第319掌 新しい仲介役
結局、俺達が起きている間には誰もやって来ず、長達の使者がやって来たのは夕方になった頃だった。
「アメーシャ様、お待たせしました」
「本当に待ったわ。いつまで待たせるのかってイライラしてね」
言葉のトゲを隠すことなくやって来た使者に浴びせるアメーシャ。使者は女性でちょっと厳しめのツリ目をしている。
「申し訳ございません。長達も今は消えたミクスの消息を追うのに忙しく、同胞が消えたとあって里の者達も騒がしいのです。その対応にも追われてしまい、外から来たただの人間などに気を回す余裕がありません」
こいつ、アメーシャには対することには特に何もないけど、俺達には刺さるトゲのある言葉を言ってくる。
「そう。まあ、いいわ。精々タカキ達を過小評価していなさい。後で後悔しても知らないんだから」
「?はあ、そうですね」
よく分からないという表情の使者。
「それで?第二依頼は達成でしょ?」
「それが、ミクスが素材ごと消息を絶ったようでして、依頼を達成したという証拠が残っていないのです」
「「「「はい?」」」」
俺を除く全員が固まる。
でも、俺はなんとなく最悪の場合にはそうなっているかもな~、なんて考えてはいた。だって、俺達が素材を渡してから消えたんでしょ?そりゃ持ち逃げしている可能性は十分にあるでしょ。
「そ、それじゃあ第二依頼は・・・」
「もちろん、失敗ということになります」
アメーシャの力ない言葉にキッパリと言い放つ使者。
「そんな・・・」
カリーナさんもショックを受けている。まあ、一緒に頑張ったもんな。それが全部なかったことにされたらショックも受けるよ。
「そんなわけで、霊薬の件は諦めていただくのが良いかと」
「いや、そんな簡単に諦めるわけないでしょ」
俺はそこで口を挟む。
「何ですか?」
さらに厳しい視線でこちらを睨んでくる使者。
「第二依頼の品々はそう簡単に集められる物ではありません。なのに一からまたやり直すなんて時間の無駄のようなものです」
「まあ、もう一回取りに行ったら面倒なのは同意するよ」
「では―――」
「でも、ここに同じ素材があればいいわけだよね?」
そう言って俺は異空間に繋がっている収納袋に手を突っ込んで中にあるものを出す。
「ほら。これでいいだろ?」
そして第二依頼で必要な証明品を全て出す。
「―――な」
驚いている使者。
「どうしてまだあるのよ⁉」
アメーシャも驚いている。他の皆もアメーシャと同じ様子だ。
「まさか、盗まれたりする可能性を考えて余分に採っていたの⁉」
樹里が俺の株を持ち上げてくる。
「いや、そんなわけないだろ。俺だって持ち逃げされるなんて思ってもみなかったっての」
ただ、行方不明って聞いてその可能性もあるかもって考えただけで。
「じゃあ、なんであるんですか?」
カリーナさんが不思議そうに聞いてくる。
「いや、ちょっとお土産にしようかなって多めに採っておいたんだよね」
「「「「「・・・お土産?」」」」」
使者の人まで混ざってハモったな。
「いや、魔物の素材はダンガのお土産になるかもしれないって思ったし、リリアスやアメリアのお土産に薬草とかそういうのもいいかもって思ったんだよ。この里って来ようと思っても簡単に来れる所じゃないんだろ?」
「ま、まあそうだけど」
アメーシャは面食らっているようだ。まさかお土産なんて軽い気持ちで余分に採集しておいたものに救われるなんて思ってもみなかったのだろう。俺だって毎回毎回的確に物事を察知することは出来ないんだよ。
っていっても心の片隅ではちょっとだけ思っていたことはある。それは長達がネコババして足りないとか言って来るかもっていう考えだ。そんなことを言って来たら持っている素材を目の前に突き出してやろうとかはお土産を採集中に思っていたのだ。
「ってわけで、これで問題なしだよな?」
「ぐっ。た、確かに」
まあ、これで問題あるなんて言われたらそっちが責められかねないからな。しかも、俺達は里の人達に対して意外と色々とやって来た。珍しい物を無償で買ってきてあげたり、害のある魔物や魔獣、魔蟲の類を討伐したり、夫婦仲の仲裁をしたり、屋台をやったりと。あ、屋台は俺、最後の方しか手伝ってないからカリーナさん達の手柄なんだけどね。
「それじゃあ、サクッと帰って長達から指示を仰いできてくれ」
「・・・分かりました」
なんか凄い悔しそうだな。俺としてはあそこまで俺達を邪険に扱ったんだから、ざまあみろって気持ちなんだけどな。
「それではすぐに戻ってきますので少々お待ちください」
そう言って俺が出した素材を持って戻っていく使者。
「―――っはぁ。だから嫌なのよ、ここの人達は」
客観的に見てもドン引きなくらい上から目線だからな。一回外に出て平等に人間達と触れ合えば帰って来た時にこの里の異常さがよく分かるのだろう。
一人暮らし中に実家に帰ったら祖母が嫁入りした母親と仲が滅茶苦茶悪いことにようやく気が付いた・・・みたいな?例えが分かりづらいか。ちなみに俺の母親は父親の母親、つまり俺にとっての祖母との仲は良好である。なんか、父親と祖父のダメな所が一緒らしく、愚痴り合っているとか。たまに俺にも「ああはならないでね」って言われるし。
「それじゃあ、あの使者がこっちに来るまでに適当に寛いでおくか」
俺の言葉に頷き、ダラける皆なのだった。
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