第246掌 お姫様の冒険者デビュー その3
俺が植物園に動きやすい女性服を持って戻ってくるとそこには何故が疲れた顔のカレン姫が俺を可哀想な人でも見るかのような目で見てきた。
「な、なんですか?その視線、かなり気になるんですけど・・・」
「いえ・・・。ただ、これから大変面倒なことになるだろうなぁと思っただけです」
よく分からないことを言う。一体どうしたんだ?
俺が訝しげにしていると、植物園の奥から駆け音が聞こえてきた。どうやら何かがこちらに向かって来ているらしい。意外にもこの植物園は広いからまだ何がこっちに来るのかよく分かっていないけど。
「なんだ?こっちに来てるけど」
「あぁ。もうダメですか・・・。どうにか誤魔化そうと縛っていたのに・・・」
「うん?」
どういうことだろうか?結構不穏な単語がカレン姫から出ていたけど。
「すぐに分かります。色々と・・・ね」
え?え?なんなの?その思わせぶりな感じ、ちょっと怖いんだけど!
「しぃぃぃしょぉぉぉおおっ!」
「え?」
何?この面倒事の気配。
「ご愁傷様です・・・」
「その言葉の意味はっ⁉」
言葉だけを残し、そそくさとその場から離脱するカレン姫。そして奥からはその声の正体が迫ってきていた。っていうか、止まるつもりはないのか、加速を続けている。
これ、俺が避けたら大惨事だよね?
「ししょー!!!!」
「ぐふぅっ!!?」
結構な勢いだったので、軽くくの字になってしまう。
戦闘時なら全く効かないけど、その状態で突撃されたら逆にぶつかってきた方が壁に激突したような状態になってしまうだろう。
「あー」
カレン姫がやはりこうなったかと言いたげな表情をする。
「その顔はいいからこの人離すの手伝ってくれない⁉」
俺のお腹に抱きつき、離れようとしないサーラ姫。
「そもそもなんなの⁉」
俺は根本的なことを問いかける。
「あなたのせいでもあるんですよ?」
「俺?」
カレン姫が話し始める。
「あなたが服を取りに行った後、お姉様が叫びました。『ししょー!!』と」
「はい?」
そもそも何でそうなったんだ?
「あなたの疑問はよく理解できます。大方、あなたの説教に感銘を受けたのでしょう。お姉様は私以外の方から叱られたことなどありませんから。お父様すら叔母のこともあって誰かを叱ることに疲れていましたし。ストレスであんなにふっくらとしてしまって・・・。昔は恰好良かったのに」
あー。プリマ姫ね。ちょっとだけ更生させたから前よりはマシになっているはず。あの神は柄にもなく忙しそうだからちょっと心配ではあるけど・・・。
っていうか、あの皇帝、格好良かったの⁉まあでも、あの体付きと不憫さがキャラ立てているからあの可哀想な皇帝も今更手放せないよね。
「まあ、大まかに言って、俺に懐いたと?」
「そうなりますね」
「ししょー」
カレン姫と話している間にもサーラ姫は猫のようにゴロゴロと俺の胸に頬を擦りつけている。
「その『ししょー』ってのはなんなんだよ?」
「ししょーはししょーです!冒険者として尊敬しました。どうか私を弟子にしてください!」
「キャラ、変わってない?」
「そんなことはありませんよ?」
ニッコリと笑うサーラ姫。
俺も段々と敬語を使うことがアホらしくなってきた。途中から完全に敬語が抜けてしまっているし。
「そんなことより、早く行きましょう?ししょーの言うことはきちんと聞きますから」
コロコロと話を変えていくサーラ姫。まあ、弟子云々の話は恐らく分かっているのだろう。俺に答えを聞いたら即却下されて師匠とか弟子のことが終わってしまうことに。まあ、始まってもないんだけどね?
「弟子はちゃんと発音するのに師匠の時だけ『ししょー』になるね。意味分かって使ってる?」
ついつい馬鹿にしたように聞いてしまう。でも、普通は弟子が分かっていたら師匠の意味も分かるよね。
「そんなの分かっています!ししょーは私の知らないことを色々と教えてくれる先生です」
「お。分かってるじゃん」
詳しいことを言い出したらキリがないし、俺も上手くは言えないけど、先生の上位版みたいな感じではあるよね。
「それで弟子はししょーの言うことを何でも聞く代わりに教えてもらう者のことです」
「なんか微妙に違う!」
なんだよ、師匠の言うことは何でも聞くって!ただの召使いとか奴隷と一緒じゃねぇか!発音が怪しい方は意味をしっかり理解しているのに、発音が出来る方が内容を理解していないってどういうことだよ。どこでその間違った知識を得たんだ・・・?
「???何かおかしな点が?」
「あ~う~ん。もうそこら辺はそっちの妹に聞いてくれ」
面倒になったので説明を放り出す。
「私ですか⁉」
「後でな。・・・あ。とりあえず、この服に着替えて来てください」
そのまま普通の喋り方で行こうかなとも思ったけど、流石にやめておいた。そもそもここ、城の中なのだ。そんな場所でこの国の姫達にタメ口を聞く。・・・うん、不敬罪で即逮捕だ。
「敬語じゃなくてもいいですよ。さっきの方が違和感ないですし、さっきの感じの後に敬語を使われて変な感じがしますから」
「私はししょーの弟子なのです。そんな者に敬語を使うのはダメです」
仲良く反対されましたね。まあ、こっちもその方が楽だからいいけど。
「そんなことよりも登録です!いつまでここで話しているんですか!」
おおぅ。確かに。丸々一話分をただの駄弁りで終わらせてしまった気がする。あれ?俺は何を言ってるんだろう?
「分かった。だからこの服を二人とも来てくれ。うちの女子のパーティーメンバーが買ってくれたものだ。俺よりはセンスもいいだろうし、大丈夫だろうから着て来てくれ。準備が出来たらすぐに登録に行こう」
その言葉を聞き、サーラ姫はダッシュで更衣室のあるだろう場所まで戻って行き、カレン姫もそれを追うのであった。
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