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第342掌 成就する目的



「ま、魔法が使えない?どういうこと?」


 ミクスの告白に驚いたのは俺ではなく、アメーシャやエリトゥナと言ったハイエルフ達だ。


「別に魔法が使えないなんて当たり前のことです。そうですよね?」


 そう俺に問いかけてくる。


 確かに、最近は周りに魔法を使う連中が多いから忘れそうになるが、魔法とは元々使えるだけでも才能があるっていうことだってリリアスに聞いたことがある。そう考えるとミクスの言葉は何も間違ってはいない。


「でも、それは人間だからでしょ!私達はハイエルフなのよ⁉」


 エリトゥナがそう言い返す。


「それはハイエルフは魔法を使えるようになりやすいってだけです。実際には魔法を使えないハイエルフもいないわけじゃない。実際には使えないのに使えると周囲に嘘をついて生活している人達もいるのですよ」


「そ、そんなことが・・・」


 エリトゥナは驚いている。ハイエルフが魔法を使えないなんて思ってもみなかったのだろう。


「でも、だからってどうして・・・」


「簡単なことですよ。魔法が使えないハイエルフ。そんな存在をこの里、特に長達が許すとでも思っているのですか?」


「―――まさか」


 アメーシャがある考えに思い至る。


「ええ。そのまさかですよ。魔法が使えないハイエルフなどハイエルフではないとして、処分されました。良くて里の外へ追放。悪かったら殺処分ですね」


 まるで自分達のことを人以外の畜生か何かのように言う。


「そこから救い出したのがお前の言う主様ってわけか」


「ええ。その通りです」


 俺の問いに肯定で答えるミクス。


「そうか。でも、それと俺に今敵対していることは関係ない。同情はするが、敵である以上は遠慮なく倒させてもらう」


「素直に言ったらどうです?殺すと。それともアメーシャ様やエリトゥナに遠慮でもしているのですか?」


「ああ、そうだな。お前からは反省の色は見受けられないし、さっさとどうにかした方がよさそうだ」


 そう言って俺は自身に硬化スキルと浸透スキルを使用する。なんか、最近スキルとか把握スキルとかしか使っていなかったから久しぶりな感じがするなぁ。まあ、それだけ魔法に頼って来たんだけど。これはいい機会だ。魔法だけに頼っていた今の自分から両方を使いこなせるようになる。


 俺はさらに重力操作・自己スキルで自分の体を軽くし、高速移動スキルで瞬動を使ってミクスに急接近する。そしてこっちから拳を相手に叩き込む。


「―――グァ⁉」


 そんな苦しそうな声を漏らしながらミクスは俺に殴られた腹を抱えて後退する。


「悪いが、ここからは戦い方を変えるぞ。練習台になってもらう」


 そして俺の一方的な蹂躙が始まる。


 俺の体全体に硬化スキルがなされており、凄まじい硬度になっている。このスキルは硬くなる代わりに自分の動きも硬くなるという欠点というか、短所が存在しているのだが、そんなものはレベル自体が掌握した時点でカンスト通り越している俺には関係ない。


 さらに浸透スキルによって俺のただでさえ硬い攻撃に内に響く効果まで付与されている。これにはどんな相手だって勘弁してほしいと思うこと請け負いだ。


「オラオラオラオラオラッ!」


 某人気漫画の人みたいにオラオラ言って攻撃する俺。攻撃のたびにオラオラ言っているのに意味はありません。気分です。


 そんな俺の容赦のない攻撃についに抵抗も出来なくなったミクス。


「これで最後!」


 最後にかなりの力を込めて横蹴りをミクスの腹に放つ。そしてそれを受けてミクスは後方に吹っ飛んでいった。


「―――ふぅ。前の感覚も大分戻ってきたかな?」


 流石に魔法に全く頼らずにやっていた時や格闘技をやっていた時より技術的には全然まだまだだったけど、少しは戻って来た。


「さて。それじゃあミクスを負かしたことだし、目的の内容を聞くとしようか」


 そう言って俺は吹っ飛ばしたミクスの元へと歩いて向かう。しかし、その最中に再び地震が俺達を襲う。


「うおっ。最初のやつよりデカい揺れだ」


 最初のが震度4とか5だとしたら今度のは7くらいはあるんじゃないか?まあ、そこまで大きな地震にあったことがないから感覚的なことしか言えないけど。そう考えると本当に平和な場所で生きて来たんだなと改めて思う。地震で大変な目に遭っている人達もいるからな。


 しかし、この地震に混じっている嫌な感覚はなんだ?


「フフフっ」


 俺が地震に混じっている嫌な感覚というか気配に警戒していると、昏い笑い声が聞こえて来た。


「ミクス!この地震はなんだ⁉」


 俺はその昏い笑い声の主であるミクスに問いかける。


「目的は成就した!」


「どういうことだ⁉ベルレアンもお前も何かする前に止めたのに!」


「・・・簡単なことです。私達があなた達を襲いに来ている間も私達の目的は進行中だったのですよ」 


 その進行中だったという言葉で思い至る。


「結界かっ!」


「ええ、その通りです。これで我が主は何の制限もなく、復活することが出来る」


「何⁉何なの⁉」


 樹里が訳が分からないといった具合に混乱している。


「結界が壊れていたのは外を見れば分かるな?」


「え、ええ」


「あれが完全に壊れたんだよ。さっきの揺れはその影響」


「で、でもそれが何でその主?の復活に繋がるの?」


『結界は封印でもあったってことよ』


 神獣が苦虫をすり潰したような表情をしている。いや、狼状態じゃあんまりハッキリとしたことは分からないけど。


「ハハハハハッ!やった!やったぞ!」


 そんな俺達を尻目に狂喜するミクス。


「これでお前達はおしまいだ!私を殺さずそのままにしていたことを後悔するがいい!私は主と共に世界を手に入れる!」


 結局そういう感じの発想になるのね。


『ああ。よくやってくれた』


 狂喜するミクスをドン引きしながら見ていると、そんな声が急に響いて来た。


「ああ!我が主!」


『お前達のおかげでついに復活することが出来る。本当によくやってくれた』


「ありがたき幸せ!」


『そして、最後の命令だ』


「何なりと仰せ付けください!」


『その体を寄越せ』


「はい!――――――え?」


 自分が何を言われたのか理解出来ないのだろう。二つ返事で答えてからその主から聞かせられた言葉に戸惑う。


「ど、どういうことなのでしょうか?か、体を寄越せというのは・・・」


 震えながらも笑いながら自分の主に問いかけるミクス。


『言葉のままの意味だ。すでにベルレアンの体は貰い受けている。お前と同じような反応をしていたが、どうせ死ぬ運命だったのだ。我に差し出したところで変わりはしないだろう』


「そ、そんな・・・」


『そもそも魔法も使えないゴミを使い物になるようにしてやったのだ。悔いあるまい』


 そして異変はすぐに起きた。


「い、いやだ!いやだいやだ!いやだァァァァァァァッ!!!!!!!」


 ミクスは地面に溶けるように徐々に消えていき、最後にはその場に何も残らなかった。




読んでくれて感謝です。

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