第306掌 第一依頼⑤開始 その1
依頼④を達成した俺達は一旦アメーシャの家に戻って来ていた。
「それで、全員が集まったところで改めて最後の依頼について話し合いたい」
全員席に座っている状態で上座で某アニメの指令のようなポーズをとりながら俺はその場にいる全員に問いかけた。
「依頼について話し合いたいって、もう最後の依頼じゃない。それに話し合うような内容?」
「樹里。その発言はいただけない。その発言で君は料理をしたことがない人間であるということが立証されてしまった」
「へ?」
「『里の食事に飽きて来ました。何か刺激的な料理を食べてみたいです』これが依頼⑤だ」
「そうね」
「これ、実際に作るとなったらどうするつもりなんだ?」
「え?」
「いや。俺はこの依頼⑤に関しては君達に任せたじゃん?」
「そうね。女性陣に任せるって」
「で?何かいい料理があるのか?」
「私達の国の料理を出せばいいじゃない」
「で?その俺達の国の料理を樹里は作れるのか?」
「うぐぅっ」
沈んだな・・・。ここで樹里のターンは終了。っていうか戦力外通告を受けた。
「アメーシャは除くとして、他の二人はどうだ?」
「ちょっと!だからなんで私は聞かないのよ⁉」
「里ではずっとお世話されていた巫女様が何言ってんだか」
俺は鼻で笑う。
「わ、私にだって料理くらい!」
「でも、それって里で出てくるような料理じゃダメなんだぞ?そうでなくても料理と言える代物じゃなくちゃいけないんだぞ?「そこらで売っている野菜とか肉とかを焼きました~」なんて、それだけじゃダメなんだぞ?」
「・・・・・・」
はい。沈んだ。
「わ、私は教会で信徒の皆さんがミサにいらっしゃった際に色々な料理を振舞っていました。ただ、しっかりと学んだわけではないので美味しいかどうかは自信ないです。それにレパートリーもそんなにないですし」
「それでもきちんと料理できるだけ凄いよ。今度アメリアに頼んでカリーナさんに料理を作ってもらおうかな?」
「そ、そんな!私の料理はアメリアさんのほどおいしくありませんよ!」
「そんなのは食べる俺が判断するから。気にしない気にしない」
「うぅっ。それは気にしちゃいます・・・」
「いちゃらぶしないでください・・・」
俺とカリーナさんの会話に胸焼けしている様子で止めに入るミッキー先生。
「そういうミッキー先生は料理の方は?」
「わ、私は一人暮らししていましたから多少は・・・。そんなに手が込んでいる料理は作れないんですけど」
「ふむ。これで戦力は二人のみか」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「ん?何だ?どうかしたか?」
戦力確認を済ませるとアメーシャが俺のストップを掛けてきた。
「これだけ私達のことを滅多打ちにしておいて自分はただの味見役になるつもり⁉」
「いや、俺がやって出番を取ったら全部俺におんぶにだっこの状態になるだろ」
「うっ」
結局③以外は全部俺が関わっている。
「俺の旅についてきて、ついでに助けるっていうのが最初のスタンスだっただろ?それが完全に俺頼みになってきちゃっているじゃん」
「「うぐ!」」
いや、この里にやって来たのは俺的にも理由はあるからいいんだよ?俺も後々に狙われる原因があるからな。今後ことある毎にハイエルフの襲撃を受けるなんてやってられないし、面倒くさい。もしかしたら俺の関係者に手を出される可能性もあるからな。
「そんなわけで俺は味見役に徹しているの」
「その口ぶりだと作れるみたいに聞こえるけど?」
樹里はニヤリと笑う。弱点を見つけたっ!って表情だ。
「まあ作れるけど・・・」
「じゃあ試しに作ってみなさいよ!納得出来たらもう文句は言わないわ。まあ、この依頼⑤で私達の料理が全滅しちゃったら頼るかもしれないけど。それもあなたが作った料理が美味しかったらだけど」
挑発しているのは分かるけど、ここはその挑発に乗っておくか。
「分かった。それじゃあちょっと待ってろ」
そう言って俺はアメーシャにキッチンを借りて料理を始める。でも、この家に食材は置いていない。ついこの間まで主が留守だったんだから当たり前だけど。
「ま、材料は持っているからいいんだけどね」
異空間に食材を入れているからな。どこでどんなことがあるか分からないからある程度は入れているんだ。これで旅先での野宿も出来るようにってね。
いや、一回野宿をやってもうコリゴリなんだけどね。あの苦しみをもう味わいたくないからな。
「~♪」
サクサクサク。トントントン。カチャカチャ。ジュッ。ボゥッ。シャアアア。(料理音)
「ほい。完成」
「これは?」
アメーシャが不思議そうな表情で俺の作った料理を見てくる。
「麻婆豆腐」
「まーぼーどーふ?」
「いや、肉とかはエルフとかハイエルフは嫌がりそうだと思って、主役が肉じゃない料理を作ってみた」
これなら肉を抜いても全然いいし。豆腐がメインだからな。
「召し上がれ。辛さは初めて食べるっていうのもあってピリ辛程度にしてあるから」
「っていうか、どこから材料出したのよ・・・」
樹里がジト目で見てくる。
「企業秘密」
「あんまり何度も不思議なことを見せられると気になって仕方ないんだけど?」
「スルー」
「話すのがそこまで嫌か」
俺の強さ云々もあるけど、俺が原因でクラスメイト達がこの世界に連れて来られたっていうのもあるからな。巻き込まれてしまったからこそ地球から転移してしまったクラスメイト達は仲間にせずにこの世界を楽しんでいてもらいたい。もちろん、この世界で何をするか、それに伴う責任云々は当人の物だけど。
「それじゃあ召し上がれ」
皆が俺の料理を口にした。
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