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第292掌 注意事項って大切なことだよね



 破いた空間へと入る俺とカリーナさんだが、残りの三人が驚いたままその場を動かない。


「どうした?早く入らないと閉じるぞ?」


 あんまり開けっ放しにしていたらバレる。破いたのは里の端っこの方だと思われる場所だからな。いきなりはバレないかと思うけど、流石にずっと開けっ放しだと魔法のプロフェッショナルだと思われるハイエルフにはバレてしまう。


「いや、「どうした?」じゃないわよ!何てことしてくれてんのよ!」


「え?」


 アメーシャが俺に怒鳴り込んでくる。その拍子に破いた空間の中に入って来ている。


「こんなことして!ハイエルフ全員に宣戦布告したようなものよ⁉」


「バレたらだろ?大丈夫だって。全員が入ったら直すから」


「直すってあなた・・・そんなことが出来るわけが」


「いや、空間魔法の結界を破くことが出来るんだから、それを直すことぐらい出来るだろう」


 そもそもこれから霊薬を貰いに行こうっていうのに宣戦布告してどうするんだよ。強奪するのか?最悪このジョールズ共和国全体が敵に回るぞ。


「そんなの、同じ空間魔法を持っていないと出来るわけが―――ッ!」


 何かに気が付いた様子のアメーシャ。


「まさか、持っているの⁉」


「話すつもりはないって言っただろ?勝手に想像しててくれ」


 そんなやり取りをしている間に焦れたのか、樹里とミッキー先生も入ってくる。


「あ、あのー!流石にこのままだとマズいと思うんですけど・・・」


 ミッキー先生が破れた部分を物珍しそうに見ながら俺達に言ってくる。


「ああ。そうだな。全員入ったことだし、閉じるか」


 俺は破れた空間に手をかざす。そしてそのまま握る動作をする。すると、その破れた空間は握りつぶしたように閉じていった。


「もう何なのよ!」


 アメーシャはハイエルフとしてのキャラを保てなくなり、その場で叫ぶ。


「あ、あはははは・・・」


 そんな様子を見ていたカリーナさんはただただ苦笑いをしながら見ているだけだった。


「と、それよりも。ハイエルフの里には着いたんだし、案内してくれよ」


「分かったわよ!」


 すでに半ばヤケクソ気味になっているのか、涙目で叫ぶアメーシャ。


「悪かったって。だから泣くなよ」


「泣いてないわよ!」


 そう言いながらズンズン歩いて行く。


 俺達が入り込んだ空間は等間隔で木々が生えている場所だ。太陽の光がちょうどいい感じに照らされていて、暖かく、どこかホッとする場所だ。


「しかし、この木一つ一つ、デカくないか?」


 俺は疑問に思ったことを口にする。


 実際に木にしてはデカ過ぎると思う。だって直径数十メートルはあるよ。どこのジ〇リだ!って話だ。


「それはそうよ。ここに生えている木が全部ハイエルフの里の中心で信仰されている世界樹の木の枝を植えて育った木々だもの。全部世界樹の子どもみたいなものよ」


「「「「へぇ~」」」」


 アメーシャ以外の全員が珍しそうに木を眺める。これ全部がねぇー。っていうか、実在するんだ、世界樹って。それじゃあ世界樹の精霊とかもいるかもしれないな!そう考えると途端にテンションが上がってくる。


「しかし、大分精密に場所の計算をしているみたいね。本当に里の結界の中でも端っこの誰もいない場所にいるわ、私達」


 アメーシャはそんな感心した様子で呟く。


「ああ。そこら辺は気を遣った。流石に里のど真ん中にいきなり出て行くわけにもいかないだろ?」


「本当にあなた、何者なのよ・・・」


「それについては何もしゃべりませーん」


 俺はそっぽを向く。


「はぁ。もういいわよ。それよりも、最初に注意事項よ」


 アメーシャは一度立ち止まり、俺達の方を見て厳しい顔つきでそう言って来た。


「まず、変装などは一切禁止。ハイエルフに化けようとしてもダメだからね。ハイエルフは忌み嫌う火系統の魔法以外は大体習得している魔法の祖のようなもの。そんな相手に姿を変えるなんてバカやってるとしか言えないわ」


 まあ、すぐに見破られそうだな。


「それと、火を使うのも厳禁だからね」


「え?それじゃあ料理とはも出来ないと思うんですけど」


 カリーナさんが心配そうにアメーシャの二つ目の注意事項に呟く。


「そもそもハイエルフは火を使った料理などは食さないわ」


「それじゃあ何を食べているの?」


「薬草とか果物とか」


「うへぇ。なんでそこまで徹底しているのよ・・・」


 樹里は自分で聞いたことの答えにうんざりした表情を見せる。


「そうやって生きてきたとしか言えないわ。私は外の世界に出て来てから普通の食事もしているからもうこの里の料理じゃ満足できないけどね」


「他の注意事項は?」


 俺は先を促す。


「うん。それはね―――」


 アメーシャがそう言って三つ目の注意事項を話そうとした瞬間に険しい表情になって少し離れた木を睨みつけた。


「アメーシャさん?」


 ミッキー先生が心配そうにアメーシャに声を掛ける。


 分からないのはどうやら樹里とミッキー先生だけのようだな。俺もアメーシャが険しい表情になった理由も分かるし、カリーナさんも分かるみたいだ。流石は元暗殺者。そっちの系統のスキルとかは中々のものだ。


「そこにいるのは分かってるわ。出て来なさい!」


 アメーシャがそう言うと、一人の青年が木の陰から出て来た。


「おかえりなさいませ。巫女アメーシャ様」


 そして青年は唐突にそう言葉にするのだった。




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