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第56掌 フォーマス君の災難 その4

勢い余ってこの話を合わせて三話も書き上げてしまいました。

それでその三話でフェルゲン編が終了です。

というわけで、今日中に全部投稿しようと思います。

三話全部上げますのでそちらもぜひ読んでください。

それでは一話目をどうぞ!



 フェルゲンに戻った俺達は休む暇なくベルモンドさんの屋敷に帰り、そのままフォーマスのシゴキに入った。勿論、フォーマスは逃げたが、俺がレベル10程度の子どもに逃げられるわけがない。速攻で捕まえた。それでも抵抗するので「またドラゴン退治に連れて行くぞ」と耳元で呟いた。すると途端におとなしくなった。まあ、ドラゴンだからな。実際にドラゴンの怖さを体験したんだから嫌に決まっている。


 そんなわけでフォーマスは俺との特訓という名のシゴキを受けることになった。


「ほらほら。避けないと怪我するぞ」


「そう言うなら避ける暇を与えろ!」


 練兵場にフォーマスの叫び声が響き渡る。


 俺の低レベルの水魔法の矢を雨のようにフォーマスへと降り注がせていた。それに為すすべなく当たるフォーマス。


「一撃でも避けたら今日は終了だ」


 俺の水魔法は全弾フォーマスに的中していた。まあ、威力は出来るだけ弱めているから怪我はない。ちょっと強い水鉄砲レベルだ。まあ、練兵場は水浸しだけど。これは後で火炎魔法で乾かすからいいだろう。


「ちっくしょぉぉおお‼」


「おお!」


 根性で体を捻らせて一撃だけ避ける。


「はい。お疲れさん。今日はもう終わりでいいよ。明日からはもっと厳しく行くからな」


「ぐぅ」


 疲れてその場に寝転がるフォーマスを置いて先にみんながいる自分たちの部屋に戻った。使用人が後でフォーマスを回収するだろう。


 部屋に戻るとリリアスとダンガがいて、アメリアがいなかった。


「あれ?アメリアは?」


「ああ、タカキさん。おかえりなさい。お疲れ様でした」


「お疲れー」


 リリアスとダンガが労ってくれる。


「おう。それでアメリアは?」


「アメリアさんならベルモンドさんに呼ばれて執務室に行きましたよ」


「そうか」


「タカキさんも遅れてもいいから来てくれとのことです」


 あれ?俺もか。


「分かった。じゃあ、ちょっと行ってくる」


「はい」


「おう」


 遅れてもいいとは言われたが、あまり待たせるのも悪いので駆け足で向かった。後で聞いたのだが、リリアスたちに俺への伝言を頼んだ後、俺を使用人たちは屋敷中を探し回ったらしい。でも何故か見当たらない。探すその過程でフォーマスが倒れているので大層驚いたそうだが、フォーマスに事情を聞いて納得。そして俺の捜索は終了したらしい。俺が部屋に戻って伝言を聞いただろうことを理解したからだ。


 ちなみに何故俺が見つからなかったかというと、俺の駆け足が問題だ。俺のステータスは知っての通りなのだが、ステータスの補正を受けた駆け足で執務室に向かったのだ。その移動の過程で無意識に隠密行動が発動。誰も俺に気付くことはなかったと言うわけだ。この世界に来てからは逃げたり隠れたりすることが多かったからな。ついスキルを使ってしまったんだろう。


 そんなわけで俺は気配を完全に断ちながら執務室に到着した。そしてノックをして入室。


「呼ばれて来ました。それで何の用でしょうか?」


 俺が部屋に入るとベルモンドさんとアメリアがソファに向かい合いながら座っていた。


「おお。待っていたよ」


「タカキさん、お疲れさま」


「ああ」


 ベルモンドさんに会釈してアメリアのねぎらいの言葉に答える。そしてアメリアの隣に座る。


「さて、君たちを呼んだのは昨日の件についてだ」


「ドラゴン退治のことでしょうか?」


「いや、その前の件だ」


「ああ」


 あの意地悪メイド三人衆のことね。


「処罰が決まったのですか?」


「ああ。彼女たちはメイドをクビ。そして多少の財産の没収だ」


「そうですか」


「君たちが納得がいかないと言うならもう少し罰を重くしよう。特にアメリア。君がそう言うならね。ただ、奴隷堕ちは勘弁してくれ」


「俺はそれで構いません」


「私もそれでいいです」


「ありがとう。これは彼女たちを雇った私の責任でもあるからね。有難いよ。それとアメリア、もう敬語は必要ないよ。私にも普通に接してくれ」


「は、はい」


 また敬語になってる。アドリブに弱いな、アメリアは。


「用はこれだけでしょうか?」


「いや。もう一つ」


「?なんでしょう」


「君とアメリアの婚約についてだ」


「「⁉」」


「おいおい。そんなに顔を赤くするとはな。お互いに内心では意識し合っていたかな?」


「ベ、ベルモンドさん⁉」

「お、お父様⁉」


「ハッハッハッ。それで婚約についてだが、形式では形になった。後は君たちの気持ちだけだ。出来ればここで聞いておきたくてね」


 なるほど。貴族的には神の使徒を取り込みたいが、父親として気持ちは聞いておきたいと。そういうことか。


「前にも言いましたが、アメリアは必ず守ります。それにアメリアは友達ですので、嫌ということはないです。ただ、恋愛方面で好きかと言われると、まだ分からないとしか言えません」


「ふむ。“まだ”か」


「はい。まだ」


「分かった。それで、アメリアはどうかな?」


「わ、私ですか⁉私はタカキさんと同じ気持ち・・・です」


 そう言って顔を赤くするアメリア。


「・・・ふむ。そうか」


 アメリアの反応を見て満足気にするベルモンドさん。


「では、話は保留と言うことにしておこう。私に一声かけてくれればすぐに婚約、結婚出来るからね」


「はぁ。分かりました。これでも俺もアメリアも初心なのであんまりからかったりはしないでくださいね」


「ああ。分かっているよ。恋愛事は当人同士に任せるさ」


「それを聞いて安心しました」


 まあ、ベルモンドさんは過去に色々あったからな。そんなに心配はしていないが。


「それじゃあ、俺達はこれで失礼しますね」


「ああ。わざわざすまないね。フォーマスをよろしく頼むよ」


「はい」


 俺とアメリアはベルモンドさんを部屋に残して出た。


「そう言えば、ベルモンドさんの奥さんたちと子どもを見かけないのだけど」


「ああ。奥様方は今は実家に帰省中なの。たまには帰って孫たちの様子を見せないと、ってことらしいわ」


「なるほどね。それで会わなかったのか」


「ええ」


 そんな話をしながら自分たちの部屋に戻った。今日は残りの時間はゴロゴロしながら過ごすか。ここのところ忙しかったからな。依頼のフォーマスの訓練以外はのんびり過ごさせてもらおう。


 それにこの依頼が終わったら出発しなきゃな。ダンガの出店のこともあるし、ベルモンドさんの頼みのこともあるし。


 のんびり過ごしながら準備だけはしておこうかな。馬車とかも用意しておかないと。もう徒歩は嫌だし。お金はこの一週間ちょいで大分稼いだからな。馬車くらいなら買えるだろう。


 フォーマスがこの残り期間でどのようになるかは、神のみぞ知るってことかな。リリアスとアメリアの訓練にもなるし、一石二鳥だな。俺とダンガはレベル上げには依頼を受けて外に出ればいいし。


 今後のことを考えながら部屋へと俺とアメリアは戻ったのであった。




読んでくれて感謝です。

ちなみにタイトルの「フォーマス君の災難」ですが、フォーマス君がこの全四話で災難に見舞われるだけでフォーマス君の視点というわけではありません。

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