第272掌 オープンして油断
扉を守っていた兵士を全員倒すことに成功した俺達はその場で一息つく。
「増援はなさそうだな」
「はい」
俺の呟きに答えるサーラ姫。ついでに増援がないことを確認してから全員に掛けていた姿を消す魔法を解除しておく。いくら俺が凄まじい量のMPを持っているとしても無限ってわけじゃないからな。出来るところで節約しておかないと。
「しかし、この城に入った時から思ってたけど、城内に人が少な過ぎないか?」
まったくいないわけではない。それなりの人数はいた。しかし、ここでドンパチやらかしているのに誰も様子を見に来ない。防音を風魔法でしていたけど、それでも何人かはここを通りかかってもおかしくはないはずだ。なんせ、ここには数十人も兵士がいたんだから。
でも、そんな様子は一切なかった。
「まるでここを避けているようだ」
俺はそんな感想を抱いた。しかし、その感想も的外れではないのかもしれない。
「まあ、今はそんなこと考えていても仕方ないか」
「いつまで独り言を言ってるの?行くわよ!」
アメーシャがいつの間にか一番前に出て扉の前にいた。
「ここから先にこの国が秘密にしているものがあるのね」
「まあ、少なくとも他国の人間は知らないものがあるだろうな」
アメーシャが無駄にワクワクしている。
「それじゃ、行くわよ!」
「ちょっ⁉」
アメーシャは俺が止める間もなく扉を開いた。
「放てっ‼」
そして次の瞬間、目の前を覆ったのは視界を埋め尽くさんばかりの攻撃魔法の数々。
「このっ!」
俺は強引にアメーシャと位置を入れ替わり、一番俺の防御方法で発動が速いMP操作による魔力の壁を作り出してそれらの攻撃から自分達の身を守る。
「な、何っ?何なの⁉」
アメーシャはいきなりのことに動揺を隠せない。
「馬鹿野郎!扉の向こうに何かあるかの警戒ぐらいしておけ!普通は一番強い俺が先頭で対処する場面なんだよ!」
まさか侵入者であるアメーシャが無警戒に警護していた扉を開けるとは思いもしなかった。そのせいで俺も一瞬反応が遅れてしまった。でも、何とか間に合ってよかった。
「ご、ごめんなさい・・・」
他の四人は俺がアメーシャに言ったことが最初から分かっていたのか、俺の後ろに最初から位置取っていた。まったく。確かに他の四人は冒険者やそれに似たことをしていたからそういった警戒などもして当然かもしれない。サーラ姫も俺と一緒に行ったダンジョンから勉強していたのか俺の言葉にウンウンと頷いているし。
しかし、それでもエルフであり、この国のことを一番分かっているはずのアメーシャがやらかすとは思っていなかった。
「一番警戒していてもおかしくないアメーシャさんがどうしてこんな軽率な行動をしたんですか?」
カリーナさんがもっともなことを質問する。
「実は、私はこの国の出身ではあるんだけど、この首都に来たことがほとんどないの。自分の村から出たことが無くて・・・」
そう言えば、そんなことを最初に出会った時に言っていたな。でも、そういう話は後でもいいんじゃないかな?俺、今も扉の向こうにいた数十人ものエルフの魔法を防いでいる真っ最中なんだけど。俺の実力を知らない樹里とミッキー先生が大丈夫なのかと心配してくれるレベルでの猛攻なんですよ?
「そうだったんですか。でも、それでも旅してきたことには変わりありません。自分の国だからと油断はしないように。特に今回はアメーシャさんの我が儘で私達について来たんですから」
「はい・・・」
「カリーナさん、なんかお姉さんみたいでカッコイイね」
樹里がそんな感想を言う。
「あ、私ごときが説教なんて、ごめんなさい!でも、タカキさんに迷惑が掛かるので最初にやらかした時に注意しないとって思ったんです」
本当にええ子やわ~。こんな子に好かれていると思うと凄い嬉しくなるわ~。
「さて。カリーナさんにホッコリするのは程々にして・・・っと」
俺は魔力に指向性を与えて相手の放っている魔法を誘導する。イメージとしては池からホースで水を自分の望む方向に放水する感じ。
すると、思った通り。こちらに放っていた攻撃魔法の数々は俺達の前でグルンと方向転換して放った相手に戻って行った。
「なっ⁉」
「どういうことだ⁉」
「ひぃ!」
「ぎゃー‼」
等々。魔法の中に火属性が混ざっていた所為で煙が舞い上がって相手の姿が見えないが、上手く直撃したようだ。でも念のために追撃しておこう。
俺は風雷魔法の電撃を前方に放つ。すると短い悲鳴の後、何も反応が返ってこなくなった。
「あちゃー。ちょっと威力が強過ぎたかな?」
煙が晴れた先にはプスプスと焦げたエルフ達がいた。死んではいないっぽいが、大丈夫だろうか?ここでアメリアがいたら「自分でやっておいて何を心配してんのよ」とツッコまれそうだ。
「ま、これで先に進めるだろう。今度こそ、俺が先頭で行くからな?」
アメーシャに確認を取る。俺の言葉にアメーシャはただ頷くだけだ。
「よし」
そして焦げたエルフ達をまたいで進む。少し歩くと下へと続くかなり横幅が広いらせん階段があった。
それを黙々と降りていく。
何分が経っただろうか?もしかしたら数十分は降りていたのかもしれない。俺達はようやく最下層に到着した。目の前には最初の扉と同じくらいの大きな扉。
それを開くとそこには―――
「・・・マジかよ」
地上の森とレンガの建物が軒を連ねる街とは正反対とも言える鉄の街が広がっていた。
読んでくれて感謝です。
感想・評価・ブックマークをしてくれると嬉しいです
よろしくお願いします!




