第348掌 眷属との戦い テラコス編 その5
「それじゃあ、その秘策ってのを見せてもらうとしますか」
テラコスはそう言って俺に突進してきた。
「んなっ⁉」
俺はここまでの戦いでまさかテラコスが接近戦をしてくるとは考えられなく、接近を許してしまう。
「『焔透』」
テラコスはそう呟き、俺の腹に手を当て、その魔法を発動させる。
「ぐ、ぐはっ!」
その瞬間、俺の腹に尋常じゃない熱さがこみ上げてくる。
「な、なんだ―――っ?」
口から血を出しながら自分の腹を抑え込む。
「あれ?この魔法、知らない?」
「・・・レベルMaxまでの火炎魔法の中にもそんなのはなかったぞ」
俺は見た目はさっきと全く変わらない腹を抑えながらテラコスを睨みつける。
「ああ。ないぞ。これはその先の魔法だからな」
「・・・まさかっ」
俺はプリマとの戦いを思い出す。
「ん?その顔は俺のこの魔法に心当たりがあるって顔だな?」
「ああ。プリマ姫と戦った時にな」
確か、プリマ姫もどう考えても暗黒魔法以上の力を持った魔法を使用していた。あれと同じものだとしたら納得出来る。
「ああ。プリマも闇を司る者だからな。闇関係の魔法を全て使えるなら、戦っている最中に使いもするか」
「『ゼロ・ワールド』だっけ?あれは俺も出来ないんだよな~」
「あれも魔法だろ?どうして出来ないんだ?」
俺は自分の身に回復魔法を掛けながら時間稼ぎに問いかける。
「あれはプリマの権能っていうか、闇を司っているからこそ出来る技みたいなものだからな。あれは魔法ってわけじゃないんだよ。まあ、魔法じゃないってわけじゃなくて、他のスキルとか諸々を複合して使っているって感じって言えばいいかな」
「本当にあっさりと教えてくれるな」
「まあ、実力差ってやつを鑑みるとこれくらいしてもいいだろ?こっちは使徒としての能力を全て使える。対してそっちは人間としては破格中の破格だが、使徒としてはまだまだの状態だからな」
何とも見くびってくれる。しかし、言い返せない。実際に俺は自分が何を司っているとか、そんなのも全く知らない。
「まあ、人間から使徒になったなら仕方ないことだ。使徒としての能力はステータスなどに表示されないからな。神が関係しているものの中でステータスに表示されるのは加護とか種族ぐらいだし」
確かにその通りだ。実際に俺のステータスを見たらそれは一目瞭然。
「さて。そろそろ回復も出来ただろう?」
「・・・ああ」
手加減されていることに何も感じないわけじゃない。だが、これは好機でもある。何せ自分より格上と戦うことなんてそうそうあることじゃない。だから戦闘のセンスというかキレみたいなものを磨かせてもらう。
「じゃあ、俺はここから全力全開で行くぞ」
相手が圧倒的に優位。そんな中だからこそ、全身全霊でやるからより強くなれる。
「ああ、来い」
ニヤリと笑い、テラコスが構えた。
俺はスキル、魔法で身体能力向上するものを再び全て掛ける。そして異空間の中にしまっていたHPとMP回復のためのアイテムを使用する。
「よっしゃ!行くぜ!」
俺は時空魔法を使い、周囲に異空間の穴をかなりの量だけ開ける。
「ほう。己以外に通過することが出来ない空間の穴か」
俺は早速その作り出した穴の中に入る。
そしてテラコスの近くにある穴の一つから出て来て、瞬間移動スキルを使って火炎魔法を纏った拳で殴る。
「ぐっ。これは厄介だな」
「まだまだ!」
そして連続で殴り続ける。
「がっ!こ、これは」
俺の拳に纏わせている魔法を見て分かったようだ。どうやら身をもって理解したな。
「名付けて『ランダムパンチ』ってな」
俺は一旦テラコスから距離を取ってそう言ってドヤ顔する。
しかし、正直これはないな。後で真面目に名前は考えよう。
「一撃一撃がどの魔法なのかが分からなくなるってことだな。そしてこれに対処法はない」
おお。早速言い当てたよ。流石は魔法を司る者。
「ああ。ちょっとした思いつきだったんだが、意外と厄介なもんだろ?」
俺の拳は今、俺が持つ属性魔法全てをランダムに変わりながら纏っている。
「ダメージは今までと全く変わらないけど、対処方法が極めて少ない。一番有効なのは避けることか」
「それ以外に今のところ良い対処法は思いつかないな」
俺はテラコスの言葉に同意する。
「それじゃ再開だ」
そして俺は再び瞬間移動スキルで異空間の穴の中に入ってテラコスへと距離を詰める。
「殺す気で行くぞ」
俺は異空間から刀を二本取り出す。
「最初から殺しに来ていなかったのか?」
「いや、今の俺で十分に対処可能なら捕まえようと思ってた」
神からの依頼は討伐、または捕縛だからな。
「でも、今の俺じゃあそんなことは出来ないってよく分かったからな」
そもそも捕まえるなんてことは自分よりも相手が弱い時にしか出来ないことだ。でも、殺すなら自分の方が弱くても可能性は捕縛よりも高い。
高速で移動しながら会話する俺とテラコス。はたから見たらどう見えるんだろうな。
「行くぞ」
俺はランダムパンチに使っていた方法を刀で再現してテラコスに斬りかかった。
「なら、俺もそろそろネタばらしといこう」
そう言った瞬間、俺の刀に纏っていた魔法が掻き消えた。
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