番外① リリアスの学園生活 11
ギムル君を置いてやって来たのは学園の中でも一番端っこに位置している訓練場である。ここは遠くてあまり人が利用しない上、使用時間も距離の問題で短くなるという理由で人気がない。
「でも、ここなら周りを気にせずに出来るでしょ?」
「うん」
キャシーの言う通り、今も訓練場には誰もいない。
「それにいたとしても気にしなくてもいいわ。ここで訓練しているってことはあまり人に知られたくない練習とかをしている時だけだろうし」
まあ、そんな知られたくない人がわざわざ他の人に声を掛けたりはしないだろうということだ。
「さて。それじゃあ始めましょうか。時間は大丈夫?仲間の人達には遅れて帰ることとか伝えてる?」
「大丈夫。いざとなったらリアに伝言を頼むし、学園に行ってるなら皆も心配しないはずだから」
「そう。それじゃあ大丈夫そうね。始めましょう」
そしてキャシー先生の水魔法収得講座が始まります。
「まず、水のイメージってリリアスはどんな感じ?」
「イメージ?」
「そう。自分が持っている水のイメージ。特にどこかから出ている水のイメージがいいと思うわ」
そのアドバイスに従って私はイメージする。っていっても村だと共有の井戸を使っていたし、どこかから出ているイメージ・・・。
「思い浮かんだ?」
「・・・うん」
私のイメージはタカキさんが使っていた水魔法だ。あまり使っているところを見たことはないけど、野宿する時などに使っていた。そう。お風呂だ。タカキさんは一日に一回必ずお風呂に入る。私としても体は綺麗にしておきたいのでタカキさんの「一日一回は必ずお風呂に入る」というルールのようなものは大変ありがたい。おかげで私達もタカキさんの習慣に倣って毎日を清潔に過ごしている。
他にも事あるごとに便利な生活魔法を使うが如く水魔法を衛生面で使用しているのを近くで見ていたのでそれがかなり私の中で強く印象付けられている。
冒険者をしているとそういう衛生面は食事などの体調を左右する面しか気にしない、節約しているといった感じであるが、タカキさんはそういうことは一切関係なく、綺麗な状態になるように気をつけている。聞く話によるとタカキさんの世界では普通の事、常識なんだとか。そんな世界、正直窮屈じゃないかと心の片隅で思ったりもしたけど・・・でも女の子として常に綺麗な状態でいられるのは嬉しい限りである。
「それじゃあ、私がまずは水魔法を使ってみるから。よく見ててね。特に魔力の動きとかには注目しててよ?」
「うん」
キャシーが魔力を手のひらに集め出す。
「『水よ、水よ、水よ 我が求めにより来たれ。――――――』」
それから少しの詠唱を挟み、キャシーの魔法が発動する。
「『水の矢』」
キャシーのかざした手のひらの先に水で出来た矢が生成される。これはよくタカキさんが人相手にとか、数が多い時によく使う炎の矢の水バージョンだ。見た感じ、キャシーは一つを維持するので精一杯みたいだけど。
「これを自分の魔力で操作しながら発射させるの。こんな感じでっ!」
そう言って訓練場の壁に向けてキャシーは水の矢を放った。
「普通は真っ直ぐに発射させるだけで精一杯なんだけど、たまに天才というか、化け物じみた人がいるわ。複数の魔法を掃射中に自由自在に操作しながら目標物に当てる・・・なんてことをやってのける人がね」
「・・・」
す、すみません。一人だけ心当たりがあります!言わずもがなですけど!
「まあ、そういう人の魔法はあまり参考にはしないようにね?」
「え?どうして?」
「出来もしないのにマネをしても仕方ないでしょ?そんな化け物が手取り足取り教えてくれるなら別かもしれないけど」
「・・・」
す、すみません。頼んだら普通に教えてくれそうです!ここでそんなことは言えないですけど!
「それじゃあ、リリアス。まずはマネでいいから試しにやってみて」
「は、はい」
私はキャシーが言った詠唱を唱えながら魔力を集中させる。
「『水の矢』」
そして詠唱が完成し、魔力をコントロールして収束した魔力を打ち出す。
「「・・・」」
しかし、発射されるのは何の属性にも変換されていない魔力弾であって、間違っても『水の矢』ではない。
「やっぱり最初からそんなに上手いこといかないかぁ」
「いやいやいやっ!」
キャシーが慌てた様子で私にストップをかける。
「むしろさっきのどうやったの⁉」
「え?」
タカキさんもよくやってるし、基本的には魔力の収束と方向性さえ与えることが出来たら簡単に出来るって教えてもらったんだけど・・・何かおかしかったかな?
「私、戦闘面で魔法は使えないからってこれを教えてもらったんだけど・・・」
まあ、遠距離の攻撃なら私のアメハバヤで放つ矢の方が威力は高いから使わなかったんだけど。
「あんな芸当、魔力操作が天才的な人にしか出来ないわよ!」
「え?そうなの?」
そう言えば、タカキさんもスキルでやっていたし、スキルなしでやるのは確かに天才かも。
「でも、属性変換した方が威力とか利便性はいいでしょ?」
「うぐ。でも、すごいものはすごいの!」
「は、はい」
「とにかく!後は変換させることが出来たらいいだけだし、思ってたより簡単かもしれないわ。この調子でいくわよ!」
「はい!」
私はすっかり普段使っている敬語になりながらキャシーの言葉に返事を返すのだった。
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