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第429掌 クレーマー、オカマ



 二回戦は流石にリリアス達のいる場所ではなく、選手専用に用意されている部屋に戻った。


 流石に全員一緒っていうのはダメだからそれぞれ一人に一室ずつ用意されている。


 優勝を争って戦う相手と一緒の部屋で休憩なんて出来ないだろうからな。むしろ、一緒にさせるなんてどんな神経してんだって疑われかねない。


 かくいう俺もそんなことをされたらどんな神経してんだって思ってたからな。


 ・・・どうして俺がこんなことを急に言い出しているのかと言うと。


「それで?どうして私の戦いを見てくれていなかったのよ!」


 と、まあこんな感じで俺の控室にファイン(偽)が乗り込んできているからだ。こんな感じで文句を言ってくる余裕があることからも分かるようにこいつも二回戦に進出している。


「悪かったな。でも、仕方ないだろ?俺、あの後、謎の美少女とかふざけたこと言われながら記者みたいな奴らに囲まれてしまいそうになったんだから」


 一回戦が終わった後、急に城に転移した理由はそういうことがあったからなのだ。もちろん、人々に晒されている自分の恥ずかしい姿のことに関して自分の精神を回復させる意味合いもあったけどな。


「そう。そこに関しては何も言えないわね。強引にこの大会に参加させちゃったわけだし・・・」


「本当にな」


 せめて男として参加していたらこんなに面倒なことにはならなかったし、精神的にもダメージを受けることもなかったのだ。


「でも、女装していたからこそ、ここまで勝ち上がるためのアイディアも浮かんだんだけどな」


 男が美を関する大会で勝ち上がるっていうのは案外難しいものだ。


 しかし、周囲が女性だと思っているなら取れる方法はいくらでも考えられる。そういうことに関しては日本のバラエティー番組ではネタが豊富だったからな。


「そう?それなら私もノーマとしてエントリーさせて良かったわ」


「それとこれとは話が別だ」


 そもそも参加するつもりがなかった大会に無理矢理エントリーされているんだ。その上、周囲の注目を集める舞台で女装をさせられる。


 それがどれだけの苦痛を普通の感覚を持つ男子に与えるか分かるか?女装と周囲が分かっている中やるのとは違う。周囲が女の子だと思っている中でやるんだぞ。精神的苦痛の度合いは明らかに後者の方がデカい。


「今回はもう、決勝戦なんて最終段階まで来てしまっているから仕方ないけど、今後、もしこういう機会があっても俺をエントリーさせるなんてことは絶対にするなよ?」


「えー?それはそれで勿体ないような―――」


「す・る・な・よ?」


 ふざけたことを言いそうになっていたので俺は殺気をファイン(偽)に垂れ流しながら念押しをする。


「は、はい・・・」


 俺の必死さというか、殺気に充てられて頭を縦にブンブンと振るファイン(偽)。


「それで、なんだって俺の控室に来たんだ?流石に一回戦を見なかっただけで文句を言いに来たってだけじゃないだろ?」


「え?それだけなんだけど――――――」


「文句を言いに来ただけじゃないだろ?」


「そ、そうね。その通りだわ!だからそのどす黒い殺気を出すの止めて!」


「分かればよろしい」


 王族特有の演技で誤魔化そうとしていたかもしれないが、俺は何度も騙されるような甘ちゃんじゃない。こういう演技とかで相手を煙に巻くような相手には実力行使が良く効いたりするのだ。


「それで?俺のところに来た理由は?」


「あなたが一回戦で戦った相手とか、次に私が戦うことになる相手なんだけど、あなたと同じところの出身なんじゃないの?」


 俺の一回戦は近衛静香だから確かにその通りであるが・・・何?お前の二回戦の相手も俺のクラスメイトなの?


「どうしてそう思うんだ?」


 とりあえず、肯定せずに確認する。


「この世界で黒髪黒目なんてそうそういないわ。海の向こうにある島国にはそういう人達が大勢いるって噂で聞いたけど」


「へぇ」


 そこにはいずれ行ってみたいな。でも、今すぐにってのは無理だな。ファイン(偽)のこの言い方からして結構距離があるみたいだし。


「それに観戦していただけでも分かるけど、結構強いのよ。あの若さであそこまで強いのなんて幼少期から修行とかしていたとしか思えないわ。あなたを見ていたらそのことがよく分かるし」


 ごめんなさい。俺の能力って地球神からもらっただけのチートなんです。俺自身の力じゃないんです。もちろん、チートを貰ってからの頑張りやチートを貰う前から持っていた技能なんかは俺自身の力だけど。


 そういうのってあんまり今のステータスのスキルの中に反映されないんだよな。実際に化粧が上手いことに関してスキルは付いていないし。


「ま、ちょっとややこしい事情を抱えているのは認める」


 そう言えば、王様とはこの話はしたけど、ファイン(偽)には適当にしていたな。俺がどういう存在なのかよく分かっていないからこういう感想を抱くのかも。


「しかし、話が脱線しているぞ」


「ああ、ごめんなさい」


 ファイン(偽)は咳を一つしてから話を戻す。


「そういうわけで次の戦う相手についての情報を貰いに来たの。相手が知り合いなら知っているかなって思って」


「お前、それを同郷の者かもしれない俺に聞くって・・・。図太いというか、いい神経しているよな」


 簡単に言えば、世界大会の個人戦でこれから戦う相手について相手国の友人に聞く―――みたいなものだ。普通は遠慮というか、常識的にしないようなものだ。それをアッサリと聞いてくるとか・・・。


「もちろん、聞けたらいいかなぁってぐらいの軽い気持ちだから。本気で言っているわけじゃないわよ?」


 とか言いながら目が鋭いぞ。


「う~ん。そうだな。まあ、別に教えてもいいけど」


 「いいんかいっ!」と、そんなツッコミがどこからか聞こえてきた・・・気がした。


 ツッコミ役不在だから聞こえた気がしただけだけどね。




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