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第455掌 爆買いは恐ろしい



「お前、何してんの?」


「むぐぐっ」


 ああ。縄で頭までグルグル巻きになっているから話しづらいのか。しょうがない。


「頭の部分だけ取ってやるよ」


 そう言って俺は手刀を作る。そこに風魔法を付与。綺麗に頭の部分だけ縄を斬った。


「あ、ありがと。でも、なんでこんなに綺麗に切れているの?」


「ま、気にするな」


 実際は切ったというか、斬ったから綺麗な切り口なんだけど。流石にそんな危ない行為の対象にされたと分かったらこいつも怒りそうだからな。黙っておくに限る。


 後ろではなんか青い顔をして俺の行為に戦慄している人が数名いるけど。主に俺の仲間以外。


 そんな周囲のリアクションに嫌な予感でも覚えているのか、俺の濁した言葉から先へは特に何も言及しては来なかった。


「それで?なんで王様はこんなに疲れているんだ?」


「私は何もしていないわ。今回の件、了承する代わりに条件を出したの」


 ん?なんか会話の内容が繋がっていないような気がするのは気のせいだろうか?


「条件?」


 まあ一応、ここで話に乗っておかないと余計に長くなりそうだから相槌を打つけどさ。


「ええ。父上の言うことを聞く代わりに一日だけ私の好きにさせてとお願いしたの。ちなみに父上のポケットマネーもある程度もらっておいたわ」


 なんて恐ろしいマネを・・・。王様ってお金持ちなイメージ強いけど、お金持ちなのは国王としてであって、王様個人ではないからね?どれだけの金額を王様がもらっているのかは流石に庶民どころかこの世界の人間でもない俺が知っているわけもないんだけど。


 でも、自分の貯金を自分の息子とはいえ、預けるなんてのは怖過ぎる。むしろ、下手したら友人とかよりも普通に不安になるんじゃないか?もしも俺に子供が出来たとしてもそんなマネは絶対に出来ないわー。そこら辺には王様の度量というか、度胸を感じるけどね。


「それで?何をしたんだ?」


「私はこれからあなたの拠点にしているオークス王国に行くんでしょ?それならこの国からはどんなに早くとも数か月間は離れることになるのよ?」


「まあ、期間は分からないけど。そういうことになるな」


「じゃあ、今の中に良さげなものは買い溜めておかないと。販売が終了してしまっていたら嫌じゃない?」


「いやまあ、そういう気持ちも分からないではないけども」


 確かに俺も好きな漫画が続きをもう読めないなんてことになったら嫌だけども。あ、地球神に時間経過とかそこら辺は大丈夫なのか聞いておかないと。時差がどうなっているのかすら分からないし。でも、今は忙しくて話すことが出来ないんだっけ?


「それでね」


 おっと。ファイン(偽)が話している最中だった。この思考はまた今度、余裕のある時にでもするとしよう。


「私の買ったものがさっき運び込まれたの」


 うん?運び込まれた?それはどういうことだ?使う単語が違うんじゃないか?


「さっきから違和感を覚えるのも無理はない」


 真っ白になった王様が説明してくれる。


「この馬鹿はまさに運び込まれると表現することが正しいと言える量の商品を買い込んだのだ。おかげでこの部屋の周りの数部屋はすべてこの馬鹿の買ったもので溢れ返っている。主に女性服や化粧の類でな!」


 それはまあ、ご愁傷様です。


 これで家族に、部下達に有用なもの、活用出来るものならまだ良かっただろう。男物の服なら使わないなら王様が部屋着とかにして使うとか、部下にもらってもらうとか出来る。本なら王城の中の書庫に入れることが出来るし、誰かが読むかもしれない。


 でも、このお馬鹿が買ってきたのは諸々全て女性物。男性である王様がこれを女性の部下に渡せば言い寄られているとかセクハラとかそういったもので面倒事に発展する可能性大だし、化粧品も同じことだ。


「まさかそれら全部俺の屋敷に持っていく・・・なんて言い出さないよな?」


「流石の私もそこまで馬鹿じゃないわよ。そりゃあ多少は多いけど、それでも一般的な荷物よりも少し多いくらいだと思うわ」


 さっきから部屋の隅に置いてあるそのドデカいリュックサックとかカバン達はなんでしょうね?パッと見ただけでも二桁はありそうなんですけど?


「・・・はァ」


「何よ。これ見よがしにため息なんてついちゃって。失礼しちゃうわね」


「これでため息をつかない方がおかしい」


 俺の言葉に王様もうんうんと頷いている。


「もういいよ。何となく入室時の状況は分かったから」


 俺はそう言って一度仕切り直す。


「王様。こちらの意見が固まりました」


「・・・そうか」


「預かろうと思います」


「・・・そうかっ」


 若干声が嬉しそうだな、おい。


「可能なら出来るところまで矯正もしますから」


「それは何より嬉しいことだ。それではこれはオークスの王族の方々に送るための書状だ。仮にもこちらの王族がそちらの国で世話になるからな。挨拶代わりに渡しておいてくれ」


「ええ。分かりました」


「うむ。頼んだ」


「あ、そうそう。ちょっとファイン(偽)と王様」


 俺は仲間には聞こえないように本気で防音の魔法を使う。勿論、発動すら感じさせない。


「ここからは後ろの仲間には聞こえないようにしたんだけど、俺の女装については俺の仲間には言わないで欲しいんです。構いませんか?」


「ああ。構わないぞ?」


「えぇ?せっかくあれこれレクチャーしてくれる相手が目の前にいるのになんでよ?」


「俺の黒歴史を仲間には知られたくないんだよ」


「黒歴史?」


「俺にとっての人生の汚点だよ!女装は絶対にバレたくないの!分かったな!」


「はい!」


 俺の鬼気迫る問いかけに頷いてしまうファイン(偽)。


「よろしい」


 俺は人差し指を軽く前後に動かす。それだけで防音魔法は解除されてしまう。


「それじゃあ話を詰めていこう。主に俺の仲間の紹介と交流がメインだけどな」


 そう言って俺はソファに腰掛けるのだった。




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