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第14話 ~やばさ=同級生<先輩~

 俺の体力を驚異的な速度で奪ったあのカオスの時間はとりあえず終了。騒々しい声や音は、現在生徒会室に響いてはいない。全員イスに座っている。

 イスに座ってるだけで平和だなぁ、って思える日が来るなんて思わなかった。

 もうさっきまでのようなカオスの時間が来ないことを本気で神か仏に願おうかなって思うくらいに。……無宗教だけど。

 でもおそらくこの部屋から出て行かない限り、またカオスな時間が訪れる気がするんだよな。何たって非常識の集まりだしこの生徒会。それに今座ってる位置も妙にやばいんだよな。


「あの会長」

「なに?」


 まず俺の右にツッコミの宝庫である天然会長さんがいる。

 会長は悩みがなさそうだね。今も輝いて見える笑顔浮かべてるし。


「何で俺の隣に座ってるんですか? 普段は月森先輩の隣ですよね?」


 会長の機嫌直しに行われた俺の歓迎会のときとか、月森先輩の隣に座っていたはず。何でよりにもよって今日に限って俺の隣に座るんですかね。


「うーんとね」

「ふふ、桜は桐谷くんの隣にいた方が撫でてもらえるって思ってるのよね」


 おっと、会長が答える前に月森先輩が口を開いたぞ。

 月森先輩は俺の正面に座っている。大切なことを言っておくと、彼女は今胸の下で腕を組んでるからただでさえインパクトのある胸がさらに強調されている。

 まあでも仕方ないよね。だって月森先輩が一番大きいわけだからそれだけ重たいわけだし。胸が大きいと肩が凝るって聞くもん。

 だから……意識するな、意識するんじゃない俺。先輩は肩が凝らないようにしているだけだ。決して胸を強調してるわけじゃない。


「うん……って違うよ千夏! 確かに撫でてもらったら嬉しいなぁ、とは思うけど」


 え、何が違ったの?

 というか、何故にそこまで俺に撫でられたいんだ。俺以外に人はいるというのに……


「私はただこれから一緒に生徒会をやって行くわけだから仲良くしようと頑張ってるだけだよ。真央くんって基本的に自分から話かけて来ないから」


 おぉ、会長さんって意外と分析してらっしゃるのね。

 でもこちらとしては、会長と何を話せというんですかね。俺、会長と共通の話題とかないですよ。

 ただでさえ異性だから趣味とか考え方が違うわけだし。そして何より、会長って性に関する教育を中学や高校の保健で習ってるはずなのに、全然理解していない。言うなれば思春期を迎えてない子供思考の天然さんじゃないですか。そんな人と何を話せと?


「つまりまずは仲良くなろうってことね。仲良くなったら撫でてってお願いもできそうだから」

「うん!」


 いい返事だなあんた。

 だけどさ、俺が言うのもなんだけど本人の前で肯定してよかったの?

 俺、必要なとき以外は会長の頭とか撫でるつもりないよ。親しくなったとしても、お願いされたからって頭撫でてあげないよ。仮の話で、俺と会長が恋人以上の関係になったら別だけど。


「ふふ、よかったわね桐谷くん」

「何がよかったんですかね? 普通なら会長に返事を返すところですよ」

「普通とか知ったことじゃないわ。私はね、私の道を行くの」

「……そうですか。で、何がよかったんですか?」

「反応がつまらないわね……まあいいけど。さっき頑張ってたから疲れてるだろうし。何かというと、桐谷くんは桜に懐かれてるってことよ」


 うん、今のって俺の体力が戻った頃にもう1回さっきのカオス的なことをするって解釈できる発言だったよね。

 というか……あのー先輩、会長を人として扱ってます?

 懐くってペットとかに使う言葉ですよね。まぁ人間でも小さな子供には使ったりしますけど。先輩の中では会長って小さな子供なんですか?


「ねぇ千夏、真央くんは私に懐いてる?」


 会長、あんたは何を聞いてるの?

 さっき俺は会長に自分からは話しかけない、みたいなこと言ってたのに。


「懐いてないわよ。懐いてたら桜とよく話してるでしょうから。それとね、懐いてるとか人をペットみたいに扱っちゃダメよ」


 ふぅ、よかった。てっきり適当なこと言われてまた面倒なことになるかってヒヤヒヤしてたんだよな。どうやらしばらく月森先輩は大丈夫そうだ――って待て待て!

 あんたが人をペットみたいに扱うなって言うなよ!

 さっきあんた、会長に懐いてるって言っただろ。何で会長もそれを言わない――って納得してる!?

 これはダメだ。完全に会長は月森先輩の言うことは基本的素直に聞くようになってる。

 ……この2人って小さい頃からの付き合いなのかな? いや、そうじゃないとこの信頼関係はありえないって思う。

 でも会長は人を疑ったりしない上に天然だからなぁ。月森先輩は頭が回る人だろうから、洗脳みたいな形で短い時間で今の関係を築くことも可能かもしれない。

 よし、考えるのやめよう。深く考えるほど怖くなってくるし。


「ねぇ真央くん、私って場所変わったほうがいい?」


 な……なんだと!?

 会長がそんな発言をするなんて……月森先輩、その『桐谷くんに嫌われたくないのよ』みたいに解釈できる意味深な笑顔やめてもらえませんかね。


「別に変わらなくていいですよ」


 会長に代わって俺の隣に座る人って、正面に座ってるSな先輩なりそうだから。

 会長とSな副会長。そのどっちに横に座ってほしいかって言われたら……そりゃ会長でしょ。副会長は言葉だけじゃなく、直接何かしてきそうだし。


「ほんと?」

「はい。個人的に変わってほしいのはもうひとりの方ですから」

「桐谷ひでー」


 そう、今のセリフで分かった人もいるだろう。

 俺の左に座ってるのはSッ気があるだけでなく、Mッ気もあるのではないか? という疑惑のある変態。つまり秋本恵那である。


「ひどくない。むしろお互いのためだ。俺はお前の隣は嫌だし、できるなら話したくない」

「うん、普通にひどいね。それで今のどのへんにあたしのためって部分があるの?」

「俺に殴られたりしない」

「それは魅力的だね。あんたって女相手なのに容赦ないし。だけど断る! あたしは殴られてもいいから桐谷と話し……」

「会長、俺と席変わってくれません?」

「あのさ、せめて最後まで言わせてよ」

「うるさい、黙れ変態」


 何が殴られてもいいから俺と話したいだ。はっきり言ってその一言にゾッとしたわ。Mって疑惑が一段と強まったから。


「変態言うな。そっちだってでこフェチの変態のくせに」

「誰がでこフェチだ。人を見るときでこから見たことなんてねぇよ」

「でこに怪我したりして何か張ってる人がいても?」

「……そういう場合は見るだろ」


 くそ、面倒なやつ。どうせ次に「嘘吐き」とか言うつもりなんだろ。


「まぁそりゃね」


 ……訳が分かんないぞこいつ。ここで肯定するってことは会話を終わらせるつもりなのか?


「桐谷がでこフェチじゃないのは分かってるよ。桐谷は――」


 秋本は、他のメンツに聞こえないように俺に近づいてきた。


「おっぱいが好きだもんね」

「……!」


 秋本が言い切った瞬間、俺は秋本の手首を掴んで強引に部屋の隅に連れて行った。そして秋本の両肩に手を置いて話し始める。


「秋本さん、どういうことかな?」

「それはね……まずそのイイ笑顔やめて、肩に置いてる手を退けてもらえる? 最低でも入れてる力を抜いてほしいなぁー、地味にイイ感じに入ってて痛いから」


 そうかそうか、それは力を強めろってフリだな。本当にテメェはMだなぁ。


「あのね、強めろっていうフリとかじゃないからね。それと人のことを妙に引いた目で見るな」

「はぁ……仕方がない。……チッ」

「最後の舌打ち、本気でやったよね!? 別にあたし、今ふざけたこと言ってないよね!」


 ギャーギャー騒ぐな。

 今ふざけたこと言ってなくても、放課後に出会ってから今まででどれくらいふざけたこと言ったと思ってるんだ。俺の中にはお前へのイライラがまだ溜まってるんだよ。

 それを会話を進めるために押し殺してんだから舌打ちくらいするに決まってるだろ。


「そんなことはどうでもいい。さっさと続きを言え」

「桐谷、その拳は下ろそうか。友人を脅すってのはどうかと思うよ」

「大丈夫、問題ない。俺はお前を友人って思ってないし、お前に脅されたことがある」

「うん、確かにそうだ。昔のあたしに何でやったんだ、と言ってやりたい。でもさ、友人って思ってないのは冗談だよね?」

「冗談じゃないぞ」

「……マジで?」

「マジで」


 何そんなに驚いてるのお前?

 俺とお前が友人じゃないの明らかだろ。お前って冗談ばっか言ったり、悪ノリして人のこと散々弄いじってくるじゃん。他にも男心弄ぶじゃん。

 そんなやつを友人と俺は思わないよ。

 というか、まだ生徒会のメンツのこと生徒会の仲間以上友人未満にしか思ってないよ俺。善い人である氷室先輩とか、俺への態度が変わった誠は友人にあと少しってところだなぁと思ってるけど。


「ひどい、ひどいよ桐谷。生徒会で1番仲が良い自信があったのに……あんなに話したのに」

「そうだな、話した内容がまともならお前のこと友人って思ってたよ俺」

「ですよねー」

「じゃあ一段落したから続き話そうか」

「ふむ、話してやろう」


 なんで急に上から目線になるんだよお前。今日のお前は一段とキャラが安定しないな。


「なんで桐谷がおっぱい好きかというと」

「ちょっと待て、何で確定されてる感じになってる?」

「嫌いなの、おっぱい?」

「おっぱいとか軽々しく言うな。それとどうせ同姓愛者とかの件があるだろうから言っておく。年頃の男子だから興味はある」

「チッ」


 おい……そんな風に「ネタを1個潰された。桐谷のバカ」とか露骨に読み取れる反応するんじゃねぇよ。


「そんで?」

「……仕方がないか。なんであたしが桐谷はおっぱいが好き、と言ったかというと――」


 だからおっぱい言うな。それでもお前は年頃の女子か。


「桐谷が結構おっぱい見てるからだよ。ついさっきも月森先輩の胸見てたし、少し前は会長さんの胸見てたよねー」


 ……なんで知ってんだよ!? 俺、胸を凝視してたわけじゃないぞ!


「ふっ、年頃の女子というのは桐谷が思っている以上に視線に敏感なのだよ」


 人の思考読んだように続けるなよ、ってなんで思考を読めた!?

 反応すると弄られるから、顔には感情を出さないようにしているはずだぞ!


「月森先輩もきっと桐谷の視線に気づいてるよ」


 あぁよかったぁ……ここで「それは女の勘だよ!」みたいな特殊能力持ってますよ発言とか来たら怖かった。完全に無心じゃないと相手できないって気がするし。

 ……って秋本のやつ、もっと怖い発言してるじゃん!?

 やばいやばいやばい、あの人に気づかれてるって人生最大のピンチだよ。脅迫とかされたら絶対勝てない自信あるし。


「でも先輩って意図的に桐谷の視線を誘導してるとあたしは思うんだよね。そりゃ先輩は生徒会の中で1番デカいよ。巨乳、いやあたしでも巨乳って呼ばれるから先輩のは爆乳だね」


 そうだね、先輩の胸は大きいよねー。

 お前より胸が大きい会長さん。その会長さんより大きいわけだし。爆乳って呼べるでしょうね。だけどさ、何でさらっと自分が胸大きいよって発言したの? 誠が聞いてたら騒いでるぞ。

 それと、最初に言うべきだったんだけどさ。

 何でそんなイイ顔で巨乳とか爆乳とか言えるの? お前の方が男子の俺よりおっぱい好きな気がしてならないよ。


「爆乳だから重たいってのは、あたしも先輩ほどじゃないけど胸が大きいから分かる。だけど、人ってのは慣れる生き物。自分の胸の重さになら慣れてるはず。だから普段から胸の下で腕を組むことはないと思う。よって……先輩は桐谷の視線を意図的に誘導してるってことだよ」


 ……あのさ、何で急に先輩の話になったの? しかも何故に内容が先輩が俺の視線を誘導してるって証明なわけ?

 ……まぁいいや。秋本恵那という人物だからってことで置いておこう。

 だからとりあえず……そのドヤ顔は今すぐやめろ。無性に殴りたくなってくるから。


「そして……以上のことから先輩は、『ドSのように見えるけれど、意図的に視線を胸に誘導し、それによって快感を得ているドMな変態さん』ということに――」

「ならねぇよ。そんな思考してるお前が変態だっつうの」

「……身体的には痛くないけど、精神的に痛い。ちょー痛い、あたしの心ズタズタだよ」


 あっそう。

 でもさ、俺は事実しか言ってない。故に罪悪感皆無だから痛くないよ。むしろ俺の配慮に感謝しなさい。精神的に来るだろうと思ったからチョップは軽めに入れてやったんだから。

 そもそもさ、お前よくそんなこと言えたよな。

 お前が先輩の話し始めたあたりから俺は凄く視線を感じたんだけど。視線の他にも不適な笑みを浮かべてる姿も何でか見えた気がする。


「ところでさ」

「何だよ?」

「あたしってこの後どうなると思う?」

「……下手したら存在が消えるんじゃないか?」

「あぁーうん、あたしは『殺される』って返答を考えてたけど、桐谷の考えも充分にありえるね。ねぇ、あたしこれからどうしたらいい?」


 …………。

 ………………。

 ……………………ごめん秋本、何も言えないわ。

 そもそもあの人の対処法が思い浮かばない。本当にごめんな、そんな辛そうな笑顔してるのに何も言ってやれなくて。


「……精一杯生きろ」

「ちょっ、そこはせめて『強く生きろ』でしょ。精一杯ってもう最後は変わらないみたいじゃん! ……よし、こうなったら――」


 何か次秋本が言うことに凄く嫌な予感しかしない。


「桐谷……あたしと一緒に逃げよう。2人でならどこまでも行けるよ。幸せになれるよ!」

「よし、ひとりで行け。どう考えても俺は不幸にしかならない。冷静になれ秋本、そもそも俺達は学生だから大した距離も逃げれないぞ」

「……そうだね。……よし、分かった。あたし、覚悟決めたよ。桐谷……」

「……まぁ骨くらいは拾って――」

「死ぬときは一緒だからね――あぅッ!」


 俺は反射的に、無言で秋本のでこを小突いた。

 言ってなかったが、秋本はイスに座ってたときには普段の髪型に戻していた。よって今日俺が何度もツッコんだ場所は前髪で隠れている。

 なので小突いだとき少し腫れてる? と思った。だけどよく見えないので気にしないことにする。


「……っ!?」


 背後に凄く視線を感じる。

 目の前で秋本がプンプンという表現が似合う顔を浮かべているが気にしている場合じゃない。

 背後に立っている人物があの人だったから秋本と仲良く処刑される可能性もあるぞ。どどどどうする……いや待てよ。

 俺の背後にいるのがあの人なら秋本はプンプンなんかしていられないのではないか?

 などと考えるまでもなくしていられないだろう。引きつった顔をするか、恐怖で泣きそうになるに決まってる。

 つまり、いま俺の後ろに居るのはあの人ではない。

 あの人でなく、ここまでの視線を感じそうなのは……


「むぅー」


 やっぱりあんただったか会長さん。というか、なに頬を膨らませていらっしゃるの?


「どうかしました?」

「何で真央くんは私とは話してくれないのに恵那ちゃんとは楽しそうに話すの? 私もお話ししたいんだよ」


 えっと、それが頬を膨らませてた理由?

 ……まぁ精神が未成熟な会長だもんね。けどちょうどいいか。秋本とのやりとり終わらせたかったし。


「そうですか、じゃあみんなの居るところに戻って話しましょうか。秋本、戻るぞ」

「笑顔で言うとか性格悪いねあんた」

「性格悪いのはお互い様だ。それにさ、先輩も鬼じゃないんだ。本気で謝れば大丈夫だろ……多分」

「多分はつけないでほしかったよ」

「また恵那ちゃんとばかり話す」

「会長のことは忘れてませんよ。さっさと、戻りましょうねー」


 会長の背中を押してさっさと戻る。秋本は足取りが重いらしくやや遅れているようだ。まあこれからのことを考えると当然だよね。


「何を話してたのかしら? 私、凄く気になるわ」


 ひゃぁぁぁッ!?

 開口一番にそれはないでしょ月森先輩。しかも輝くような笑顔で!

 絶対この人の今の笑顔って作り物だよね。作り笑顔って社会では必要なときがあるから出来るようになってることに損はない。

 だけど、この人レベルの作り笑顔はダメだと思う。

 だって先輩の作り笑顔からは好印象じゃなくて恐怖しか感じないから。ザ・作り物の笑顔って感じがするもん。


「先輩でも教えられませんよ。何のために2人だけで話したと思うんですか」


 こら秋本、お前は怖いからって嘘つくなよ。それとさらっと人の手を握ってくるんじゃない! ……一瞬ドキッとしちゃっただろ。

 何で美少女に手を握られたのに一瞬かって?

 それはな、握ってきたのが秋本恵那だから。ってのも理由だけど、月森先輩が怖いらしく凄く震えてるのよ秋本さん。手を握られてるから直に伝わってくるんだ。

 でも怖がってるのを顔に出さない秋本って凄いね。

 顔だけ見れば自然な笑顔だよ。だけど解釈を変えると怖いね。内心を悟られないようにしてるんだから。このへんが女性の怖いところなのかもしれない。


「あら、あなた達そんな関係だったの。気づかなかったわ、野暮な質問しちゃってごめんなさいね」

「いえいえ、気にしないでください」

「ふふふ、そう言ってくれると助かるわ。それにしても見せ付けてくれるわね。さらっと手を繋いでるなんて」

「いやー堂々とやるのは何か失礼かなーって」


 やばい、何か勝手に話が俺にとって良くない方向に進んで行っている。さっさと会話に介入して、正しい方向にしなければ。……ただその前に


「手を握るんじゃない」


 勝手に握った挙句、先輩と会話するたびに徐々に力強めやがって。爪まで喰いこんできて痛いだろうが。


「恥ずかしがらなくてもいいじゃない」


 いや微塵も恥ずかしがってないから。それと手を握ろうとしてくるな。怖いって気持ちは分かるけど。


「今すぐ口を閉じて身動き止めて座るのとテーブルとキスするのどっちがいい?」

「どっちも嫌。テーブルじゃなくて桐谷とキスし……き、桐谷、何で頭を掴むのかな?」

「お前の顔をテーブルに押し付けるためだが?」

「……大人しくするので許してください」


 仕方がないなー今回だけだぞ。

 正直俺も鼻血とか出されても困るから。だけど次は容赦なくやるよ。じゃないと俺のストレスが発散されないしね。

 生徒会に入ってから、いやお前と話すようになってからストレス発散しないと近いうちに胃に穴が空いてもおかしくないと思うようになったからなぁ。


「てなわけで月森先輩、俺と秋本は友人未満の関係なのであらぬ誤解しないでくださいね。話してた内容も月森先輩の話なんで」

「ちょっ……!?」


 あれー秋本さん、大人しくしてるって言ったじゃないですか。テーブルとごっつんこしたいのかな? ……そうそう、大人しくしてればいいんだよ。


「へぇー私の……どんなことかしら?」

「先輩は美人で髪も綺麗、そして大人っぽい身体をしてて羨ましいなぁーみたいなことを秋本言ってましたよ」


 別に嘘は言ってないよ俺。

 先輩の身体について秋本はちゃんと言ってたしさ。本当のこと言ったら俺にも矛先向きそうだからって誤魔化したわけじゃないからね。


「あら、それならそうと最初から言えばいいのに。恵那、どうして誤魔化したの?」


 頑張れ秋本、ここがお前の正念場だぞ。

 え……俺が話を合わせてくれればこんなことになってない?

 いやいや合わせてたら誤解が生じるじゃないか。お前はいいかもしれないけど、俺は誤解されたくないからね。面倒ごとが増えること間違いなしだから。


「……だって何か恥ずかしいじゃないですか」


 秋本は片手で頭を掻き、笑いながら月森先輩に言った。頬も少し赤くなっており、実に照れているように見える。秋本恵那、恐るべし。


「それにあたしって先輩ほどじゃないですけど胸大きいし、スタイルも良いほうだと思うんですよ。だから先輩くらいになりたいなぁ、みたいなこと言ったら文句言われそうじゃないですか」

「あぁーなるほどね。確かに誠は今で充分だろ、とか大声出しそうだし。奈々は胸大きくても将来は垂れるだけ、とか泣きそうになりながら言いそうだものね」

「うっ……」

「誠、図星だとしても反論するところだろここは」


 氷室先輩、先に誠にツッコミ入れるんですね。冷静な対応だから今回はそんなに怒ってない……


「それと……おいチナツ、そんなことわたしは言わねぇかんな! というかよ、なんでお前の中のわたしはやたらと泣き虫なんだよ。そもそもそんくらいで泣くならな、毎日お前の胸見るたびに泣いてるわ!」


 変わり身はやっ!?

 誠に言ってから一呼吸も置かないで言ったよな今。

 しかし……月森先輩の胸を見るたびに泣く氷室先輩。なんでだろうなぁ――カオスな空気だろうけど、妙に和みそうな気がする。一度見てみたい光景だな。


「アァン!」

「っ……!? 何ですか?」

「何でもねぇよ!」


 じゃあ睨みながら威嚇なんかしないでください!

 というか、あなた絶対俺の心を読めてるよね。なんでこの生徒会って人の心を読める人が多いの? 俺に安心できる時間がないに等しいんだけど。


「チナツ、答えろ!」

「そうね……騒ぐ奈々は赤ちゃん以上だけど、ついて来ちゃダメって言われると泣くくらいの子供以下に見えるからかしら」

「思った以上にひでぇな! そもそもそんなに泣き虫ならわたしは学校なんか来れてねぇよ。というか、胸の話じゃなかったのか!」


 確かにひどい。

 年齢が0歳から小学校入る前くらいの幼児だし。でもさ先輩、ひとつだけ先輩に言っておきたいです。なんで胸に話を戻そうとするの? ……善い人だからか。


「ふふ、自分から胸の話に戻すなんて、奈々ったらよほど私に泣かされたいのね」


 今日1番のイイ笑顔キタァァァァァ!

 もうSッ気全開だよこの先輩。さらっと豊満な胸を氷室先輩の目の前に持ってくる、という先制攻撃しているし。

 男だから詳しくは分からないけど、自分にはない爆乳と呼べるレベルの胸を目の前に持ってこられた氷室先輩は侮辱のような言動への怒りとか、女としての嫉妬とか感じてるのは分かる。身体が小刻みに震えているから。


「そ……そこまで言うなら泣かせて……」

「えいっ」

「…………!?」


 言ってる途中で胸押し付けて黙らせた!?

 月森先輩パネェ! 相手に侮辱と屈辱を同時に与える行動を即時にやるなんて!

 話は変わるけど、おそらく氷室先輩は「そこまで言うなら泣かせてみろ!」って言おうとしたんだろう。挑発に乗ったら弄られに弄られまくって終わるって分かってそうなのに、氷室先輩って月森先輩と仲良いよなぁ。なんだかんだで付き合うわけだし。


「テ、テメェ! 何しやが……」

「えいっ」

「…………!?」


 また押し付けた、氷室先輩が離れたのとほぼ同時にまた押し付けて黙らせた!?

 月森先輩、氷室先輩のツッコミに負けないくらいの対応の早さだ。この人、どれだけ無駄とも思えるようなことのスペックが高いんだ。

 それにしても月森先輩の胸ってデカいんだなぁ。

 氷室先輩が埋まったことで形が変わってるし。下手したら制服のボタンがアニメとかであるみたいに弾け飛ぶんじゃないだろうか。

 ……はっ!?

 何を考えているんだ俺は。こんなことを考えてる間は胸を見ちゃってるんだぞ。秋本にまた弄られたらどうするんだ。……念のため確認しておこう。


「…………」


 ……視線向けた途端、笑いながらグーという返事を返された!? つまりバレてる!?

 だぁぁぁぁぁ俺のバカ野郎ォォォォ! 秋本がいるって分かってたのにィィィィィィ!

 ……いや待て、冷静に考えてもみろ。

 俺は年頃の男子だ。目の前で無防備にあんな光景が繰り広げられたなら見てしまうのは仕方がないじゃないか。先輩だって分かっててやっているはず。だから何も言ってこないわけだし……あとで言われるかもしれないが。

 まぁそれは置いといて。

 何で秋本は俺の視線をそんなに分かるんだよ。お前はずっと俺のこと見てるのか。見てるよって返してきそうだから質問しないけど!


「だぁぁぁぁ! やめ……」

「あら、意外とちょうどいい高さだわ」


 オォッと、月森先輩今度は子供のようにプンプンしている先輩の頭の上に乗っけやがった。胸の重みと荷物置きみたいにされてることで氷室先輩の怒りのボルテージが上がること間違いなしの攻撃だぜ。


「チナツ、テメェな!」

「ぁ……奈々、そんな強く胸掴まないで……」


 刺激強い光景見ちゃったよ俺!? すぐに顔を逸らさなかったら鼻血出してたかもしれない。


「あっ、わりぃ」

「ううん、いいのよ。私もふざけすぎたわ」

「べ、別に気にしてねぇよ。お前はふざけるのなんていつものことだしよ」

「奈々……ありがとう」


 凄いねーこの2人。あれだけヒートアップしてたのに一瞬で仲直りムードになった。

 月森先輩、氷室先輩の心の広さに感極まったのか氷室先輩抱きしめちゃったよ。


「私は良い友人を持ったわ」

「うぅッ……! んぅぅッ!?」

「奈々もそう思ってくれてるのね、嬉しいわ」

「んーぅッ! んぅぅぅぅッ!?」


 ……まだ月森先輩の弄りは続いてた!?

 仲直りムードを利用して、氷室先輩の顔を豊満な胸に押し付けて抱きしめるという算段だったのか。どれだけ頭が回る人なんだあの人は。

 体格の差で氷室先輩、完全に身動きできないように抱きしめられてる。

 月森先輩の胸に埋もれながら抱きしめてもらえているなんて羨ま……じゃない、大変だなー。


「チナツだけズルい! 私も奈々ちゃん抱きたい!」


 何か分からないけど会長が参戦したぞ。

 前から月森先輩、後ろから会長。生徒会のメンツで胸の大きさNo1とNo2に氷室先輩挟まれてるよ。氷室先輩の頭とか2人の胸に埋もれてあまり見えない。

 氷室先輩……実に羨ましい。

 あっ、言っておくけど男としてね。人間としては羨ましいと思ってないよ。

 だって氷室先輩……息できないみたいだもの。最初は逃れようと必死に身体動かしてたのに、今はほとんど動かなくなってるからさ。


「なぁ秋本」

「なに?」

「このまま放置したらさ」

「したら?」

「氷室先輩、窒息死するんじゃないか?」

「そりゃするだろうねー。どう考えても息できてないみたいだし」

「だよなー」

「だよねー」

「お前らな、呑気に話してないで助けようとしろよ! 会長、千夏先輩! そのへんで奈々先輩解放してください!」

「誠、もうちょっとだけだから」

「千夏が放さないなら私もー」

「今すぐ放してください! このままじゃ奈々先輩が死にますからぁぁぁぁ!」




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