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第293掌 巫女は教祖様ってことだね



「巫女?」


 俺はそんな面倒事の塊のような単語を聞いて苦虫を噛み潰したような表情になる。


「あー。これは何というか、そのー・・・ミクス!なんであなたがここにいるのよ!」


 アメーシャも誰かがいることには気が付いていたが、流石に誰かまでは分かっていなかったらしい。どうやらハイエルフの里の中でも距離の近い関係の人物なのだろう。


「そんな言い方はないでしょう、アメーシャ様。これでもあなたがいない間、代わりに出来ることは全て私がやって来たんですよ?」


「うっ。それは、悪いと思っているけど」


「それはそうと。そのお連れの方々は誰ですか?」


 そう言って視線を俺達に向けてくるミクスというらしいハイエルフの青年。


「私の友人よ。今回はあるものが必要になって私を頼って来たの。それで力を貸そうと思ってね」


 頼ってなどいないのだが・・・。でも、ここで否定すると話がこじれそうだし、黙ってアメーシャに任せておこう。


「ふむ。しかし、見たところヒューマン種のようですが?」


「何?私がヒューマンの友人を持っちゃいけないっていうの?」


「いえいえ。滅相もない。アメーシャ様を連れて帰って来てくれたのです。私としては感謝しかありませんよ」


「そう。それなら良かったわ」


 何だろう。エルフの上位種って聞いてどんな自意識の塊が出てくるのかと身構えていたらそうでもないな。普通だ。アメーシャと同じ類の変わったハイエルフなのかもしれない。


 俺はそう考え始めていたが、ふと思い出す。


 それは俺がこじ開けた空間のすぐ近くに一人だけこのミクスという青年がいたことを。


「それでは詳しい話は後で聞くとして、まずは里に戻りましょう」


「ミクス!ちょっと待ちなさい!」


 里に入ると聞いて慌てるアメーシャ。


「何でしょう?」


「流石に友人達をこのまま里に入れるのは面倒事にしかならないわ。あなたみたいに私の言葉をそのまま信じてくれる人ばかりではないもの」


「確かにそうですね。アメーシャ様を騙して何かよからぬことをしようとしている!って考える人もいるでしょう」


「だから、一つ考えがあるの」


「何でしょう」


 あ、なんか嫌な予感。


「友人達には悪いけど、ここでは私のお世話役をするために私が連れて来た使用人ってことにしようと思うの」


「なるほど。それなら里にも入りやすいですし、アメーシャ様をお世話した褒美としてそのあるものとやらを渡すことも可能にしやすいですね」


「そういうこと。だからミクスには話を合わせて欲しいの。友人達にはそこら辺は頼んでいるから問題ないわ」


 いや、頼まれていないし、了承していないんだが。皆状況が状況だけに黙って表情も変えていないけど。


「分かりました。任せてください。では、私は先に里に行ってアメーシャ様が帰ってきたことと、ご友人の方々のことを伝えて来ます。最初に私から伝えていた方がいいでしょうしね」


「そうね。任せるわ」


 そうしてミクスは里があるだろう方向へと走っていった。


「さてと」


 俺はそこでようやく口を開く。


「アメーシャ。説明してくれるんだろうな?」


「うぐっ。・・・はい」


 そしてアメーシャは申し訳なさそうに話し出す。


「私は世界樹の巫女とハイエルフの里で呼ばれているの。人間達でいう王族みたいなものね」


「王様ではないの?」


 樹里が王族という少し抽象的な立場に疑問を抱き、質問する。


「ええ。王様は世界樹よ。それをくみ取り、里にいるハイエルフ達ね、ひいては里の外で暮らしているハイエルフやエルフ達に伝えることを生業としているのが巫女である私ってわけなの」


 いや、それって王とかそういうのじゃないよね。どっちかっていうと宗教の神と教祖みたいな感じだよね。


「それで、毎日私は皆に世界樹の意思を伝えるという仕事をしていたのだけれど、ふと気づいたの。毎日毎日同じことの繰り返し!いい加減うんざりし出したの!」


「何だろう。仕事を辞める社会人の理由みたいな感じね。将来、こんな考えを持たないように気をつけようと思うわね」


 樹里は将来の自分への戒めをし出した。まあ、俺にも言えることだけど。


「それで私は考えたわ。どうすれば今の状況から脱出することが出来るのかを。そして思い至ったわ。ここから出ればいいんだと」


 何?その社会の歯車でしかないこの会社から脱出してやるぜ!みたいな思考回路。どーしよーもないな。


「それで外の世界へと旅立ったというわけ」


「どう考えても里は大騒ぎだったでしょうね」


「仕方ないじゃない!世界樹の巫女っていうのは世界樹が選ぶの。なりたくてなったわけじゃないのよ。それに一生を世界樹に捧げるのよ?そんなの嫌過ぎるわ」


「確かにそれは嫌だと思うけど」


 俺もそれには同意する。


「でしょ?それでも流石にあなたが持っているブレスレットは持って行かないとマズいことになると思って持って来たんだけどね」


「まあ、認められたら結婚させられる至宝なんて嫌だわな」


「そもそもそのしきたりも、至宝に認められた者を取り込むために見合うものを差し出すって意味で作られたものだし」


 確かに。ハイエルフの里の中でも最も身分が高いのが巫女なんだろうしな。


「そんなわけで後はあなた達も知っての通りよ」


「なるほど」


 まあ、ハイエルフだからな。その里を出てからの月日がどれだけなのかは問わないでいよう。機嫌を損ないそうだし。


「説明は終わりよ。だから話を合わせてね」


 そしてアメーシャは里に向かって歩き出す。俺達はそれに続いたのだった。




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