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第339掌 あちら側とこちら側



 時間は少し前に遡る。


 タカキが飛び出し、アメーシャの家に戻っている頃。アメーシャ達はまだ長達がいる部屋の中にいた。


「タカキは行っちゃったけど、これからどうすればいいのかな?」


「私に聞かれましても・・・」


「だよねー」


 アメーシャの問いに困った様子で答えるエリトゥナ。


『っていうか、私的にはここにいる長?っていうハイエルフをボコボコにしてやりたいんだけど。タカキがいない間に私のことを利用しようとした傲慢なこいつらをメッタメタにしてやりたいんだけど』


 グルルルッと喉を鳴らせながら神獣は長達を睨みつける。


「「「「「「「「「ヒィッ」」」」」」」」」


 そんな神獣の威嚇に気圧されてガクガクと震えている。これのどこが上位種族なのか疑問に思ってしまっても仕方がない。


「でも、神獣がいてくれるおかげで私達に何かしてくるような人はいないようね」


「はい。でも、問題はあの揺れです」


 現在、揺れは収まっており、冷静になっているアメーシャとエリトゥナ。


「ええ。この里で何かが起こっていることは間違いないわ」


『なんで地面が揺れているだけでそんなことが分かるの?』


「私が知る限り、この里では一度も地面が揺れたりしたことなんてなかったからよ。少なくとも私が生まれてからは一度もないことははっきりと自信をもって言えるわ」


『だからあんなに怖がっていたのね。初めての体験だったから』


「恥ずかしいから取り乱した時のことを言うのは止めて」


 顔を赤くしながらワタワタと誤魔化すアメーシャ。


「あー。談笑中で申し訳ありませんが、そろそろ私に気付いてもらえませんかね?」


 アメーシャ達が騒いでいると、そんな声が聞こえて来た。そしてその声はアメーシャとエリトゥナにとってはとても聞き覚えがある声だった。


「あ、あなた・・・」


「まさか・・・そんなっ」


『誰?』


 タカキが飛び出した窓に腰かけている人物を見て驚く二人。周囲の長達もその人物の姿を見て驚いている。そんな中、神獣だけは全く理解できていないようだ。しかし、それも当たり前。その場にいる者達の中で唯一その人物のことを知らないのだから。


「神獣殿はお初にお目にかかります。私はミクスと言います」


『あら。ご丁寧にどうも』


 そんな気軽な会話がなされる。しかし、そんな気軽なのは神獣とミクスのみだ。他のハイエルフ達は驚愕と警戒でそれどころではない。なにせ消息不明のミクスがいきなり現れたのだから。


「急にいなくなってどこで何をしていたの?」


「ああ。アメーシャ様。ちょっと私にもすべきことがありまして。そのためにこちら側の責務などは放棄させていただいたのですよ」


「すべきこと?」


「ええ」


「それは私達ハイエルフよりも大切なことなの?」


「私にとってはそうですね」


「―――そう」


 アメーシャはその短い会話の中だけでミクスは今まで自分が知っているミクスではないということを理解出来た。


「従兄さん!」


 だが、それでもエリトゥナには言いたいことがあった。だからこそ、アメーシャが何かを諦めたように引き下がってもエリトゥナだけはその場に留まり、ミクスに訴えかけた。


「どうして急にいなくなっちゃったのよ!私、従兄さんがいなくなってから大変だったんだから!」


 感情も昂っているためか、涙目になっている。


「ああ。エリトゥナか。君はいつまでも私に頼ってばかりだから私がいなくなったらすぐにボロが出るんだ。普段から自立をしないとね」


「わ、私はこれまで自分の力で・・・」


「やれていないから私がいなくなっただけで大変なことになったんだろう?」


「・・・」


 的確に核心を突き、ぐうの音も出ないエリトゥナ。


「まあ、従妹の弱さについての指摘はここまでにしておいて。ここに来たのは私のやるべきことを成しに来たんだ」


「き、貴様!どの口でそんなことを宣っている!」

「そうだ!ハイエルフの長である私達のことよりも優先すべきものなどあるはずがない!」

「今すぐそこに這いつくばって我々に謝罪しろ!」


 そんなことを言う長達。相手がタカキでもなく、神獣でもなく、自分達の部下だった者対してはここまで大きな態度で出られる。そんな姿を見てアメーシャ達は冷たい目で呆れ返っているし、小物感が出て仕方がない。


「ふぅ。自分と相手の力量、立場、状況も理解出来ないままで未だにギャアギャアと吠える。いい加減見苦しい」


 そう言い終えると同時に文句を言っていた三人の長の首が落ちた。


「「―――っ!」」


 その衝撃的な瞬間にアメーシャとエリトゥナは絶句する。


「全く。こちらの目的はあくまでアメーシャ様達であり、あなた達ではないのですよ?私に余計なことをさせないでください」


 長達を殺したことをなんとも思っていない表情でそう冷淡に言ったミクスはその表情のままでアメーシャ達を見た。


『ちょっと待ちなさい』


「おや?何か御用でしょうか?」


『この臭い・・・間違いないわ。あなた、あの神(・・・)の眷属の恩恵を受けているわね?』


「・・・流石は神獣殿!よくお分かりで!確かに私はあの方の加護を得ています」


『なるほどね。この里の者を選んだわけだ。昔から変わらないわね』


「その口ぶり。我が主のことを知っているのですか?」


『ええ。昔はよく元上司の命令で一緒に仕事をしていたこともあるし』


「なるほど。あなたはこちら側(・・・)だったんですね?」


『・・・』


「ではあなたはこちら側にとっては裏切り者というわけだ。なら、神獣だからと遠慮する必要などありませんね」


『・・・そうね』


「では、目的のための障害を排除します。覚悟してください」


『悪いけど、その目的を叶えさせるわけにはいかないの』


 そして神獣とミクスの戦いは狭い長達の部屋の中で始まった。




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