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第338掌 敵の能力の一端



「これはこれは。ジョールズ共和国で会った襲撃者君じゃないか」


 襲撃時にはフードを深くまで被って顔を隠そうとしていたのに、今はそんなことどうでもいいとでも言っているかのような無表情でこちらを見ている。


「・・・ふん。ここでしばらく大人しくしていてもらう」


「どういうことだ?」


 この騒ぎがこいつらの仕業だってことは分かるんだが。それでもたった一人で俺の前に立つなんて「どうぞ倒してください」と言っているようなものだ。見た感じ、俺に勝てるレベルじゃないし。カリーナさんよりちょっと強いくらいだ。


「・・・話す義理はない」


 そう言うや否や、高速で俺達に接近して攻撃を仕掛けてくる。


「っと!」


 俺は自分の喉に突き立てられた短剣を異空間から取り出した刀で弾く。スピード優先だから一刀のみの取り出しだ。眷属共が絡んできている以上、何をしてくるか分からないからな。安全第一でいこう。


「皆は下がってろ!」


 俺はそう後ろの全員に指示を出す。


「・・・やはり防がれたか」


「分かっててやってんのか。結構チャレンジャーだな」


「・・・別に。ただの確認事項だ。この後の行動が左右されるからな」


 そして再びその場から高速で移動する襲撃者。


「その程度のスピードじゃ無意味だ!」


 俺は短剣により急所の二か所狙い(喉と目)の一撃を今度は二本の刀で防ぐ。


「・・・だろうな。だが!」


 三度、高速移動。


「・・・これならどうだ」


「何っ⁉」


 襲撃者は俺を狙うとみせかけて俺を素通りした。そしてその進行方向にいるのは―――っ!


「・・・こっちは弱いんだろ?」


 襲撃者のスピードに対応出来ない樹里とミッキー先生が狙われる。カリーナさんも相手のスピード自体にはついて行けるし、動きを捕捉することは出来るけど、対処が出来るかと言われれば否と答えざるを得ない。数回は防ぐことは出来るだろうが、まだ格上との戦闘に慣れていないカリーナさんは格上との戦い方を見出していない。


 それに、カリーナさんは今まで暗殺を生業にして来た。簡単に言えば、それ以外の戦闘になれば実力は九段に下がってしまう。俺とアリエス教国で戦った時は暗殺の真似事をすることで戦闘でも戦えていたが、それでも相手は格下ばかりだった。だが今、この状況はマズい!


「―――リアッ!!!」


「グルニャァァアアアアアアッッ!!!」


 俺の真剣な呼びかけにリアはすぐさま反応する。


 自分の影を使い、樹里とミッキー先生を覆うことで守る。そして影から出た触手でカリーナさんの腰を掴み、後方に下げる。


 そして反撃に闇魔法で襲撃者の影から杭を何本も出現させ、串刺しにしようとする。


「・・・危ない。まさか猫がこんなに凄いなんて。主から聞いてない」


 杭を後方に下がることで回避した襲撃者はそう呟きながらリアを視界に収める。


「よくやった!助かったぞ」


「にゃ!」


 今回ばかりはその人間みたいなどや顔も許そう!


「情報を得ようと手加減して話していたけど、仲間が危険に晒されてまで欲しいものじゃない。確実に―――――殺す」


 俺は火炎魔法を発動させる。俺の魔法により、襲撃者は炎の球体の中に閉じ込められる。


「死ね」


 そして勢いよく球体を圧縮させる。


「圧殺されて燃えろ」


 一瞬で襲撃者の体の大きさまで縮んだ炎の球体だが、そこから一向に小さくならない。


「?」


「―――ハァッ!!!!」


 そして次の瞬間、何か得体の知れない力で炎の球体は消し飛んでしまった。


「―――なっ⁉」


「・・・ほ、本当に死ぬかと思った。主に感謝だな」


「・・・なんだ、その力は。魔法でもスキルでもないだろ」


 魔法やスキルなら魔力とか、特有の特徴が現れる。しかし、それが見受けられなかった。


「・・・別に。主から借り受けた大切な力だ」


「主・・・か」


 恐らく主っていうのはコイツの親玉。つまり眷属だろう。だとしたらそいつの能力が何かか?


「でも、その主の力も無敵じゃないようだな」


 襲撃者の体はマントや服のあちこちが焦げ、そこから見える素肌も火傷している。


「・・・これは主の力を使いこなせない自分自身の弱さだ。主の力が弱いわけじゃない」


「ふーん」


 自分の主に対しては結構忠誠心があるんだな。


「それじゃこれならどうだ?」


 俺は火炎魔法、風雷魔法、水氷魔法、土魔法、闇魔法の矢を襲撃者を囲うように無数に用意する。


 一つの種類の魔法だけじゃ効き目が薄いならこれでもかっていう過剰戦力を突っ込む。


「圧殺の次は串刺しだ」


 さっきみたいに鈍痛に訴えかける攻撃ではなく、貫通攻撃だ。全ての矢を回転させ、貫通力を上げる。


「くらえ」


「・・・ゥオオオオオオオオオッ!!!!!」


 さっきの眷属から借りたという能力を全開にして使用し、自身も矢の迎撃、回避に出る襲撃者。


 そして永遠にも思える一瞬は過ぎ、その場に襲撃者はボロボロになりながらも生きて立っていた。


「・・・ハァっ、ハァっ。この程度!」


「あっそ。それじゃお疲れさん」


 そして俺は一瞬で襲撃者に接近し、刀で心臓を貫く。


「・・・ごふっ」


 口から血を吹き出す襲撃者。


「どうやら物理攻撃に対してはその主様から借りたって能力は発動しないみたいだな」


「・・・くそ!」


 どうにか反撃しようと短剣を持って俺に斬りかかるが、俺は腹を蹴り、刀を一気に引き抜き、襲撃者の短剣による攻撃を回避する。そして再び刀の射程圏内に接近し、俺は二本の刀で襲撃者を袈裟斬りにした。


「・・・がァ!」


 そしてその場に倒れる襲撃者。


「・・・なんだ。よく見ると本当に男か女か分からないな。ちょっと後味悪いかも」


 近くに行って死んでいるか確認する。


「・・・く、くそぅ」


「なんだ。まだ生きていたか」


「・・・ここまでで見て来た戦い方と、ち、違う」


「当たり前だろ。眷属共が関与していると分かった時点でそんな手加減とか遊びの部分は一切なしだ」


 俺は冷淡な目で襲撃者を見下しながら言う。


「それに俺の仲間を狙ったんだ。俺が怒らないとでも思わなかったのか?」


「・・・ち、ちくしょう」


 痛みに耐えながらも悔しそうにする襲撃者。


「・・・だ、だが。これでこちらの目的は達成した」


「―――っ!足止めか!」


 俺は襲撃者の言葉でその意味を悟る。


 俺は振り返り、実際に俺が人を殺している場面に初めて遭遇してかなり動揺している樹里とミッキー先生を視界に捉える。だが、今は樹里達に話をしている時間はない。


「皆!急ぐぞ!」


 そして俺はアメーシャ達の元へと走り出した。




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