第387掌 暴走、ギムル君 その8
「おりゃぁぁぁああっ!」
そんな声と共にギムル君が魔法を魔物にぶつける。しかし、ギムル君のぶつけた魔法は一体を倒して終わる。しかも、倒してすぐにその場で再生してしまう。
「ギムル。あんた、ちょっとはペース配分とか考えなさいよ」
キャシーが苦言を言う。
「うるさいな。俺は俺で考えているんだよ」
「どこがよ。考えていたら再生する魔物にただ魔法をぶつけるだけなんてしないはずだわ」
「ぐぅ」
さっきからキャシーのギムル君に対する当たりがキツいな。どうしたんだろう?
「ねぇ、キャシー。どうしてそんなにギムル君に対して当たりがキツいの?」
私は本人に聞く。
「本人のいる場所で聞くのね・・・。まあいいわ。だってこいつ、全員に迷惑を掛けたのよ?班員の私達にも。タカキさんやリリアスのパーティーの人達にも。それに騒ぎになったっていう場所、宿だったらしいじゃない。そこにも迷惑が掛かっているわ」
「確かにそうね」
「タカキさんを勝手にライバル視するのはこいつの勝手だけど、迷惑掛けておいて、迷惑を掛けた人達には何のお詫びもしていないなんて最悪だわ」
確かに。ギムル君はここに来るまで誰にも謝っていない。
「リリアスに聞いたけど、タカキさんは騒いだ宿に謝ったそうじゃない。自分が起こした騒ぎでもないっていうのに」
タカキさんなら自分が関わっている時点で巻き込まれ体質の自分にも多少は悪い部分があるって言うだろうけど。それでも理不尽ならそういうイベントはスルーすると思うし。
「そういう見えない部分であんたはすでに負けてんのよ」
「ぐっ。俺だって」
「『俺だって』何よ?現状、あの人と比べて自分が勝てている部分があるって言えるの?」
ここぞとばかりに畳みかけるキャシー。正直可哀想になってくる。それにしてもどういう基準で勝ち負け判定しているんだろう?
「・・・・・・」
キャシーの猛攻についに無言になってしまうギムル君。
「と、とにかくまずは依頼をこなそう?依頼をこなすだけでもいい経験になると思うし」
私はこの静まり返った場をなんとか和らげようとそう提案する。っていうか、こうしている間にもヘドロ系の魔物は攻撃してきた私達に向かってノソノソと近づいて来ている。他の三人が対処してくれているからこんなに話していられるのだ。それでも危ない個体はいるのでそれは私が急いで倒している。
「・・・ふぅ。そうね。せっかく普段は経験出来ないプロの冒険者がいる場での依頼だもの。チャンスはしっかりと生かさなきゃね」
そう言って気持ちを入れ替えるキャシー。
「さ。ギムル君も頑張ろう?」
「あ、ああ・・・」
そして私達はタカキさんにアドバイスしてもらった相手を凍らせる、もしくは燃やすという方法を使って倒していく。
一体一体着実に。遅いが確実に数を減らしていった。
若干、村長の娘さんが空気になってしまっていたが、内輪の問題だと判断して入り込んで来ないのだと私は思うことにした。
・・・
「はい。到着」
俺は元凶のいるはずの場所にやって来た。地面に着地っと。
「こ、怖かった・・・」
ちょっと悪い気持ちになる。ここに来るまで魔物の襲撃が相次いだ。自分の体からヘドロを出して飛ばしてきたのだ。それに当たったら確実に病気になるだろうし、臭いは当分残るだろう凶悪さだ。俺は安全確実に躱すために結構な速度で避けた。それに付き合わされる方は堪ったものじゃないだろう。
「すみません。でも、あのヘドロに当たったら大事になりかねませんから」
「ああ。それは大丈夫です。責めてはいませんよ。僕だってあれには当たりたくなかったですし」
怒ってないようで何より。
「さて。それじゃあまずは索敵しますか」
俺は周囲を把握スキルで探っていく。しかし、元凶は把握スキルの索敵範囲内にいない。
「あれ?どういうことだ?」
村長の家にいる時には確かに把握出来ていたのに。
「どうしたんですか?何か問題が?」
「ああ、いえ。元凶が見当たらなくて」
「えぇっ⁉それ、大事じゃないですか!」
「まあまあ。落ち着いて。今探していますから」
俺は把握スキルだけじゃ探し出せないと判断したので掌握スキルで索敵開始。周囲を掌握しながらの索敵なのでより精密な索敵が出来る。そして把握スキルの上位スキルなだけあって索敵出来る範囲も把握スキルよりも広い。
「見つけた」
「本当ですか⁉」
しかし、いる場所が問題だった。
「これ、村の方に向かってる・・・」
「ええっ⁉」
しかも、リリアス達のいる場所を通過する形になる経路で進行しているのでさらにまずいかも。あそこにはリリアスだけじゃなくて暴走しやすくなっているギムルがいる。他と違う魔物が現れたら突撃しかねない。その無茶の犠牲になるのは本人だけではないのだ。
「ちょっと急ぎますか。息子さん、結構急ぎ目で戻りますけどいいですか?」
「はい!村の危機ですから!私に気を遣わずに本気で移動しちゃってください」
本人の了承を得たので俺は息子さんと一緒に上昇する。
「それじゃあ間に合うようにさっきよりも早めで行きますよ!」
「え?さっきまでのが本気じゃなかった―――のぉぉおぉおぉおおおお!???!?!??」
悲鳴をその場に置き去りにして俺と息子さんは飛び立った。
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