第238掌 温泉回・・・って言うほどではない
俺の頭の中はドナドナの歌が支配していた。
「ここが一番人気の温泉ですね」
リリアスを先頭に到着したのはヤームロ帝国でも一番と噂の露天風呂がある旅館だ。
「それはいいんだけど、いい加減離してくれない?逃げないって言っただろ?」
「だって、もしも転移されたら私達に追える手段はないもの」
アメリアが胸を俺の腕に押し付けながら言う。反対側にはカリーナさんの胸が押し当てられている。
「あ、あのあのあのっ⁉」
顔を真っ赤にして混乱気味に訴えかけてくるカリーナさん。あたふたしていても腕だけは離そうとしない辺り、自分でも役得だと考えているのかもしれない。ぶっちゃけ、俺も役得だと思っているし。なんだかんだ言いながらも、俺の仲間達は美少女、美人ばかりだ。ミールも愛嬌があって可愛らしい。そんな彼女達と混浴出来る。かなり嬉しい話だ。
だが、リリアス達は混浴というものをおそらく知らないだろう。知っていたらリリアス、カリーナさん辺りは絶対に俺と一緒に行こうと思わないだろう。あの二人は常識人だし、恥ずかしがり屋だからな。
「我慢しなさい。中に入ったら解放してあげるから。カリーナさんもなんだかんだ言いながら離していないんだし、大丈夫でしょ?」
「えぇっ⁉」
さらに上があるのかと言いたいぐらいに顔を真っ赤にさせるカリーナさん。ああ、アメリアにもバレバレなのね。まあ、顔が真っ赤で恥ずかしそうなのに腕を離そうとしないところを見たら誰にでも分かることか。
「皆さんいつまでそこで話しているんですかー⁉行きますよー!」
ミールが入り口で俺達に呼び掛ける。
それに応えるように俺達は旅館の中に入るのだった。
・・・
「は~。何度入っても温泉ってのはいいもんだな~」
露天風呂に誰も来ていないことを確認し、スキルを駆使して気配を消してから湯に浸かる。
やっぱり、根っからの日本人な俺。今までの冒険からはかつて無い程にだらけている。っていうか、日本を感じられるものがあると緩んじゃうんだよな~。この世界に来てから意外に時間も経っているし。そろそろ俺にもホームシックならぬ、ワールドシックがきているのかもしれない。
ちなみに、日本を感じられるものといっても我らがクラスメイト達はその限りではないけどな。結構この世界に染まっているだろうし、ライドーク神国に残ったクラスメイト達は帰る気があるのかすらあやふやだ。帰るつもりがあるならいい加減、国外に出て何かしらのアクションを起こすべきだからな。
と、ここまで考えてはみたものの、今考えても仕方ないことか。今はこの幸福感に全てを預けたい。
「あれ?タカキはどこ?」
ん?これはアメリアの声か?
「あれだけ露天風呂に来るようにって言ったのに」
あれから受付で露天風呂について説明された女性陣は頬を染めながらもここぞとばかりに俺に露天風呂に入るように念を押してから更衣室に入っていったからな。
ぞろぞろと露天風呂に入ってくる女性陣。
(おっと。うちの仲間の素肌を他の男の晒すのは嫌だからな)
魔法で結界を張り、露天風呂に入れないようにしておく。外からも覗けないようにっと。それに俺の社会生命の危険がないように仲間以外の女性が露天風呂に入って来ないようにしないと。
「もしかしたら、スキルを使って潜伏しているのかもしれません」
リリアスーッ!余計なことを言うんじゃない!このままいたけど、見つけられなかったってことにしてさっさと終わらせたかったのに!
「私達が泊っている旅館にもありましたけど、温泉に入るには規則があるんですね」
カリーナさんが不思議そうに露天風呂の脇に立て掛けてある、温泉に入ることに対するルールを見る。
一つ。温泉にタオルを入れてはいけない。
二つ。温泉に入るのは体を洗ってから。
三つ。温泉は皆で共有している場であることを理解すること。
等々。温泉に入るに当たって当たり前のことが書かれている。
「これ。一つだけ分からないことがあるんですけど」
「何ですか?」
リリアスの疑問にミールが聞く。
「一つ目の体をふく布を入れてはダメってどうしてなんだろうって思って」
「あー。確かに」
あーそれね。色々と説はあるけど、まあまずは不快な思いを他の人にさせないってことだな。タオルにはその人の汗や垢などの汚れが残っている場合がある。それを温泉の中に入れると誰だって嫌だろ?
他にも理由はあるだろうけど、俺はこれが一番の理由だと思っている。(個人の見解です)
「そんなことよりも、タカキ様を探しましょうよ!」
「そうですね。タカキさんったら。どこにいるんでしょうか?」
やばっ。もういいや。後は女性同士で仲良くやってくれ。一応露天風呂には来たし、皆とも一緒に入った。まあ、一緒にっていっても同じ時間に同じ場所で温泉に入っただけだけどな。それでも定義としては入っていることになるし、これで言い訳するには十分だろう。念のために入った証拠としてっと。
「リア。俺がここにいた証明を頼む」
『にゃ?』
異空間でリアのいる場所に繋げて証言者になってくれるように頼む。
「頼むよ。特にやましいことをしようって魂胆じゃないし」
『にゃにゃにゃ』
お。任せろって感じかな?
「サンキュー。それじゃ俺はここからフェードアウトだ」
俺の捜索が開始された辺りで俺は露天風呂から出た。
あとで色々と言われそうだけど、ここで気まずいことになるよりはマシだ。俺も思春期真っ盛り。下半身が勝手に反応してしまうことも当然ある。相手はあの女性陣だしな。
ここで逃げてて正解だよ。
この後、めちゃくちゃ怒られました。
結界消すの忘れてた・・・。
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