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第245掌 お姫様の冒険者デビュー その2



「まずは冒険者登録です!」


 この一言の後。物凄い速度で登録のための外出の準備を始めるサーラ姫。


 自分が持っている一番動きやすい服を選び、使用人を呼び出して皇帝に外出することを言伝る。冒険者の俺がいるから大丈夫と護衛は誰も付けさせない。そんな指示と着替えでサーラ姫はドンドン準備を進めていく。


 勿論、着替えの時は俺は違う場所で待ったよ?そもそも植物園の中で着替えるはずもない。着替えの時には姫は移動したので特に何も俺からやらかすことはない。


 そんな話は横に置くとして。


「さあ、準備は出来たわ。行きましょう」


 サーラ姫の準備が完了し、元の植物園に戻ってきた。


 声は平静を保とうとしているが、表情やら雰囲気やらでウキウキしてテンションが高いのが丸分かりである。


 それはそうと・・・。


「その服装で行くんですか?」


 俺はゲンナリした顔でサーラ姫に聞く。


「え?ええ。そうです。これが私が持っている中で一番動きやすく、そして頑丈な服ですから」


 そんなことを平然と言うサーラ姫。しかし、その服装では冒険者というには少し無理がある気がします・・・。


 だって。服のあらゆるところに付いている宝石。煌びやかで豪華絢爛な色合い。下はその姿で動くことに慣れてもいないのにスカートは膝くらいの長さがある。服としての調和を取れているが、それでもこれは酷過ぎる。


 いや、まあこれはリリアスからの受け売りなんだけどね?そもそもスカートを冒険者の女性が穿くとなると、まず選ぶのはミニスカートだ。ミニならともかく、普通のスカートやロングスカートだと足にスカートの裾が当たって気が散るのだそうだ。だけど、ズボンは足の可動域が広い人ほど動きにくい部分が出て来る。だからこそ、女性はスカートを穿くのだそうだ。


「あの、正直に言います」


「はい?」


 俺の言葉にサーラ姫が首を傾げる。


「その服はありえません」


「⁉」


 俺のその言葉に驚くサーラ姫。そしてその後ろでよく言ってくれたと俺にサムズアップするカレン姫。いや、あなた疲れたって言って後の事全部俺に押し付けたでしょ・・・。


 この姫。毎日サーラ姫の我が儘に付き合っているせいなのか、俺が対処してくれると思うや否や、全部を俺に任せて自分は押し黙り出したのだ。


「そんな・・・。これは私が十七歳の誕生日のこの国で一番の作り手が作ってくれた最高峰の物ですよ⁉」


「いや、そんなに目立つ服、すぐに敵に見つかってしまいますし、そもそもそんなに防御力があるとは思えません。それに動きづらいでしょうし」


 俺はツラツラとダメな理由を言っていく。


「そ、そこまで言いますか」


「はい」


「それなら私も言わせていただきます」


「はい?」


「あなたの恰好だって目立つじゃないですか」


 そう言って指摘してきたのは俺の服装だ。


 確かに俺の服は黒を基調とした服だ。確かに人の目には目立つものだろう。しかし。


「これが目立つのは昼間だけです。夜には目立たなくなりますし、これには様々な効果を付与してもらっているので目立つというデメリットを上回るくらいにはメリットがあるんです」


「ですが、それは私の服装も同じことです」


 まあ、そんなことだろうとは思ったよ。付与をしていることは大体予想出来た。お姫様の誕生日のプレゼント。しかも、そのお姫様は冒険好きときた。命を守るという意味でもこの贈り物は周囲から喜ばれただろう。


「ですが、あなたはそれを使いこなせるわけではありませんよね?」


 そもそも付与されているのは大体が自分の身を守るものばかりだ。ダメージ軽減。衝撃軽減。痛覚軽減。斬撃軽減。魔法軽減。毒耐性。等々・・・。まあ、これだけの効果を全部付与しているのだ。それぞれの効力はそれだけ落ちている。それでも上々な作品だけどな。


「むぅ・・・」


「別に本気でダメと言っているわけではありません。今回は私が護衛に付くのですから。ですが、それ以外の時には?あなたはデメリットのあるこの服を着て、効果を最大限に発揮して自分の身を自分で守れますか?」


「そ、それは騎士達の仕事です」


「でも、あなたは冒険がしたいのでしょう?自分の我を通したい。だから妹であるカレン姫すらも巻き込み、命の危険があるにも関わらずに勝手に外に出て、暗殺者に狙われた」


「っ⁉あなた、知って・・・」


 そもそもおかしい話だ。特に何も知らないはずの一国の姫が急にどこの誰とも知らない俺の協力者になりたいと言ってきた。カレン姫はアルナスさん、ひいてはオークスという国に対して自国に益のあると判断したから協力しようとした。本人も言っていたしね。


 だが、そんな殊勝な考えはこのお姫様にはない。大人しい口調だし、何もせずにじっとしていれば、まさに物語の中のお姫様だ。しかし、我が儘なのは隠し切れない。まあ、ハンクの時のこともあって大体分かったよ。しかし、流石はあのプリマ姫の血筋。逆にカレン姫はしっかりしてて怖いくらいだ。


「そんなわけで私はあなたに冒険者というものを体験はさせてあげますが、本当の冒険者にするつもりはありません」


 そうきっぱりと言い放つ。


「話がズレてしまいましたね。それじゃ服はこちらで用意しますので、少し待っていてくれますか?ああ、カレン姫もです。どうせ姉のことが心配で付いてくるつもりだったのでしょう?」


「ば、バレていましたか」


「まあ、なんだかんだで姉のことが好きそうだなと感じたので」


「冒険者の勘というものですか?」


「まあ、そんなところです。さあ、それじゃあ私はちょっとだけ席を外させてもらいますね」


 そうして俺はその場を後にする。




                ・・・




「それにしてもお姉様。あの方から言われっぱなしでしたね。どうしたのですか?急に黙り込んで」


「・・・」


「あれ?お姉様?」


「し」


「し?」


「ししょー‼」


「は、はいぃぃぃっ⁉」


 俺の知らない所で変なフラグが建ってしまった。このことに気が付くのは俺が服をうちの女性陣に見繕ってもらって帰った時という短い時間であった。




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