第436掌 眷属との戦い ガゼル編 その2
物理的という名の一つの法則を支配しているかのようなガゼル。俺との攻防でもその圧倒的な実力は証明されている。俺が持てる全能力を使って戦っているのに対してガゼルは物理的なものだけ。これがどれだけ凄いのか。
日本で簡単に例えると様々な武器・銃器を持ち、瞬時にそれらを入れ替えながら戦う相手に素手で挑んで互角以上の戦いをしているに等しい。日本ならすでに人間国宝を通り越した生きた兵器である。
「本当にどうやったらそんな性能を発揮できるんだよ」
ガゼルの飛んでくる拳撃を転移で回避していく。そしてようやく傷が回復した。
「でも、こっちも伊達にガチで修業したわけじゃない。その成果を見せてやるよ」
俺がプリマ姫の悪口を言ってしまったばっかりに俺と会話しようともしなくなったガゼルへと宣言する。
「ここから一段階上へと俺は昇る―――――『フルコントロール』」
俺は今まで基本能力しか使ってこれなかった固有スキル『全掌握』の新しい能力を使用する。
「何をしても関係ないし、無駄だ!全てはこの力の前に粉砕される!」
ガゼルが俺に急加速して接近する。そして先程と同じ鋭い拳撃を連続で放ってくる。しかも、先程よりも数割増しの威力だ。しかし。
「フン!」
俺はその攻撃を全て無視してガゼルを殴りつける。
「なっ⁉」
ガゼルは殴られながら驚く。
何故ならガゼルの攻撃は一つも俺に当たっていないからだ。
「何がどうなっている?」
「ま、これが俺の能力の一端ってわけだ」
俺の所有しているスキル・魔法を固有スキル『全掌握』で完全に把握・掌握した。そしてそれを高速思考スキルを進化させた並列思考スキルによって管理。複数の思考によりその状況に最も最適なスキル・魔法を俺の主人格とも言える思考の認識の外で無詠唱によって発動する。
「ま、簡単に言えば手数が増えたってところか」
一つの体を役割分担しながら複数人で操作するようなものだ。
俺のスキル・魔法を全て、自分の好きなタイミングで自由に使用出来るようになる。『フルコントロール』っていうのはそういう能力である。
え?今までも出来てたことじゃんって?それは違う。思い返して欲しい。俺が今までに一斉に使ってきたのは数個くらいのスキル。魔法は全部使えたけど、それでも合わせて十数個。これは同時に全てを使用することが出来るのだ。
スキルや魔法というのはどうしても意識して一つ一つを使わないといけない。そうしないと力が明後日の方向に向かい、暴発したり、ノーコンよろしく狙った場所以外のどこかへ飛んで行ってしまいかねないからだ。
複数を使用出来ないというわけではない。だが、複数使用する毎にその難易度っていうのは上がっていくものだ。そしてそれは集中力にも関係してくる。
ここが一番大きい。スキルや魔法に集中する割合を減らし、戦闘に集中することが出来るのだ。
「てなわけでここからの俺はさらに厄介なわけ―――さっ!!」
拳の火炎魔法を込めながらガゼルの胸当たりを殴りつける。そしてそのインパクト時に魔法が発動し、爆発してガゼルは吹っ飛ばされた。
「がっ―――⁉」
ある程度戦闘中ってのは相手の考えを読みながら戦うものだ。でも、その考えの外から攻撃が来るもんだからかなり混乱する。右から攻撃が来ると思ったら左と前から攻撃してきた!―――みたいな感じ?
「なるほど。お前のいいように戦いが進み出すか」
ガゼルなりの解釈が出来たようだ。っていうか、理解が速いよ!もうちょっと混乱してくれてもいいのに!
「毎回言うけど、相手にペラペラ能力を全部明かすなんてことをするのは格下相手だけだから、お前には話さないよ」
なんか自然な流れで俺から肯定を得ようとしていたけど、そう簡単に騙されないぞ。
「毎回ということは、我らと戦う際に毎回驚かせるようなことをしているのか」
怒気を抑えてちょっと呆れ気味に呟くガゼル。敵である神の眷属に呆れられるなんて中々にないことじゃなかろうか。
「とにかく!ここからが本番だ!」
俺をビックリ人間みたいに言うんじゃない!
・・・
「リリアスが来たのはこっちの方か?」
会場から監督を他の冒険者達に任せて離れていくグラスプの姿を見てチーム単位で追いかけてきたギムル。そのグラスプの中には勿論リリアスがいた。
むしろ、リリアスがいなければこんなところにまでギムルはやってこなかっただろう。
「ねぇ。流石にやめましょう。リリアスが自分の班を離れて冒険者のパーティーとして動くなんてよっぽとのことが起こったのよ」
「いつもいつも置いてけぼりなんだ。ここで喰らいつかないでいつ喰らいつくっていうんだ!?」
キャシーの諫言に耳を貸さず、前へ前へと突き進むギムル。
「それに俺1人でもよかったんだ。お前らが勝手についてきたんだろ?」
タカキとのいざこざから何も学んでいないのか、いや、もはや治らない病気みたいなものなのか。
「あんた1人じゃ本当に何をしでかすか分かったもんじゃないもの。結果から見てマシな選択よ」
ちなみに最良はギムルを連れ帰ることである。
「ならさっさと行くぞ。何か音が聞こえる。きっとリリアスはもうすぐそこだ!」
自分が死地に足を踏み入れているとも知らず、ギムルは班を率いて進むのだった。
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