第51掌 パーティー名
「じゃあ、残りの空いた時間でパーティー名を決めるか」
屋敷に戻った俺達は自分たちの部屋でベッドや椅子に座っていた。視線の中に全員が入るように気をつけて座って入る。
「どんなのがいい?」
「「「・・・」」」」
あれ?
「どうして黙るんだ?屋敷に着くまであんなに楽しそうにわいわいしてたじゃないか」
「・・・いや」
「・・・そのだな」
「・・・なんというかね」
リリアス、ダンガ、アメリアが気まずそうに視線をさまよわせる。なのに何故か俺の方だけは向こうとしない。
「なんだよ。言ってみろって」
「いや、私たちも楽しみにしてたんですよ。でもね・・・」
「俺達、良い名前なんて全く思い浮かばないし・・・」
「それに自分の考えた名前が使われると思うと結構恥ずかしくなっちゃって・・・」
「つまり騒いでただけってことか。しかも、名前も俺が決めろと?」
「まあ、端的に言えばそうなるわね」
「「・・・」」
アメリアに言われ、リリアスとダンガも俺の様子をうかがいながら黙っている。後先考えずにいたわけね。あの時には。まあ、俺が何とかすればいい話だし、こんなことでなら後先考えなくてもいいけど。でも、出来れば俺がパーティー名の話をしたときに言って欲しかったな~。
「分かった。俺が考える。お前たちはいいか、それとも嫌かを判断してくれ。全員OKなら決定だ」
「「「は~い!」」」
だからここは幼稚園じゃないんだよ・・・。
「・・・んー」
「「「・・・」」」
「・・・んー」
「「「・・・」」」
どうやら俺が考え着くまで何も言わないようだ。真剣に考えてみますか。
俺達、もしくは俺の特徴で考えてみよう。俺とリリアスやダンガ、アメリアには全員にこれと言って目立つ共通点はないからな。
俺の特徴・・・。神の使徒、全掌握、異世界転移、冒険者、高校生、1年C組のリーダーだった、達観している。今、すぐに思い浮かぶのでこのくらいか。結構ムチャクチャナ特徴だな。高校生が持つプロフィールじゃない。
ここから名前に使えるのは・・・っと。
神の使徒はダメ。そもそもこれは一応隠していることだし。仲間、協力者にしか開示しない。それなのにパーティー名にするのは論外。普通の人ならそんなの気にしないだろうが、神の眷属たちは普通に警戒くらいはするだろうし。
全掌握はまあ、俺の固有スキルで代名詞みたいなものだ。そのまま使えば俺の能力に当たりを付けられる。でも、まんまの名前を付けなかったら使えるかもな。
異世界転移はダメ、っていうかこんなのパーティー名に使えるかよ。意味不明にも程があるわ。こんなの俺と事情を知っている奴にしか分からないじゃん。もしパーティー名について聞かれたときになんて答えればいいんだよ。
冒険者もナシだな。そもそも冒険者のパーティの名前を考えているんだ。答えを求めなければいけないのに過程を求めているようなものだ。
高校生や1年C組のリーダーももちろんナシ。地球でのプロフィールだし、ここでは何の関係もない。
達観しているってのは俺の性格みたいなもんだしな。これを名前に使うのもなんか違う気がする。っていうか、嫌じゃない?自分の性格をパーティー名にするのって。暗に俺はこういう性格ですよって言いふらしてるようなものだ。
となると、残ったのは全掌握(条件付き)だけか。んー。どうしようかな。確か、掌握ってグラスプって英語で言うんだよな。英語なんてこの世界の人には分からないだろうし。いいかもな。
「じゃあ、グラスプって言うのはどうだ?」
「グラスプ?」
リリアスが不思議そうに聞く。やっぱり分からないようだ。聞いたことありませんって顔してるし。
「ああ。俺の世界の言語の一つで掌握って意味がある」
「確かに、タカキさんの代名詞ですもんね」
「だが、いいのか?そんなお前の能力が何かっていうヒントになるぞ?」
「グラスプの意味は分からなかったろ?」
「ああ」
「じゃあ、大丈夫さ。それにもし分かっていても対処のしようがないからな」
「やっぱりお前の固有スキルってどこかおかしいって」
ゲンナリするダンガ。俺もそう思うよ。
「それで、どうかな?」
「俺はいいぜ。グラスプのダンガか。悪くない」
嬉しそうだね、ダンガ。
「私もいいですよ。短くて呼びやすいですし」
可愛いのがいいって言っていたリリアスだが、滅多のことじゃあ俺の意見には反対しないもんな。反対するときは自分の中で譲れないものがあるときか、命の危機とかそういう重大な場面でだけだし。
「私もいいわよ。それにタカキさんに任せるって言ったしね」
うんうん。アメリアはあの場で正直に話してたね。残りの二人はパーティー名を決めるってことではしゃいで何も考えてなかったし。
「それじゃあ、これから俺達はグラスプだ。改めてよろしく!」
「「はい!」」
「おう!」
さて、これで会議も終わったし、そろそろ昼時だ。外で食べようと思ってたのに結局屋敷に戻って来ちゃったからな。ベルモンドさんに頼んで用意してもらおうかな。
それで食べ終わったら依頼開始だ。ドラゴン退治だ。前回は戦わずに隠蔽で隠れて逃げたけど、今回は戦う。それだけで俺はドキドキワクワクだぜ。一体どんなスキルや魔法を持っているんだろうな、ドラゴンって。ドラゴンだから結構強そうなスキルは持っているだろうし。掌握するのが楽しみだ。
「さて、昼食をベルモンドさんにお願いしに行くか」
「それなら私が行ってくるよ」
アメリアが小さく手を上げて名乗り出てくれる。流石ここの元メイドさん。
「そうか?じゃあ、頼んだ」
「うん」
アメリアが部屋から出て行く。
あれ?なんか忘れちゃいけないことを忘れているような・・・。
何だったかな~?う~ん。
・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!そうだ!アメリアはここでいじめを受けていたんだ。あのフォーマス憑りつかれ事件の後からはずっと一緒に行動してたから何もなかったけど。一人にしたら何をされるか分かったもんじゃない。
確かに、アメリアはすでに領主の子どもという立場になっている。でも、それはまだこの家の中でだけだ。それで怖気づいてしまっていじめをやめる奴もいるだろう。でも、やめない奴もいるかもしれない。特に主犯格だろう人物は俺がベルモンドさんに朝の模擬戦の後にこっそりと伝えておいたからな。何かしらの罰を受けている可能性が高い。そうなったらアメリアに仕返しを考えるかもしれない。
俺もアメリアについて行こう。
「やっぱり俺もアメリアについて行くよ。ベルモンドさんに用事があるし」
「分かった。じゃあ、俺とリリアスはここで待ってる」
「すまんな、二人とも。留守を頼んだ」
「おう」
なんか、リリアスがちょっと不機嫌そうに見えたけど気のせいだよな?
俺はアメリアを追って急いで部屋を出た。
読んでくれて感謝です。




