たちはそれなりに俺の部屋に入って本とかなら勝手に入って持っていくからな。由理香はちゃんと許可を取りにくるので、勝手に入るのは亜衣だけだが。

 そんな状況でエロ本なんか持てるわけがないだろ。

 もし見つかったら……数日は桐谷家の話題にされる。由理香あたりは「エッチな本なんか見ちゃダメ!」って怒るかも知れないが、亜衣は「まぁ兄貴もそういう年頃だもんな」と言うだろう。最初はテンパりそうだが。

 両親は……母親の方には下手したら「真央もそういう年頃になったのね。子供って知らない間に成長してるのね……お母さん嬉しいわ」みたいに言われかねない。

 まあそんなことを考えた結果、俺はエロ本を買わないわけだ。


「買える金は他のものに使うわ。とにかく俺はエロ本持ってねぇよ」

「ちぇーつまんないな。エロ本を見られた桐谷の反応とか、桐谷の好みとか知れると思ってたのに。あのさ聞きたいんだけど、ムラッとしたときどうしてんのさ。エロ本使わないでヌケるもんなの?」


 何でお前はそういうことは真面目な顔と声で聞くんだよ!

 お前が言っているヌくってのは……保健の授業で習うマスターが最初につくやつのことだよな。思春期による身体の変化、みたいな章のところで出てくる。

 そういう話題は普通は異性にしないだろ。

 同性でお泊り会としかして、恋愛の話から発展して……とかなら分かるんだけど。それか酒とか入ってるとか。

 考えていると、秋本が「あっ、そうか」と何かに気づいた声を上げた。秋本が次に言うことが、良からぬことの気がしてならない。


「ちゃんと考えれば、桐谷はエロ本なくても大丈夫だね」

「妹をオカズにするとかだったらありえないからな。もちろん禁断の関係みたいなこともない」

「あはは、そんなことは分かってるよ……チッ」


 おい、今の舌打ちは何だ。しかも顔を背けて。

 間違いなく「桐谷のバカ、オチをひとつ潰しやがって」みたいなこと思っただろ。

 というか、誤魔化すつもりで分かってるって言ったのに何で露骨に分かることするの? バカなの?

 それとも顔を背けて聞こえるように舌打ちしてもバレないって思ったのかな。もしそうならお前の中の俺はどれだけバカなんだよ。そんなやつはいな……会長くらいしかいねぇよ。


「もういいだろ、さっさと出……」

「何たってあたしらがいるもんね!」


 何でそこで人の言葉に被せてくるんだよ。

 しかも空気を暖めなおすような元気な声で。こっちはお前にさっさとクールダウンしてほしいんだけど。


「何にお前らがいるって?」

「もうあたしに言わせるなよな。桐谷のオカズに決まってんじゃん」


 言わせるなって思ってるならそんな間髪入れずには返答しねぇよ。しかも見惚れそうな笑顔付きでな。

 まあ口にした内容がアレなのでまったく見惚れはしなかったけど。こいつって親しくなればなるほど女として見られなくなる残念な女子筆頭なんじゃないの。


「よくよく考えれば桐谷にエロ本なんて不必要だよね。あたしを始めとした美少女を5人も知ってるんだからさ」


 いやいや、よくよく考えなくてもエロ本は持ってないって言ってんだから不必要云々の話じゃねぇよ。それと自分で美少女って言うか普通。まあ中身はともかく外見は美少女だけどさ。


「あのな、お前らのこと知ってるのは俺だけじゃないぞ。同性愛者じゃない男子を除けば学校中の男子が知ってるだろうし」

「ふ……確かにそうだ」


 やべぇ……。

 今のこいつのキャラ超うぜぇ……顔面を思いっきり殴りたい衝動が沸々と湧いてくる。


「しかーし、あたし達全員の性格とかを詳しく知ってるのは桐谷のみ。加えて、会長と月森先輩の胸の感触を知っている!」


 ……確かに1年が2年生に話しかけることはなかなかないし、その逆も然り。全員の性格とかを知っているのは秋本の言うようにおそらく俺くらいなものだろう。

 2人の胸の感触は……別に俺から触ったわけじゃない。あっちが抱きついてきたりしたから知ってしまっただけで……


「だから人よりもリアルな妄想ができる。しかも妄想の種類も色々と。Hなこととかが全く分かってない会長に教えながらやってもらうとか、大人な月森先輩に手取り足取り教えてもらう又は女王様みたいな感じとか。氷室先輩との妄想はやっちゃダメな気がするけど、ロリってことで燃えるかもしれないよね。誠は見た目は男っぽいけど、恥じらいや女性らしい反応は1番だろう。そしてあたしをオカズにするなら、あたしに強引に食べられるとか! 逆に強引に抱くとか!」


 なに具体的に言ってんだよお前。内容が生々しすぎるだろ!?

 お前が具体的に言うもんだから少し想像しちまったじゃねぇか。お前のテンションがどんどん上がって、声も比例して大きくなってたからドン引きして想像はお前のところに入る前にやめたけど。


「ねぇ桐谷……桐谷はいったい誰でヌイてんの!」

「テンション高いなお前。You言っちゃいなよ! って感じに来ても答えないからな。というか、そんなこと堂々と本人に聞くな!」

「自分がオカズにされてるかも知れないだよ、気になるじゃん!」


 かも知れないなら気にするなよ!

 別に俺が秋本をオカズにしたって話が出たわけでもないし、俺がお前をオカズにしているとも言ったわけじゃないんだから。


「してない! だからさっさと出てけ変態!」

「えぇー月森先輩でやってんの。そんで今日も先輩をオカズにするんだ。ショックだ、先輩よりもあたしの方が桐谷と仲良いって思ってたのに……」


 やってねぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 そりゃさっき裸を想像はしたけど、オカズにしたことはねぇよ。そもそも生徒会のメンツであっち方面のこと考えたことがない。

 というか、何でショックなんだよ。

 普通は彼氏でもないやつにオカズにされてるとかなったら最低とか思うもんじゃないのか。特別な関係は別として。


「ねぇホントはしてるんじゃないの? タダで話せってものあれだから、あたしも話すから本当のこと教えてよ」

「あのさ……どっか冗談ぽさが俺にあったか? してないって言ってるだろ」

「またまたー、別に気にしないから本当のこと言っちゃいなよ。言う相手はあたしなんだよあたし」


 お前はどれだけ自分を過信してるんだよ。

 そもそもの話……自分は絶対にオカズにされている、ということを過信しているのはおかしいのだが。


「もう桐谷は照れ屋なんだから。仕方がない、先にあたしが言ってあげる」

「どこをどう見たら照れてるように見えるんだよ、普通に言いたくないだけだ。それと言わなくて「あたしは桐谷をオカズにしてるよ」いい……」


 あれ? いま「言わなくていい」の間に凄いこと言われたような気がするぞ。俺の耳は秋本の言葉でおかしくなったのだろうか?


「いま……何て言った?」

「もう二度も言わせないでよね。あたしは桐谷をオカズに色々な妄想してるって言ったんだよ」


 二度も言わせるなって言う割には、より詳しくはっきり言ってるんじゃねぇか!

 はぁ……聞き間違いじゃなかった。

 そして……女子にオカズにしてるって言われたときはどう反応したらいいのだろう。

 正直全然わからない。個人的にレアケース中のレアケースに思えるし。美少女に突然告白される方がまだありそうな気さえする。

 いや、美少女にオカズにされたって言われたんだから確実に告白されるほうがあるな。だってオカズにしてますって言うより好きですって方が人には言いやすいことだろうし。

 あれこれ考えてみたものの……普通にドン引きすればいいんじゃね。それが1番正しい気がするし。でもなーすでにドン引きしてるような状態だもんな。これ以上引けるかなー


「いやーここだけどの話、桐谷って優良物件なんだよね。出会って間もない頃はあたしが強引にって感じでやってたんだけどさ。でも……でこに何発ももらった日からは桐谷が強引にあたしをってパターンに変わったんだよね。最初は強引にやられるってどうかなって思ったけど、やってみると予想以上に燃えちゃった。他にも料理できるから恋人みたいな関係でってパターンとかもできるんだよね。最後は桐谷が強引にってパターンになっちゃうんだけど。まさかここまで桐谷色の自分が染まるとは思わなかった~♪」


 …………。

 ………………。

 ……………………何で同性相手に話してる感じで話しかけてきたんだろうかこいつ。本人を目の前にしてここだけの話っておかしいと思うんだ。

 何でだろう……昼過ぎだってのに寝起きみたいに頭が回らない。原因は俺の前でひとり盛り上がってるやつだってのは分かるけど。最後の最後には黄色い声みたいなの出してたし。

 何か解決策は……そうだ、変態が出て行かないなら俺が出て行けばいいんだ。必要な服を持って。

 変態美少女以外はリビングにいるはずだから亜衣か由理香の部屋、もしくはトイレで着替えよう。最悪廊下でもいいや。とにかく1秒でも早くここから出たい。


「やばい……思い出してたらムラムラしてきた。ねぇ……桐谷」

「…………」

「もう無視しないでよ……あれ? 着替え持ってどこ行くの? ここで着替えないの?」

「…………」

「……逃げる気?」


 部屋から出ようとする俺に普段より数段低い秋本の声が飛んできた。背中には肉食獣のような視線も感じる。

 身体が震えそうになったがどうにかそれを押さえ込み、ドアに向かってダッシュ


「――逃がすか!」


 したのだが、秋本は俺を上回るダッシュもとい会長の得意技ジャンピング抱きつきでこちらの動きを止めてきた。背中に会長より少し小ぶりだが、きちんと柔らかさと弾力のあるものがふたつ感じられる。

 しかし、会長や月森先輩のときと違って全く緊張しない。

 短時間に数え切れないほどされたセクハラ発言で異性として見れていないようだ。


「放せ!」

「嫌だ!」

「何でだよ!」

「ムラムラしてるから!」


 知らんがな!

 なんて思った直後、秋元は俺の足に足をかけてきた。それによってバランスを崩された俺は、秋本に柔道の投げ技のように勢い良く体勢を変えられてしまう。

 また床に叩きつけられるのか?

 と思ったが、背中に伝わってきたのは床より格段に柔らかく反発力のある感触だった。その感触に俺は覚えがある。

 いや、ないとおかしいと言うべきだろう。何故なら毎日寝ているベットの感触だったからだ。

 人を問答無用で倒す割に、倒す場所は考えるやつだな秋本。ってそんなことを考えてる場合じゃない!


「まったく……手間かけさせないでよね」


 秋本は、ベットに横たわる俺の上に四つん這いの状態でいる。今起き上がったら秋本と衝突するので身動きが取れない。

 力ずくで退かせる気もするのだが、今の秋本に触れるのは危険な気がしてならない。先ほどの手際からして下手をすれば柔道やプロレスの技をかけられそうだ。


「まぁ抵抗されないよりは抵抗された方が燃えるんだけどね」


 秋本はそう言いながら、俺を逃がさないために腹部にしっかりと体重をかけて座り込んだ。そのあと結んでいるリボンを解いて髪を下ろす。

 そして首もとのリボンを解き……制服の第2ボタンを外した。先ほどより胸元がはっきりと見え、谷間だけでなく下着がまで見えてしまっている状態だ。

 正直に白状すれば、格段に秋本の大人っぽさとエロさが増した。それにこちらを見る目がより肉食獣のような目になった気もする。


「あ、秋本……今すぐ退け」

「何言ってんのさ……」


 秋本は、先ほどと打って変わって色っぽい声を出しながら両手を俺の鎖骨の下あたりに置いてくる。

 や、やばい。完全に押さえ込まれた。上半身を体重と両手で押さえられてるから足は使えない。部活で鍛えているわけでもないので上半身の力だけで秋本を退けるのも不可能。

 腕を使いたいが、それも秋本が太ももを置いているせいで封じ込められている。強引に引き抜くとかはできるだろうが、下手にアクションを起こせば何が起こるかわかったものではない。


「あたしは桐谷のせいでムラムラしてんだよ。それを解消するまでは退くわけないじゃん」

「待て待て待て、俺のせいじゃないだろ。お前が勝手にひとりで盛り上がってるだけだ」

「いや桐谷のせいだよ。だって……桐谷に会わなかったらこうなってないんだから」


 仮に恋人とかになったのなら今みたいになっててもおかしくはないけどさ。俺達の出会いって同じ学校の生徒会になっただけじゃん。普通はそんな出会いでこうはならないよね!


「オカズにするなとは言わないから……今すぐ家に帰ってからひとりでやってくれないか?」

「あのさ桐谷、現実でできるのにわざわざ妄想でやると思うの?」


 妄想でやってくれるならこんなことしてませんよねー

 そもそも妄想でやってるところがおかしいのだが……いや、女性にも性欲はあるわけだからおかしいってのはダメか。妄想してるってのを本人に言って襲うという行為に及ぶことがおかしいわけだし。


「まぁ桐谷はじっとしてればいいよ。あたしがやるから」

「いや、やるな!」

「ひゃ――ッ!?」


 身体を密着させようと近づいてきたので反射的に秋本を退かそうと腕に力が入った。

 しかし、腕は利き腕の方しか抜けなかった。しかも最悪なことに抜けた右腕が、あまりにも勢いがあったために俺を押さえていた秋本の腕を払ってしまう。

 突如腕を払われた秋本は、体勢を崩して俺に勢い良く倒れてきた。先ほど背中に当たっていた感触が胸元あたりに感じる。

 気が付けば、そんな状況で数センチ前には秋本の整った顔があった。


「…………まったくもう、桐谷は強引だね。やるなって言ったのにさ、ほんとはやる気充分じゃん。最初から素直にやるって言えばいいのに」

「ち、ちが……今のは」

「まあいいよ……あたしってどうやら本気で強引なのは嫌いじゃないみたいだし。桐谷に会ってから知らない自分が結構見つかるよ」


 いやいや、基本的にお前が多彩なキャラを作ってるだけだろ。

 って、そんなことは今はどうでもいい。今はこの状況をどうにかしなければ。

 でもどうする……さっきと違って完全に秋本に乗っかられてる状態だ。腕を動かせればさっきより簡単に脱出できるが、秋本の腕が二の腕に置かれてるから肘から先しか動かせない。

 え……あ、ちょっ秋本さんストップ! 俺の両頬に両手を当てて何をする気ですか!?


「ちょっ秋本さん……」

「だいじょうぶ……あたしがリードするから」

「い、いや……そういうことじゃなくてですね」

「こら……ここまで来てジタバタしない」


 好き好んで今みたいになってるわけじゃないんだけど!

 やばいやばいやばい! このままじゃ確実に唇を奪われる。初めての相手が美少女ってのは嬉しいと思うけど、秋本に奪われるのは嫌だ。

 秋本だって美少女だろって? 確かに美少女だけど……美少女だけど変態じゃないか!

 唇奪われた後に何されるか分かったもんじゃない。というか、こういう形で初めてが奪われるってどうなの。それに秋本に対してももっと自分を大切にっていうか……考えてる場合じゃない! 


「もう……何で顔を背けようとするか……な!」

「っ――!?」

「ったく……キスなんて減るもんじゃないんだよ。それに気持ちいいもんなんだから……」


 顔を両腕でがっちり固定され、向きを変えることが出来ない。徐々に目を瞑っている秋本が近づいてくる。このままでは一寸の狂いもなく俺の唇と秋本の唇が重なる。

 やばいけどどうすることもできない。

 ……俺、ファーストキス奪われるんだな。こんな強引にされて女性恐怖症とか発病したらどうしよう。亜衣や由理香と上手く接することができなくなって、嫌な思いさせるかもしれないな……逆にもっとしたいと思うようになっちゃうのかな。


「ストォォォォォプッ!」


 第三者の大声が響きながらドアが盛大に開かれた。

 それらに驚いた俺と秋本は、首だけ回してドアの方に顔を向ける。俺が顔の向きを変えることが出来たのは、秋本が驚いたことで彼女の手が顔から外れていたからだ。

 ドアのところにいたのは、リビングにいたはずの誠。顔を真っ赤に染まっている。


「な、なにやって……!? な……なななななな!?」


 壊れた機械のように同じ言葉を繰り返す誠の顔は、さらに赤みを増していく。


「ななななナナナナナナナNANANANANANANANANA……!?」

「お~……かつてないほど誠が壊れてる。……まあいいや、続き続き♪」


 えぇぇぇこの状況で続けるんすか!?

 初体験が知り合いに見られながらってなかなかないと思うんですけど。本当に続けるんですか秋本さん?

 と、そう言う前に再び顔を固定されてしまう。反射的に誠に助けてと視線を送ったのは言うまでもない。

 もちろん心の中で本気で助けてほしい。助けてくれたら俺にできることはする! という気持ちも忘れずに。


「ぼ、僕の目の前で恵那と桐谷が……流れからして最初にキス」

「キスの後はヤるよ」

「え……ヤるってあのヤる!?」

「それ以外に何があるっていうのさ」

「つつつまり……恵那と桐谷が」


 お前は今日も相変わらずむっつりだな!

 と、いつもどおりのむっつり具合に心の中でツッコミを入れてしまった。しかし、すぐに誠のことが心配になる。

 頭が?

 と聞かれたら……もちろんそれもある。だが最も心配なのは彼女の体温だ。

 今の誠の顔はインフルエンザにかかって高熱が出ているとき……いやそれ以上に真っ赤になっている。頬に赤みがあるってレベルじゃない。体温40℃以上になってるんじゃないだろうか。

 高温状態が続くと身体が堪えられないという話をどこかで聞いた覚えがある。そうでなくとも今にも卒倒しそうな雰囲気があるだけに心配で堪らない。


「……ってダメだ! ダメだダメだだめだ。今すぐやめろ!」

「なんで? あたし、かなりムラムラしてるからヤんないと落ち着かないんだけど」

「な、何で真顔でそんなこと言うんだよ! とにかくやめろよ、桐谷嫌がってるだろ!」


 おぉぉ!

 正直誠じゃダメだって思ったけど、今の誠なら秋本をどうにかしてくれるかもしれない。顔は真っ赤なままだけど。まあそこは気にしないことにしよう。頑張ってくれているし。


「だいじょ~ぶ……すぐに桐谷からあたしを求めるようになるから」


 だいじょ~ぶ、じゃねぇよ!

 そんなドヤ顔で力強くエロチックに言わないでもらえますかね! 俺をそうできる自信があるように見えるから怖いんだけど!


「桐谷は同意してないってことだろ。全然大丈夫じゃないじゃないか!」

「もう……うるさいなぁ」

「うるさいって……!」

「ねぇ誠、さっきから妙にあたしに突っかかるけどさ。誠は桐谷が好きなわけ?」


 抗議してくる誠に苛立ちを覚えているのか、秋元は上体を起こすと俺の腹に座り込んだ。地味に勢いがあったので結構苦しかったです。


「なな何言ってるんだよ!? べ、別に僕は桐谷のことなんて好きじゃない!」


 ……最初の出会いが悪くて、そのあと仲がいいわけでもないし悪くもないって関係になった。だから好きじゃないって言われても別に気にしない。

 はずなのに……なんで今日はこんなにも傷ついてるんだろう俺。

 あれかな、秋本から助けてもらおうと頼っているのに拒絶されてる感じがするから傷ついてるのかな。


「というか……そ、そういうことは付き合ってからやることだろ。桐谷と恵那は友達って関係なんだからそういうことをするのはおかしいよ!」

「誠……世の中にはそういうことをする友達って関係も存在してるんだよ。別におかしくないの」

「いやいやいや、俺とお前はそういう友達でもないし、ましてや誠の言ってる友達でもないだろ」


 俺と秋本は、生徒会活動を一緒にする仲間という関係であって、仲良く話したり食事したりする友達と呼べる関係じゃない。

 ……はず。だって俺の中ではそういう認識だし。怪我した時に手当てしてくれたあの頃なら友達でもいいかなって思うけど、今みたいに変態な言動されてたらちょっとね……


「そうだね、あたしは桐谷の彼女だもんね」

「待て……俺はお前を彼女って認識した時間は1秒もない。そもそも告白した覚えもないし、告白された覚えもない」

「え? この前桐谷のクラスで弁当食べたときに言わなかったっけ?」

「彼女のふりをするって話は出たが告白とかはなかっただろ。彼女のふりって話も断ったはずだ」

「あれは誠がいたから恥ずかしくて本当のこと言えなかったんでしょ?」


 ちげぇよ!

 なに会長の劣化版みたいなキャラになるんだよ。……目から肉食獣みたいな感じが消えている。


「……お前、やたらとセクハラみたいな言動ばかりしてたけど、俺がやたらと反応するから楽しんでやがったな」

「あ……バレた?」


 秋本はヘラヘラと笑い始めると下ろしていた髪を頭の右側でまとめ始める。


「人に座ったまま結ぶんじゃねぇよ」

「まぁまぁ、すぐに終わるから待ってよ。そこまで重たくないはずだし」


 自分で重たくないって言うなよ。確かに背丈が同じくらいの会長より軽く感じるけど。あと、髪を結ぶなら胸元も直せ。谷間やら下着が見えてるだろうが。

 大体……会長が秋本より重たいのは胸が大きいからだろうから特別秋本が軽いってわけじゃないはず。

 まあ秋本は引き締まった体つきをしているので無駄な肉がないのも理由だろうが。だから仮に会長と胸の大きさが同じでも秋本の方が軽いってことになることに……。


「ん? こーら、あんま人の胸をジロジロ見ない」

「別に見てねぇよ」

「嘘吐くな、視線感じたんだからね。誠、見てたよね?」

「え……あぁージロジロとじゃないけど見てたと思う。……桐谷って大きい方がいいのかな」


 あのー誠さん、秋本が冗談でやってたって分かった瞬間に敵に回らないでもらえますかね。

 そもそもね、俺も男なわけですよ。目の前にあったら少なからず見ちゃいますって。身動きも取れないんだから。

 それと……最後の方は何を言ったの?

 ボソボソしゃべったから聞こえなかったんですけど。まさか「胸見るとか最低……」とか言ってたのだろうか……誠に嫌われるのは嫌だな。

 だって……氷室先輩の他に頼れるのって誠しかいないんだもの。前みたいに罵倒されたり、暴力振るわれたら……近いうちに倒れることになるかも。


「それよりも恵那、いい加減桐谷から退いたら? 桐谷は鍛えてるわけじゃないから恵那が見た目より軽くても重いって感じてるはずだよ」

「はいはい、言われなくても分かってますよ~。たださ誠、誠はあたしのことより自分のことを優先させたほうがいいよ」

「なんで?」

「だってあんたさっきから鼻血出てるし」

「え?」


 誠は手を顔に持って行く。口元あたりに1度当て、すぐに離して確認。手には赤色の液体が付着している。

 秋本が言ったことが事実だと理解した誠の顔は、再び赤みを増して行き……


「は、早く言ってよ……!」


 大声でそう言うと走って去ってしまった。

 それを見届けるとようやく秋本が俺の上から退く。これまでのやりとりで乱れた服装を正すと、何事もなかったようにドアの方に歩き始めた。


「あ、そうだ……ねぇ桐谷」


 何でようやく解放されたって実感したタイミングで話しかけてきますかね。さっさと出てってほしいんですけど。こっちは着替えたいんだから。


「んだよ?」

「あのさ、あたしって重い?」


 ……そんなことで立ち止まったのか?

 というか、意外と誠の言葉を気にしてたのかよ。……イタズラ好きで、そのためなら変態にだってなる奴だけど女ってことか。

 正直な話……秋本が腹に乗ってるとき彼女が全体重を乗せないようにしていたのか、全体重を乗せていたのかは不明だ。俺は腹部にそこまで力を入れてはいなかったし、何より普通にしゃべれていた。

 つまり、女子からすればどうかは知らないが俺としては秋本は重くはないと思う。

 寧ろ引き締まって細身に見えることもあって食べていないのでは。もうちょっと肉があったほうが健康的なのではないかと思ってしまっている。

 だけど……秋本からやられたことを考えると正直には言いたくない。


「重い」

「マジで? 平気そうに見えたんだけど?」

「見えただけだ。幼稚園児くらいでも腹だけに乗られたら重いだろ。女子高生のお前が乗ったら重いに決まってる」

「そっかぁ……」


 秋本は納得したような顔を浮かべると、自分の身体をあちこち見たり触ったりし始めた。


「手足とかはこれといって肉ついたわけじゃないみたいだし……お腹も大丈夫。それ以外で体重が増えたとなると……」

「……何で俺に近づいてくる?」

「いやね、身長が伸びたからかなって思ってさ。視線の高さとか変わってるなら伸びたってことだし」


 人を測りにするんじゃねぇよ。それにだ


「お前な、俺が伸びてたら分からないだろ」

「そういやそうか。それに女って男より早熟だから小学校高学年くらいから中学生くらいまでで大体身長は止まるか。男は20歳くらいまで伸びるとか聞くけど。……メジャーある?」

「手を横に広げて測るってか?」

「そう」

「この部屋にはねぇよ。裁縫道具は別のところに置いてる」


 高校入ってからは家庭科って食品の栄養素とか食品についてるマークとかの知識になるから裁縫道具使わないみたいなんだよな。だから俺の裁縫道具は家用になってる。

 使うのはボタンがほつれたときか、ゼッケンとかつけるときとかだけ。

 でも俺の高校ってゼッケンじゃなくてハチマキだったかな? 説明会のときに渡されたパンフレットみたいなのに体育祭の写真があった気がする。俺の記憶が正しければ写真は確かハチマキをしてた気が……。


「そんじゃ身長は置いておこ。身長以外でとなると……」


 秋本は制服の襟の近くを掴んだかと思うと、少し引っ張って隙間を作り胸元に視線を落とす。近くで行われたこともあり、そこに身長差も加わってて彼女の胸の谷間や下着がまた見えてしまった。

 何で男の目の前でそんなことやるんだろうこいつ。さっきとは違う方向で誘ってるのか?


「うーん……大きくなった気はしない。自分じゃ見慣れてるからそう思うのかなー? ねぇ桐谷、あたしの胸大きくなったと思う?」

「お前が分からないのに俺が分かるわけないだろ。そもそも俺はお前の胸の大きさがどれくらいとか具体的に知らない」

「そりゃ手で触らせたこととか、バストサイズ言ったことないからね。でも結構見てるよね?」


 お前の胸はそんなに見たことねぇよ。会長や月森先輩の方が遥かに見た、じゃなくて見せられた回数の方が多いわ。

 そもそもな……俺の目は普通の目なんだよ。

 下着メーカーの職員みたいに見ただけでカップ数とかバストのおおよその大きさとか分からないに決まってる。お前は俺の目におっぱいスカウターみたいな能力があると思ってるのか。


「見て大きさが分かるほど人生経験積んでねぇよ」

「そりゃそうだろうね。桐谷ってキスもあっちも未経験だろうし」


 ……確かにそうだが、テメェに言われると凄く腹が立つ。

 お前と違って俺はモテないからな。それにお前みたいに異性にガツガツいけるタイプでもないんだよ。


「まあいいや、先に行ってるからさっさと着替えて来るんだよー」

「(お前が絡んでこなかったらとっくに着替え終わってリビングに行けてたんだよ……)……おい」


 俺が声を発したのは、ドアの方に向かった秋本がまたこちらに戻ってきたからだ。

 まだ何かあるのかこいつ。さっさとお前か俺が行かないとまた誰かが来てややこしくなりそうだってのに。


「何で戻って来るんだよ?」

「ちょっと言い忘れてたことがあってね」


 言い忘れたこと? そんなことリビングで言えばいいだろうに……


「んだよ?」

「覚悟決まったらいつでも言いなよ。桐谷の初めての相手になってあげるから。ただし、あたしがオカズにしてる間だけだけどね」


 冗談を言うときの声でそう言った後、秋本はすぐさま振り返って部屋から出て行った。

 突如言われた内容に俺はついていけず、動かないまま立ち尽くしている。


「…………じょ、冗談だよな。……でも顔は真顔だった……」


 い、いったいあいつは本気で言ったのか? それとも嘘?

 ……あぁもう、何で本当なのか冗談なのか区別のつきにくい言い方していくかなあいつは……。


「……っ!?」


 とりあえず着替えを済ませようと思って服を脱ぎ始めた瞬間、ドアが開いた音がした。首をすぐさま動かして顔を向けると、開いたドアの隙間に秋本の顔があった。


「最後は冗談だから本気にすんなよ♪」


 と、秋本は冗談を言ってるときに浮かべる笑顔で言うと、「それじゃね」と付け加えてバタンとドアを閉めた。


「…………冗談ね」


 秋本の性格の悪さに苛立ちを覚える反面、冗談でよかった安堵した。

 そして……何度もあいつの弄ばれてたまるか、と決意し、急いで着替えを済ませてリビングへ向かった。




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