第321掌 個人情報の有無って印象を変えるよね
素材を持って長達の元へと帰った使者を待つこと数時間。使者は一枚の紙を持って泣きながら帰って来た。
「え、やだ。なんで泣いて戻って来てんの?」
俺の容赦のない言葉が使者を襲う。
「ちょっと!なんてこと言うのよ!デリカシーってもんがないの⁉」
樹里が急に使者を庇うようなセリフを俺に向けて言う。
「いや、だって・・・」
「孝希君。私もさっきの言葉はダメだと思います」
「ミッキー先生まで・・・」
なんなの?カリーナさんとアメーシャは特になんとも思っていないようだが。どうやら日本で生まれ育ったからこその気遣いってやつなのかもしれない。
「だってさっきまで散々俺達のことを言っていた奴が泣きながら戻って来たんだぞ⁉怒るとかそういうのはともかく、「何やってんだ、コイツ」感が半端ないよ⁉」
「あーもう!私が何があったか聞くからあなた達はそっちで静かに聞いてなさい!」
アメーシャがグダグダしていた俺達に一喝してから使者の元へと歩いて行く。
「どうしたの?」
「み、見苦しいところを、み、みせてし、しまいました。もうしわ、けございません」
所々言葉に詰まりながらアメーシャに謝罪する使者。
「いいから。どうして泣いていたの?」
「私が証拠品を持ち帰ると長達が罵詈雑言を浴びせて来て・・・。「こんな簡単な仕事すら出来ないのか!ミクスがいないと何も出来ない甘ちゃんがっ!」って」
「ん?あなた、ミクスの知り合いか何かなの?」
「あ、はい。ミクスは私の従兄なんです」
「へぇ~。知らなかった。ミクスに年の近い親戚がいたのね」
「無理もありません。私が生まれたのはアメーシャ様が出ていかれた後だったので」
あれ?なんか、年下キャラだって分かっただけで今日のことが全部強がりみたいで可愛く見えて―――――
「なにこっち見ているんですか。気持ち悪い。下等生物に上位存在である私を直視出来る権利があるわけがないじゃないですか」
―――――見えないな。普通にただただムカつく。ムカつく大人がムカつく子供に変化しただけだ。
「っていうか、さっきの使者ちゃんの言葉から察するに、アメーシャさんってかなりの年齢ってわけよね。少なくとも私達よりはかなり年上って確定した」
「小声で何てこと俺に囁いて来てんだ、お前は」
っていうか、樹里。お前年齢、少なくとも精神年齢が思ったより下だったことが分かった瞬間に使者にちゃん付けかよ。
「何か不穏な雰囲気を感じ取ったのだけど?」
「な、何でもないよよよよ?」
「そ、そそそそうそう!とにかく俺達じゃ素直に話してくれなさそうだし、頼むよ!」
樹里と俺はアメーシャのその鋭敏過ぎる感覚に恐れ慄く。
「・・・」
そんな様子を無言で見つめる使者。
「あっ。ご、ごめんなさい。それで?他には何かされなかった?」
「いえ。ただ、依頼の未達成を言い渡せなかったお前は新しい依頼内容を渡すこの仕事が終わり次第解雇だって。それにミクス兄さんがいなくなった件の罰もついでにお前に被せて里の民達のご機嫌を取るって」
「聞けば聞くほどクズ共だな」
俺は聞いてるだけでもイラッと来る。
「でも、最後だとしても与えられた仕事だから。最後までやり切らなくちゃって思って・・・悲しいし、悔しかったけど、頑張ってここまで来たの」
「そう。よく我慢してここまで来てくれたわね。偉いわ」
長達からしたらこのまま悔しさのあまり依頼内容が書かれた紙を持って自分の家に引きこもったり、どこかに消えて欲しかったのだろう。そうしたら俺達は何を達成したらいいのかも分からずその場でゲームオーバーって寸法だ。一々考え方がゲスだなぁ。
「しかし、アメーシャさん。ああしていると年の功がにじみ出て来ているかのようですね」
「確かに。それを普段の生活とか俺達とのコミュニケーションで使って欲しいものだ」
っていうか、ミッキー先生までもがなんで俺にコッソリと話しかけてくるの?一々俺を巻き込まないと気が済まないの、皆?
「・・・まあいいわ。今はそんな空気じゃないし、黙って放置しておいてあげる」
アメーシャも感じ取っているのだが、目の前で落ち込んでいる使者に気を遣って俺達に怒って来たりはしない。
「とにかく、今は楽になりましょう?さあ、依頼内容を教えて?」
「ぐすっ。・・・はい」
そしてついに第三依頼の内容が明らかになる。
①我らが聖域に生息している謎の主を討伐せよ。
②聖域の手入れ出来ていない。手入れしてキレイにせよ。
③聖域に生息している主以外の魔物等の生物を全て討伐せよ。
「第三依頼、数自体は少ないな」
「代わりに内容があまり見えてこないものばかりですけど・・・」
俺の感想にカリーナさんが不安そうに呟く。
「まあ、これを読むだけでもアメーシャの予想が当たったって分かるから幾分かはマシだろう」
「そうね。これで私の予想とは全く違ったらもう目も当てられなかったわ。それに私に予想される所まで見越していたのならちょっとだけ私の中での長達の評価を上方修正しておくわ。仕事が出来るかどうかっていう評価項目の」
「上方修正されるのが限定的な時点でお察しだよ・・・」
樹里はアメーシャの言葉にぐったりと力の抜けた言葉を呟いた。
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