第425掌 レース対決
一回戦第二試合はサラッと飛ばして次は俺の第三試合だ。
え?飛ばしちゃうのって?
よくよく考えてみてよ。普通に全二十もある試合を延々とする?観戦する側は楽だけど、それを描写する俺の身にもなって欲しいと言いたい。いや、誰に描写しているのかって話なんだけど。
メタな話はここまでにしておいて。
「さて。俺はどんなルールで戦うことになるかな~」
すでに司会の俺達に対する紹介も済んでいるので後は抽選結果を待つだけだ。
「あなた、正面からじっくりと見るとどこかで見たことがあるような顔しているわね。どこかで会ったことある?」
「あはは。どこかってどこですか?すみませんが、さっき会った時が初めましてですよ」
ここであからさまな態度をするとバレてしまうので俺のスルースキルで回避だ。あ、スルースキルって言っても別に本当のスキルじゃないよ?
結構鋭そうな子だからな。俺がクラスメイトだなんて表情には出さない。俺の演技が分かるのは長い付き合いの相手、家族とか昔からの友人。後は俺のことをよく見ている相手だな。今の仲間は多分ある程度は俺の演技も分かるだろうからな。
仲間にあんまり嘘とか演技はしたくないけどな。
「そう?それなら勘違いしてごめんなさい」
「いえいえ。気にしないでください。これから戦う相手なんですから」
俺はそう言って近衛静香のフォローをする。
「決まりました!今回の戦いのルールは競争対決です!先に目的の場所に到着した方の勝ちとなります」
意訳すればレース対決ってことだな。
「要するにレース対決ってことね。あなたは分かる?」
俺の考えたことをそのまま近衛静香が言った。まあ、ぶっちゃけ普通に分かるけど。
「レース?って言葉は分からないですけど、内容は分かりますよ」
ここですんなり肯定してしまうとレースって言葉を知っていることになるからな。まずはその言葉自体を知らないという体を取ってから理解を示さないと。
「そう?それならいいのだけど」
それにこのレース。ただ目的地に着けばいいという大雑把なルールだ。裏を返せば相手が到着する前に倒してしまえばいいということになる。
「お二人とも理解を示して下さったので早速始めたいと思います!心の準備はいいですか?」
「はい」「ええ」
俺と近衛静香は司会の言葉に首肯し、返事をする。
「それでは始めっ!!!」
司会の掛け声と共に近衛静香が俺に攻撃を仕掛けてきた。火魔法、それもレベル3相当の威力だ。魔法を使えること自体も驚いたけど、結構威力も高いんだな。頑張って身につけたんだなぁって思う。俺の魔法は最初に覚える工程は省いてしまうからな。
「やっぱりそうしてくるよね~」
「そんな呑気なこと言っていたら直撃するわよっ!」
呑気にしてても大丈夫なくらい丈夫になったからなぁ。表現的には丈夫というよりは頑丈というか。とにかく強固になってしまっている。
「まあ、流石に服は魔法に耐えられないから弾いておくけど」
いつもの防服は現在、来ていないからな。今回、女装がメインになってしまうと分かってしまったからアシュナさんのところの防服店に修理をお願いしておいた。それと出来ればグレードアップを。前回のテラコスとの闘いで本当にボロボロになってしまったからな。
「んなっ⁉」
まさか自分の魔法が弾かれてしまうなんて思ってもみなかったんだろう。まあ、レベル3相当の魔法なら避けるのが正解だ。もしくは何かを盾にするとか、同等の威力の魔法をぶつけるとかだな。
「弾くなんて。どういう体の構造していたら出来るのよ!」
「そう言われましても・・・」
確かに今の魔法程度の威力なら当たっても全然痛くも痒くもない。あ、すみません。ちょっと痒いです。
「弾けるものは弾けるんだからしょうがないです」
「私の魔法ってそんなに弱かったの・・・?」
いやいや。弱いわけじゃない。単純な威力だけでもさっきの火魔法は車が突っ込んできたレベルの威力はある。弾いている俺の方がおかしいのだ。
「それじゃあ、お先に」
茫然としている近衛静香を放置して早速目的地へと向かう。
「あっ」
先に出発した俺を見て我に返る近衛静香。
「ま、まちなさ~い!」
近衛静香は両手に火魔法を常時展開して追いかけてくる。何度もその火魔法を攻撃してくるが、それらを全て上空へと跳ね上げる。流石に左右に弾いたら誰かに当たりかねないからな。
「ほいっ」
俺は行く先々で穴を掘っては穴自体をカモフラージュしていく。そしてその罠にちょいちょい引っかかっている近衛静香。落とし穴って結構精神的にキツイよな。
使い終わった落とし穴はすぐさま土魔法で穴自体を埋めることで、あたかも何も仕掛けはしていないという形を取る。
「っく⁉このままじゃあ!」
「シズカ・コノエ選手、苦戦しております。後で確認しますが、あの落とし穴はきちんと全て直しますのであしからず」
司会が観客にご丁寧に説明している。
「それじゃあ、落とし穴もそこそこに速度を上げますかね」
俺は圧倒的な差を生むためにさらに加速させるのだった。
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