第479掌 戻ってきたベルルク その7
尋問が終わり、俺達はギルドの外へと出た。
「やっと終わった。ちょっとゆっくりしたらタブル村に行くつもりだったのに。とんだ邪魔をしてくれたもんだよ、デリルのやつ」
俺はため息をつく。
「せっかくフェルゲンでは何も起きずに過ごせたのに」
「巻き込まれはしなかっただけで、自分が起こしてはいましたけど・・・」
カリーナさんもため息をついている。俺のため息とはつく理由が若干違う気がするが、気のせいだろうか?
それはともかくとして。フォーマスのことか。まあ、フォーマス視点だったら俺は師匠であると共に災害みたいに見えていてもおかしくはないか。
「私の目から見ても可哀相になりましたよ、あれは」
それはフォーマスの修行のことか。まあ、あの年齢の子にやる内容ではないかもしれないけど。え?年齢は関係ない?そんなのは知らん。俺を師事しているなら慣れてもらわないと。パーティーメンバーとして一緒に行動しているわけでもないんだから。
「それにしても、さっきのデリルって人、悪い人って分かっててもちょっと悲惨な感じでしたね」
「えー?でもペラペラ話してくれたからちゃんと怪我する前に矢は止めてやっただろ?」
「いや、止められた位置が位置でしたからね。あれは私でも普通に怖いですよ」
デリルを囲っていた矢は宣言通り、じわじわとデリルに近づけていった。ただ、予想以上に支部長が聞きたかった内容が多かったせいか、話の途中で普通に矢が刺さりそうになった。しょうがないので当たる寸前で止めたけど。
「そんなもんか?」
「少しの間なら耐えれるでしょうけど、尋問中という状況で生殺与奪は自分が喧嘩を売った相手が握っている。捕まっていたのでベルルク以降のタカキさんの噂は知らないかもしれませんが、それでもかなりの恐怖でしょう。見たところ、暗殺者のような訓練はされてないようですし」
「そりゃこんな簡単に捕まるようなやつが暗殺者なわけないしな」
「いや、暗殺者でもタカキさん相手なら一般人と同じですけど」
なんか、カリーナさんが言うと言葉の重みが違うんだけど。元暗殺者がそんなこと言うのは止めて欲しい。他の人が怯えてしまう。まあ、俺と一切関わりのないどこの誰とも知らない人間に怯えられてもどうでもいいけど。
「デリルの話はここまで。それより、リリアス達のところに早く戻ろう。カリーナさんを紹介しないと」
「別に私は紹介しなくても・・・」
「出たな、ネガティブ。いいから行くぞ」
俺はカリーナさんの手を取ってリリアス達がいるだろう場所へと歩を進める。
「別にネガティブだけが理由ってわけじゃ」
カリーナさんがボソッと何かを呟いた。
「何か言った?」
「い、いえ!何でもないです!行きましょうか」
「そうか?」
カリーナさんが慌てるように早足になる。俺はその速度に合わせるように続いた。
・・・
到着したのはダンガの家だ。この町にいた時は宿だったからな。ここ!っていう拠点がないからダンガの家があって助かった。
「タカキさん!おかえりなさい」
ダンガの家の中に入るとリリアスが駆け寄ってくる。
「デリルの件はどうなった?」
ダンガが気になったのか、確認してくる。
「それはもうペラペラ話してくれたよ。支部長もニッコリだ」
「あのデリルがペラペラ話すって・・・。何したんだよ」
「話しやすくなるようにちょっと脅しただけだって。それより皆シャーリへの挨拶は終わったのか?」
カリーナさんが「ちょっと?」って眉をひそめていたけど、面白くない話を長々しても仕方ないだろ。
「はい。後はカリーナさんだけですよ」
リリアスがカリーナさんの手を取ってシャーリの前に連れて行った。
「シャーリ!こちらはカリーナさん」
リリアスがシャーリに嬉しそうにカリーナさんを紹介している。
俺は話し込んでいるリリアス達を見ながらちょっと離れた位置にいるアメリアに声を掛けた。
「なんか、ちょっと怒ってない?」
「怒ってないわよ」
「いや、表情に出てるって」
そう。俺とカリーナさんが来た時から顔をしかめているアメリア。怒っているようにしか見えない。それでよく怒ってないなんて言えるもんだ。
「ただ、リリアスの友達って私が最初だと思っていたから」
「ははーん。それで嫉妬したと」
「言葉にしないでよ!」
怒っていた表情から一転。顔を真っ赤にして俺をぽかぽかと叩いてくる。
「タカキさん、アメリアさん。二人の世界に入っていないでこっちに来てくださいよ」
そんな俺とアメリアのじゃれ合いを、カリーナさんの紹介が終わったリリアスが声を掛けて止めてきた。
「すまんすまん。アメリアの反応が可愛らしくってつい」
「ちょ、ちょっと!」
アメリアがさらに赤面する。
「もう!いいからこっちに来てくださいって」
リリアスは俺とアメリアの背中を押してシャーリのいる位置まで連れて行く。
「今、カリーナさんと会った時の話していたんです。タカキさんもあの時のことシャーリに教えてあげてくださいよ」
「それでカリーナさんがあんなネガティブ一直線な表情していたのか」
カリーナさんは鬱と羞恥心がない交ぜになったような表情になっている。
「カリーナさんには酷だけど、リリアスのためにももうちょっと我慢してもらうか」
俺の言葉にカリーナさんの表情に絶望の色が加わった。
そんな俺達の話で夜が更けていった。
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