第391掌 暴走、ギムル君 その12
村へと戻った俺達は村の入口にリリアス以外を残して村長のいる家まで来ていた。
「以上が報告になります」
村長にヘドロ系の魔物。そしてその元凶を討伐したことを報告した。討伐部位がないので物的証明が出来ないが、そこは血縁者である息子さんと娘さんのおかげで大丈夫だった。
「本当に・・・本当にありがとうございました!これでこの臭いからも解放されると思うと・・・それだけでっ!それだけで涙が―――っ!」
オーバーなリアクションに若干引いてしまったが、確かに年中この臭いで過ごしていたらこうもなるか。
「でも、流石にすぐに臭いはなくならないと思います」
「ええ。それは分かっています」
臭いの元は倒したとはいえ、残っている臭いまではどうしようもない。こればっかりは村の人達だけで何とかしてもらわないと。
「タカキさん。魔法で臭いを取り除くことは出来ないんですか?」
小さな声でコソッと聞いてくるリリアス。
「ダメだ。さっきリリアスが自分で自重しろって言ったばかりだろ?」
「そ、それはそうですけど・・・」
まあ、困っている人を見過ごせないって気持ちを言葉や行動に移せるのは流石だけどな。
「それに村の物全てに臭い自体が染みついているんだ。俺が魔法で漂っている臭いだけ排除しても意味はないさ」
まさか村にある物全てを処分するわけにもいかないだろうし。
「ここからは徐々に臭いの染みついていない物と徐々に交換しながら頑張って元に戻していこうと思います」
村長も俺の考えていることをしっかりと考えていたのだろう。そう言ってくる。
「ええ。頑張ってください」
「それでは報酬の話です」
そう言って村長は冒険者としては最も重要な部分の話をし出す。
「これが今回の報酬になります。これだけのことをしてくださったのに申し訳ないですが、何分、数を減らしてもらうために出した依頼ですから」
「ええ。分かっています。依頼分の報酬だけで十分ですよ。こちらも襲い掛かってきた火の粉を払っただけですから。その中に元凶が含まれていただけ」
っていうか、マジであの黒いのは何だったんだろうか?外見が前に樹里達に聞いた話と似ている気がするんだが。
「本当にありがとうございました」
俺の言葉に深々と頭を下げる村長。そしてその後ろで同じように頭を下げる息子さんと娘さん。
「これが報酬です」
そうして渡されたのは小袋。持ってみると中にはお金が入っていた。
「村人達と出し合って集めたお金です。今後のあなた方のお役に立てれば幸いです」
「ありがとうございます」
そうして俺とリリアスは村を出た。
「さて。それじゃあここからは大事な大事なお話をしないといけないな?」
そう言って俺が見つめる先にはギムル。本人はバツの悪い顔をしている。リリアスが庇ったのが効いたのだろう。
「お前はリリアスが指示を出したにも拘らず飛び出していったらしいな?」
「・・・ああ」
「その行動のせいでどんな被害が出るのか考えたのか?どうしてそんな馬鹿な行動をした?」
「いいところを見せようと思って。それにヒョロッとしてて俺でも勝てると思ったんだ」
「本当に考えるってことをしないな、お前は。お前でも勝てると判断したのならリリアスが自分だけで戦うなんて言い出すはずがないだろうが。リリアスは今回のことも遠征として、つまりは班での行動を心掛けていた。つまりお前達のレベルに合わせていたんだ」
そのことに気が付けという無茶は言わない。しかし、リリアスの実力ぐらいはある程度は知っているはずだ。級友なんだったらな。実際、ギムル以外の面子はリリアスの指示に従っていた。
「それなのに、お前は自分のことしか考えていないようにしか見えない」
俺はギムルの根本的な部分を突く。
リリアスから出会ってから今までの話を聞くとそう判断出来る。無茶ばかりして周りのことは後回し。自分本位の行動。
「周りが見えていないようじゃお前はただの邪魔でしかない。その根本的な部分が変わるまでは誰がどうのこうの言うことすら烏滸がましいと思え」
遠回りにリリアスにちょっかい掛けたいって言うならまずはスタートラインに立ってから出直せと言っているわけだ。
勿論、自分本位でもそれを補って余りある何かがあるなら一考の余地はあるけどな。強さ、人脈、お金。色々あるが、ギムルはどれにも該当しない。
「まあ、説教を俺からされても嫌だろうし、ここまでにしておこう」
っていうか、突っかかってくるくらい嫌いな俺に言われてもそんなに心に響かないだろう。
俺の言葉に周囲も少しホッとしているようだが、まだ終わってはいない。
「それじゃあ王都に帰るぞ」
俺の指示で皆は帰りの途に就く。
「ちょっと待て、ギムル」
「・・・なんだよ」
「誰が普通に帰っていいと言った」
「は?」
「お前は皆の荷物を全部持っての移動だ」
「なんでそんなこと!」
「罰だ。俺が嫌い云々の前に今回のことで班員には迷惑を掛けたんだろう。そのお詫びも兼ねて荷物持ちくらいやれ」
俺の言葉に渋々従いながら全員で帰路に就いた。
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