第33掌 ただいまのんびり移動中
フェルゲン編開始です!
今回は一体何話あるんでしょうか。作者もドキドキです。
それではどうぞ!
パカパカと馬の歩く音を聞きながら俺達三人は馬車の中で座っていた。
「楽だな」
「ああ。楽だ」
「楽ですね」
俺の呟きに二人が同意する。
「ラッキーだったな」
「ああ。おかげでフェルゲンまで疲れることもなく行ける」
「私のレベルアップにもなりましたし」
何故、俺達が徒歩ではなく、馬車に揺られて移動しているかというと。時間は三時間ほど前まで戻る。
・・・
「これで二度目になるけど、徒歩ってキツイな」
「ああ。本来は自前の馬車や町を移動する商隊にくっついて行かせてもらうとかで行くからな」
「私たちには馬車を買うほどのお金もないですし、商隊に伝手もないですからね」
出発してから一時間。荷物は三人分だし、なかなかの量だ。重たい重たい。
「なんかいい感じに商隊とかがいないかな~」
なんて俺が呟いていると前方でこちらに来る馬車が。
「お。マジで来た!」
「いやいや。ベルルクに向かってる馬車だろ。フェルゲンに向かっている俺達は乗せてもらうことが出来ないやつだ」
確かにな~。そんなにうまいこといかないよな~。
ん?
なんか、あの馬車。様子がおかしくないか?
「だ、誰か助けてくれー!」
馬車からそんな叫び声が聞こえてくる。よくよく見れば馬も出せるスピードのうちで本気で走ってない?
「あれ、モンスターに襲われているぞ」
ダンガがそう言って駆けだす。
「ダンガ、待ってくれ!」
「なぜ⁉」
「ここはリリアスに任せてみよう」
ここのところ準備に忙しくてリリアスがどのくらい強くなったのか分からないからな。それにこの三人の中で圧倒的にリリアスのレベルが低いんだ。こういうあまり危険がない時に戦わせないと。
「・・・・。分かった。危なくなったら俺も助けに入るからな」
「ああ。リリアス、いけるか?」
「はい!見ていてください!」
そう言ってリリアスが荷物を置いて駆けだしていった。
「せい、やあああ!」
スピードに乗った状態でロッドを振りぬく。あれ、魔法媒体でしょ?よく壊れないな。
「あれは、俺の特製だからな。この準備期間で頑丈に改造しておいたのさ」
俺の考えていることを読んだのか、答えてくれるダンガ。そんなに分かりやすい顔してたか?
「ふっ!」
そんな俺達を尻目にリリアスは次々にモンスターを倒していく。
「あれはなんてモンスターなんだ?」
ビジュアルが若干可愛らしいんだけど。やられている姿を見ると可哀想に見えるんだけど。
「あれはピッグタートルだ。真っ直ぐ走ってスピードを出し、敵に当たる瞬間に背中の甲羅の中に入って硬い甲羅部分で体当たりするっていう面倒なモンスターだ。攻撃中はこっちの攻撃がなかなか決まらないんだよ」
ピッグっていうかそれ、イノシシじゃん。見た目豚なのに特性はイノシシかよ。・・・・・っていうかあれ。
「リリアス、めっちゃ攻撃しているけど・・・」
「あれはリリアスが上手いんだよ。いい感じに甲羅の中をロッドで突いている」
なに?そんなにリリアスは技巧派だったの⁉
俺がリリアスの新しい一面に驚いているとリリアスがぴっぐタートルを殲滅して帰ってきた。馬車に乗っていた人も唖然としている。まあ、リリアスみたいな子が自分を襲ったモンスターをあっさり倒したらそうなるわな。
「終わりました!」
「お、おう」
「お疲れだったな」
俺は若干動揺していたが、そこは見逃してください。この世界に来てから驚きの連続なんです。
「ど、どなたか知りませんが助かりました」
「いえいえ、気にしないでください。あのままだとこっちにも攻撃してきたと思いますし」
こういうのには俺が対応した方がいいな。日本育ちの俺に死角はないぜ。
「そう言っていただけると有難いです。実は私共はフェルゲンに向かっていたのですが、途中であのピッグタートルの集団に襲われまして。ここからだとベルルクの方が近かったので引き返してきたんです」
「そうだったんですか」
「はい。しかし、そちらのお嬢さんのおかげで期限までにフェルゲンに行けそうです。ありがとうございます」
期限?納期か何かだろうか?
「いえいえ。こちらとしても経験値の足しになりましたので」
「そうですか。それはよかった。それでお礼がしたいのですが、何かご要望などはありませんか?」
その問いかけに俺は思いっきり食いついた。
「本当ですか⁉それじゃあ、フェルゲンまで馬車に乗せてもらえませんか?」
まさに渡りに船。
「ええ。それくらいでしたら喜んで。ですがいいのですか?その程度のことで」
「ええ。俺達には馬車の伝手がなかったのでフェルゲンまで徒歩移動だったんです。ここまでも徒歩だったので少々疲れていまして」
「そうだったのですか」
「ええ。なのでこれを機会にあなたと是非知り合いになっておきたく」
「なるほど」
俺と商人とのやり取りを聞いてリリアスとダンガは目を白黒している。いや、リリアスは分かるけど、ダンガはこのくらいのことは冒険者時代にあっただろ。
後々聞いたのだが、ダンガはそういう頭を使うことは他のパーティーメンバーに任せていたらしい。おいおい。
「分かりました。それではどうぞこちらへお乗りください」
その言葉を聞いて俺達三人は馬車に乗り込んだ。
最後に馬車に乗り込もうとした俺が乗る前に大切なことを思い出した。
「肝心なことを忘れていました。あなたの名前は?」
「おお。私としたことが。バエルと申します」
「バエルさんね。俺はタカキ。ピッグタートルを倒したのがリリアスで、デカいおっさんがダンガだ」
「よろしくお願いします」
「ああ」
それだけ言うと俺は馬車に入った。それからはただただ馬車に揺られるだけだ。
・・・
ということでここまでが回想だ。
さて、のんびりするのはここまでにしてっと。
「今後のことについて話し合うか」
俺はそう言って二人に話しかけた。
読んでくれて感謝です。




